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9勇者の魔法
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「動くなといったはずだ」
駆け出した従者にロキは静かに間合いを詰め、背後から鞘に納まったままの剣で首の付け根に「トン」と軽く当てる。
従者は身体から力が抜けて糸が切れた人形のように静かに崩れ落ちた。
それと同時に俺の方も動く。
魔力を縄状に形成し三つに分裂させ、護衛二人とゴブル男爵の元へ向かわせる
本来は詠唱が必要だが俺は喋るのが得意ではないので無詠唱だ。
それは蛇のようにうねり、三人に巻き付くときつく締めあげる。
「なんだこれは!? こ、このワシにこのような仕打ちっ!許されると思うなよ!!!」
「うわぁ、絡みついてくる!?」
「ひぃぃ許してくれぇ!!」
冒険者時代、剣も覚えたが主に無尽蔵に湧き出る魔法で魔物たちと戦っていた。
だからこれくらいは朝飯前だ。
興奮しているようなのでついでにスリープも無詠唱でかけておく。
真上から降り注がれる金の粉に、三人はわめくのを止めてストンと深い眠りに落ちた。
「きれい…」
一番間近で俺の魔法を見ていた奴隷の少女が初めて言葉を発した。
深い海色の瞳を揺らめかせながらこちらを見ている。
確かにスリープの魔法は美しいと思う。
こんなもので少女の心が一瞬でも慰められるのならばよかった。
床に転がり眠り続ける男たち、それから周囲の感嘆の声を無視して少女の前で膝をつく。
そして深呼吸を一つ。
これをしないと緊張で言葉が出そうにない。
「よ、よ、良かったら、おれ、おれ、俺と一緒に来ない?…で、ですか? へ、変なことは、ぜ、絶対、しないから。ゆ、勇者、だから!」
どもりながら幼女を誘う己は性犯罪者にしか見えないだろう。
しかしここでも勇者という肩書が役に立つ。
騒がしかった周囲だが気付くと俺たちのやり取りを固唾を飲んで見守っていた。
少女は俺をジッと見つめ、それからコクリと頷く。
その瞬間、ワッと周囲から歓声が上がった。
「勇者様なら安心だ!」
「よかったなぁお嬢さん! あんた運が良い!」
「ゴブルの野郎ざまぁみろ! スカッとしたぜ」
「流石は勇者様と御付きの方だ。あんな素早い動き見たことない」
口々に褒めたたえられて恥ずかしかったが、やることはまだまだある。
「か、彼女の代金は、き、金貨10万枚で、も、問題ないだろうか? そ、それとも、もっと、ひ、必要ですか?」
まだ唖然としている奴隷商に尋ねると、はっと気を取り直して商売人の顔に戻る。
「本来売り物ではないのですが、奴隷本人が了承しているのであればその半分でも結構でございます。と言いたいところですが私も商売人。金貨10万枚のお申し出、遠慮なくお受けいたします」
「う、あ、う、は、はい…」
深々と頭を下げた奴隷商になんと返事をしたものかとみっともなく慌ててしまう。
そんな情けない俺の姿を気にすることない奴隷商は今後の手続きのあれやこれやを素早く説明。
金はあとで屋敷に直接取りに来てもらうことで話がまとまった。
そのあとは騒ぎを聞きつけた衛兵に眠り続けるゴブル男爵一行を引き渡した。
一応俺への暴行未遂ということで引っ張って貰う。
不敬罪も付けるかと聞かれたがそれはなかったことにしてもらう。
それを付けてしまうとゴブル男爵に脅されて仕方なく動こうとした護衛達の罪がかなり重くなってしまうのでそれは本意ではない。
しかし軽い罪では金を積めばゴブル男爵は翌日にでも檻から出てきてしまうだろう。
この世界の奴隷は主人の所有物でどのような扱いをしたところで誰にも非難されることはない。
俺もその権力を行使して禁忌である同性に告白を繰り返している。
しかしいくら同じ穴の狢と言えどもその鬼畜な所業は俺のいびつな価値観からも大きく逸脱している。
流石に見過ごすことは出来ない。
この男を野放しにする危険性をこの国の王に一筆書いておこうと思う。
なぜここの領主をすっ飛ばして王なのかと言えば、ゴブル男爵が商業ギルドに持つコネクションで幅を利かせているからだ。
領主に相談すると直接面会して事情を畏まった感じで説明しなければならない可能性が高いから嫌だとか、そんなコミュ障な理由ではない…断じて違う。
ギルドは国を跨いで世界各国で活動する独立組織なので、領主でも内部のごたごたに口を出すのは荷が重い。
だがさすがに一国の王の口添えがあればゴブル男爵の横暴さに加担した者の処分に商業ギルドも動かざるを得ないだろう。
