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26貴族の常識
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今日はセイレスと野菜の鉢植えを探しに街を散策して充実した一日であった。
夜になると俺と一緒に寝るのだと駄々をこね始めたセイレス。
一瞬それもいいかもしれないと頭によぎったが、思考を見透かすようにジョフィルが厳しい視線を送ってきたのですぐさま却下。
ぐずるセイレスをなんとか宥め、クローエさんに部屋に連れて行ってもらってようやく一息ついた時だった。
食堂でロキを見つけた。
一人寂しそうに酒を煽っている背中が気になって声をかける。
ロキはなんだか機嫌が悪そうだったが、普段真面目で気遣い屋さんなんだから、
酒を呑む時くらいストレスをぶつけてくれて構わない。
ここまで色々あったのだ。精神的に辛い時は吐き出すべきだ。
そう思っていたがしばらくするとロキは八つ当たりだったと己を顧みて謝罪を口にする。
こちらも重要な気づきを得たので本当に気にすることはないんだけどな。
何を気付いたかと言えば、俺ではセイレスを健全に育てることは不可能だということだ。
ロキは否定してくれたが、やはり同性愛者というこの世界の禁忌を犯すような人間は子供の育成に関わってはいけないに決まっている。
一人で張り切って暴走する前に気付けてよかった。
こうして俺のやることリストに「きちんとした養父母探し」が加わった。
それから珍しいことにロキとかなり会話が弾んだ。
セクハラにならないようにきちんと距離を保って向かいに座り、気づくと一緒にウイスキーを呑んでいた。
酒はサラリーマン時代に付き合いで呑む程度でそんなに強くはないが、別に嫌いではない。
ウイスキーはハイボールしか呑んだことがなかったが、ロックも甘くてなんだか美味しい気がする。
なんだ、案外俺ってイケる口だったのかと気分よくグラスの酒を飲み干す。
「ヒック、お、おで、ず、ずっと、い、一緒に居てくれる、こ、恋人…ほ、ほじかっだ、ヒック」
「そうですか。というか酔っていても噛むんですね」
相変わらずクールなロキ。
もっともっとロキのストレスを吐き出させようとしたつもりが、いつの間にか俺の愚痴を聞かせてしまっている。
しかし溢れる感情がセーブできない。
「で、で、でも、こ、この世界は、ど、ど、同性愛が、き、禁忌なんだよな…ヒック」
「別に禁忌ってほどじゃないですよ」
「え…?」
ロキの何気ないような一言にアルコールで浮かれていた脳内が一瞬で引き締まった。
「ど、ど、ど、どういう…? き、禁忌じゃ…?」
「そりゃノーマルじゃないですよ。世間的に歓迎されることじゃないし、やっぱりいい感情を持たない奴も多い。だが貴族じゃないんだから禁忌ってのは大袈裟ですよ。あ、マサキ様は勇者だから貴族になるのか?」
――貴族
その言葉にピンとくるものがある。
この世界に突然飛ばされた俺に常識を教えてくれたのはかつての冒険者パーティのメンバーだ。
それは有志の国でそれぞれ選出された優秀な人材であり、その誰もが一般人ではなく貴族かそれに類する者だった。
そして現在、俺の同性愛を激しく非難するジョフィルもまた、過去はどこかの立派な貴族子息だったはずだ。
「も、も、もしかして、き、貴族と平民の、ど、ど、同性愛への忌避感って、ち、違ったりするの?」
「そりゃあ違いますよ。貴族のことはよくわかりませんが、あの連中は血筋が死ぬほど大切なんでしょう? だったら子を残せない同性愛なんてけしからんってなるのは必然ですよ。裏ではどうか分かりませんが、公では同性愛なんて言葉も存在を許されてません」
「……」
まさに俺が教わったことと一致している。
存在自体が許されないおぞましい嗜好だと、汚らわしいとジョフィルは語っていた。
「だが平民はそこまで堅苦しい事は考えてません。数は少ないがマサキ様と同じような連中も隠れていますよ」
まさに視界が晴れた気がした。
この広い世界に誰か俺を受け入れてくれる男が存在する可能性がある…。
まだ恋人をあきらめなくても良いのかもしれない。
「確かこの街にも一軒、そういう連中が集まる酒場があるとか噂を耳にしたことが――」
「ええええ!!?」
さらりと告げられたロキの言葉に俺は思わず立ち上がった。
まさかこの世界にもゲイバーがあったとは…。
「そんなに驚きます?」
「あ、ご、ごめん」
俺のリアクションの激しさに引き気味のロキ。
少し冷静になって座りなおす。
「そ、それで、その、さ、酒場って、ど、どの辺に、あ、あるの?」
果たして一人でそんなところに行けるだろうかは別として、場所の確認はしなくては。
恋人にしようと奴隷を買っている奴が何を言うかと思われそうだが、常識知らずでコミュ障な俺がそんなところに行っては確実に浮く。心細い事この上ない。
「確かステイルボード通りの北で――あの、よければ今度一緒に行きますよ」
「…!? い、い、いいの!?」
「はい。その店は一般客も出入りできるようですし問題ありません」
「あ、あり、あり、ありがとう!!!!」
興奮して大きな声で礼を言った時だった。