権力にはさらに大きな権力で押しつぶすのが一番有効だという知識はこの世界で学んだことの一つである。
駆け出した従者にロキは静かに間合いを詰め、背後から鞘に納まったままの剣で首の付け根に「トン」と軽く当てる。
従者は身体から力が抜けて糸が切れた人形のように静かに崩れ落ちた。
それと同時に俺の方も動く。
魔力を縄状に形成し三つに分裂させ、護衛二人とゴブル男爵の元へ向かわせる
本来は詠唱が必要だが俺は喋るのが得意ではないので無詠唱だ。
それは蛇のようにうねり、三人に巻き付くときつく締めあげる。
「なんだこれは!? こ、このワシにこのような仕打ちっ!許されると思うなよ!!!」
「うわぁ、絡みついてくる!?」
「ひぃぃ許してくれぇ!!」
冒険者時代、剣も覚えたが主に無尽蔵に湧き出る魔法で魔物たちと戦っていた。
だからこれくらいは朝飯前だ。
興奮しているようなのでついでにスリープも無詠唱でかけておく。
真上から降り注がれる金の粉に、三人はわめくのを止めてストンと深い眠りに落ちた。
「きれい…」
一番間近で俺の魔法を見ていた奴隷の少女が初めて言葉を発した。
深い海色の瞳を揺らめかせながらこちらを見ている。
確かにスリープの魔法は美しいと思う。
こんなもので少女の心が一瞬でも慰められるのならばよかった。
床に転がり眠り続ける男たち、それから周囲の感嘆の声を無視して少女の前で膝をつく。
そして深呼吸を一つ。
これをしないと緊張で言葉が出そうにない。
「よ、よ、良かったら、おれ、おれ、俺と一緒に来ない?…で、ですか? へ、変なことは、ぜ、絶対、しないから。ゆ、勇者、だから!」
どもりながら幼女を誘う己は性犯罪者にしか見えないだろう。
しかしここでも勇者という肩書が役に立つ。
騒がしかった周囲だが気付くと俺たちのやり取りを固唾を飲んで見守っていた。
少女は俺をジッと見つめ、それからコクリと頷く。
その瞬間、ワッと周囲から歓声が上がった。
「勇者様なら安心だ!」
「よかったなぁお嬢さん! あんた運が良い!」
「ゴブルの野郎ざまぁみろ! スカッとしたぜ」
「流石は勇者様と御付きの方だ。あんな素早い動き見たことない」
口々に褒めたたえられて恥ずかしかったが、やることはまだまだある。
「か、彼女の代金は、き、金貨10万枚で、も、問題ないだろうか? そ、それとも、もっと、ひ、必要ですか?」
まだ唖然としている奴隷商に尋ねると、はっと気を取り直して商売人の顔に戻る。
「本来売り物ではないのですが、奴隷本人が了承しているのであればその半分でも結構でございます。と言いたいところですが私も商売人。金貨10万枚のお申し出、遠慮なくお受けいたします」
「う、あ、う、は、はい…」
深々と頭を下げた奴隷商になんと返事をしたものかとみっともなく慌ててしまう。
そんな情けない俺の姿を気にすることない奴隷商は今後の手続きのあれやこれやを素早く説明。
金はあとで屋敷に直接取りに来てもらうことで話がまとまった。
そのあとは騒ぎを聞きつけた衛兵に眠り続けるゴブル男爵一行を引き渡した。
一応俺への暴行未遂ということで引っ張って貰う。
不敬罪も付けるかと聞かれたがそれはなかったことにしてもらう。
それを付けてしまうとゴブル男爵に脅されて仕方なく動こうとした護衛達の罪がかなり重くなってしまうのでそれは本意ではない。
しかし軽い罪では金を積めばゴブル男爵は翌日にでも檻から出てきてしまうだろう。
この世界の奴隷は主人の所有物でどのような扱いをしたところで誰にも非難されることはない。
俺もその権力を行使して禁忌である同性に告白を繰り返している。
しかしいくら同じ穴の狢と言えどもその鬼畜な所業は俺のいびつな価値観からも大きく逸脱している。
流石に見過ごすことは出来ない。
この男を野放しにする危険性をこの国の王に一筆書いておこうと思う。
なぜここの領主をすっ飛ばして王なのかと言えば、ゴブル男爵が商業ギルドに持つコネクションで幅を利かせているからだ。
領主に相談すると直接面会して事情を畏まった感じで説明しなければならない可能性が高いから嫌だとか、そんなコミュ障な理由ではない…断じて違う。
ギルドは国を跨いで世界各国で活動する独立組織なので、領主でも内部のごたごたに口を出すのは荷が重い。
だがさすがに一国の王の口添えがあればゴブル男爵の横暴さに加担した者の処分に商業ギルドも動かざるを得ないだろう。
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