「誰ですか、こんな夜更けに大きな声で騒いで」
ジョフィルが食堂の入口に立って訝しげにこちらを見ていた。
夜になると俺と一緒に寝るのだと駄々をこね始めたセイレス。
一瞬それもいいかもしれないと頭によぎったが、思考を見透かすようにジョフィルが厳しい視線を送ってきたのですぐさま却下。
ぐずるセイレスをなんとか宥め、クローエさんに部屋に連れて行ってもらってようやく一息ついた時だった。
食堂でロキを見つけた。
一人寂しそうに酒を煽っている背中が気になって声をかける。
ロキはなんだか機嫌が悪そうだったが、普段真面目で気遣い屋さんなんだから、
酒を呑む時くらいストレスをぶつけてくれて構わない。
ここまで色々あったのだ。精神的に辛い時は吐き出すべきだ。
そう思っていたがしばらくするとロキは八つ当たりだったと己を顧みて謝罪を口にする。
こちらも重要な気づきを得たので本当に気にすることはないんだけどな。
何を気付いたかと言えば、俺ではセイレスを健全に育てることは不可能だということだ。
ロキは否定してくれたが、やはり同性愛者というこの世界の禁忌を犯すような人間は子供の育成に関わってはいけないに決まっている。
一人で張り切って暴走する前に気付けてよかった。
こうして俺のやることリストに「きちんとした養父母探し」が加わった。
それから珍しいことにロキとかなり会話が弾んだ。
セクハラにならないようにきちんと距離を保って向かいに座り、気づくと一緒にウイスキーを呑んでいた。
酒はサラリーマン時代に付き合いで呑む程度でそんなに強くはないが、別に嫌いではない。
ウイスキーはハイボールしか呑んだことがなかったが、ロックも甘くてなんだか美味しい気がする。
なんだ、案外俺ってイケる口だったのかと気分よくグラスの酒を飲み干す。
「ヒック、お、おで、ず、ずっと、い、一緒に居てくれる、こ、恋人…ほ、ほじかっだ、ヒック」
「そうですか。というか酔っていても噛むんですね」
相変わらずクールなロキ。
もっともっとロキのストレスを吐き出させようとしたつもりが、いつの間にか俺の愚痴を聞かせてしまっている。
しかし溢れる感情がセーブできない。
「で、で、でも、こ、この世界は、ど、ど、同性愛が、き、禁忌なんだよな…ヒック」
「別に禁忌ってほどじゃないですよ」
「え…?」
ロキの何気ないような一言にアルコールで浮かれていた脳内が一瞬で引き締まった。
「ど、ど、ど、どういう…? き、禁忌じゃ…?」
「そりゃノーマルじゃないですよ。世間的に歓迎されることじゃないし、やっぱりいい感情を持たない奴も多い。だが貴族じゃないんだから禁忌ってのは大袈裟ですよ。あ、マサキ様は勇者だから貴族になるのか?」
――貴族
その言葉にピンとくるものがある。
この世界に突然飛ばされた俺に常識を教えてくれたのはかつての冒険者パーティのメンバーだ。
それは有志の国でそれぞれ選出された優秀な人材であり、その誰もが一般人ではなく貴族かそれに類する者だった。
そして現在、俺の同性愛を激しく非難するジョフィルもまた、過去はどこかの立派な貴族子息だったはずだ。
「も、も、もしかして、き、貴族と平民の、ど、ど、同性愛への忌避感って、ち、違ったりするの?」
「そりゃあ違いますよ。貴族のことはよくわかりませんが、あの連中は血筋が死ぬほど大切なんでしょう? だったら子を残せない同性愛なんてけしからんってなるのは必然ですよ。裏ではどうか分かりませんが、公では同性愛なんて言葉も存在を許されてません」
「……」
まさに俺が教わったことと一致している。
存在自体が許されないおぞましい嗜好だと、汚らわしいとジョフィルは語っていた。
「だが平民はそこまで堅苦しい事は考えてません。数は少ないがマサキ様と同じような連中も隠れていますよ」
まさに視界が晴れた気がした。
この広い世界に誰か俺を受け入れてくれる男が存在する可能性がある…。
まだ恋人をあきらめなくても良いのかもしれない。
「確かこの街にも一軒、そういう連中が集まる酒場があるとか噂を耳にしたことが――」
「ええええ!!?」
さらりと告げられたロキの言葉に俺は思わず立ち上がった。
まさかこの世界にもゲイバーがあったとは…。
「そんなに驚きます?」
「あ、ご、ごめん」
俺のリアクションの激しさに引き気味のロキ。
少し冷静になって座りなおす。
「そ、それで、その、さ、酒場って、ど、どの辺に、あ、あるの?」
果たして一人でそんなところに行けるだろうかは別として、場所の確認はしなくては。
恋人にしようと奴隷を買っている奴が何を言うかと思われそうだが、常識知らずでコミュ障な俺がそんなところに行っては確実に浮く。心細い事この上ない。
「確かステイルボード通りの北で――あの、よければ今度一緒に行きますよ」
「…!? い、い、いいの!?」
「はい。その店は一般客も出入りできるようですし問題ありません」
「あ、あり、あり、ありがとう!!!!」
興奮して大きな声で礼を言った時だった。
「誰ですか、こんな夜更けに大きな声で騒いで」
ジョフィルが食堂の入口に立って訝しげにこちらを見ていた。
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