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69指輪
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結局あれからショーンを探したが、見つからなかった。
彼が辞職の言葉を残したと屋敷のみんなに伝えると、アルはショックを受け、殺されかけたことがあるデイビッドはちょっとホッとし、ジョフィルは興味のなさそうな振りをしていたが少し心配そうだった。
俺はあの時、どう返事をすることが正解だったのだろうかとずっと自問自答している。
ショーンが苦しんでいるのなら話を聞きたい。
少しでもショーンへの手がかりがないかと街に繰り出した。
セイレスの出自を調べた時の調査人に依頼するか…しかし本人から辞める意思を示された以上、深入りしないのがいいのだろう。
でも…嫌がられても構わないからショーンともう一度会いたい。
堂々巡りになる思考の中、とりあえず自分の足で捜すことにした。
まだ街に居るかもしれない。バッタリ出会したりしないだろうかと一縷の望みをかける。
一番心配なことはショーンの魔力についてである。
この世界は魔力に溢れ、赤ん坊や死にかけの老人でさえも無意識に魔力を流すことが出来る。
だから日常生活のちょっとしたことでも魔力が必要な仕組みになっている。
実は蛇口あるし、水洗トイレやガスや電気も存在しているこの世界。
高価な魔石が必要なので一般人にはそこまで普及していないが、それでもランプや薪に火を付ける道具にも小さな魔石が入っている。
全てにおいて魔石を起動するのに極々少量の魔力を必要としている。
日常生活において魔力がないと不便なのだが——ショーンには魔力が全くない。
ショーンのその体質を知ってから屋敷の中は魔力がまったく必要ない仕組みになっている。
最初は業者に依頼しようとしたが、そんな無駄なことはしたことがないと断られてしまい、仕方なく自分で作り変えた。
本来なら軍事用に用いられる術式を応用して「蛇口から湯を出す」「部屋を明るくする」「コンロの火をつける」といった日常に必要な道具はすべて魔力なしで起動できるように改造しまくった。
恐らくショーン以外の人は気づいていないだろうが、この屋敷はまったく魔力を必要としない魔力バリアフリーな家になっている。
だから勝手にショーンは便利なこの屋敷にずっと居てくれるものだと思っていた。
今にして思えば凄く傲慢だった。
少し落ち込みながら街中をキョロキョロ見回す。
あてもない捜索に心は落ち込むばかりであるが、足は勝手に動いてしまう。
「あら? マサキ様?」
「ク、クローエさん…」
急に声を掛けられたかと思えば、クローエさんが佇んでいた。
「こんなところでお会いするなんて珍しいですわね。お買い物かしら?」
「い、いや、ショ、ショーンを探しに…」
未練がましいと思われるのが恥ずかしくて小声になる。
しかしクローエさんは至極真面目な顔をして頷く。
「そうでしたの。実は私もショーンを探していたのです。突然出て行ってしまって心配ですもの。良かったら一緒に探しましょう」
「ク、クローエさん…」
優しい言葉にジーンとしてしまう。
「ずっと気になっておりましたが、私だけさん付けで呼ばれるのは悲しいです。どうぞクローエとお呼びください」
「う、うん。わ、分かったよ、ク、ク、クローエ…」
照れくさそうに微笑むクローエは可愛かった。
恋愛感情を抜きにしても見惚れてしまう。
通り過ぎる通行人の男たちも彼女をチラチラと気にしているが、隣の俺を見て不可解そうな顔をする。
ショーンもクローエのことが好きだったはずだ。
この可愛さに釣られてうっかり出て来てはくれないものだろうか。
「あ…このお店…」
クローエがある店で立ち止まる。
高級そうな宝飾店だ。
「ど、どう、どうかしたか…?」
「いえ、気になっている指輪が店の目立つ場所に飾られていたのですが、それが無くなっちゃってる…売れたのかしら。ちょっと寄っていいですか?」
「え…う、うん」
本当はそんなことよりショーンを優先させたかったが断り切れずに店に入る。
「こんにちは」
「これはこれはいらっしゃいませ、クローエ様」
顔見知りらしい店主とにこやかに挨拶を交わすクローエの後ろにぼんやりと突っ立っている。
どこもかしこも高級そうで場違い感が半端ない。
「やや!もしやそちらの男性はご婚約者である勇者様ですか?」
「こ、こ、こ、婚約者!?」
「いやだわ、違うって言ったじゃないですか」
頬を染めつつ否定するクローエと、それを微笑ましそうに見守る店主。
そういえば屋敷を出入りする商人もそんなことを言っていた気がする。
正直婚約者と誤解されるのは戸惑いを感じる。
「ところであの指輪は売れてしまったのですか?」
「ああ、大丈夫ですよ。クローエ様がお気に召したようなので取り置いております」
「でも私にはとても…」
こちらをチラリと見るクローエ。
俺は早くショーン捜しを再開させたくて頷いた。
「お、お、俺が買うよ。い、いくらかな」
「そんなっ…良いのですか?」
「流石は勇者様。こちらは金貨40枚でございます」
「じゃ、じゃあください」
店主が出してきた大きな宝石の乗った指輪。
確か手持ちにそれくらいならあった筈だと空間魔法を開こうとした時である。
「ちょっと待ってくれ」
「フェ、フェリクス」
「まぁ!」
突然現れたフェリクスにクローエさんが嬉しそうな声を上げる。
「たまたま君たちを見かけてね。それでマサキ。女性に軽い気持ちで指輪を贈るのは感心しないな」
「そ、そうか…」
フェリクスに厳しい表情で注意される。
言われてみると、確かにこういうことをするから誤解されるのかもしれない。
「街では君には美しい女性の婚約者がいるなんて噂になっているよ」
間違いなくクローエのことだろう。
彼女にも申し訳ないし、軽率な行動だったな。
「今回は俺が買うから」
「まぁ!フェリクス様がっ…ありがとうございます!!」
物凄く嬉しそうにお礼を言うクローエ。
目がハートになっている。
しかし結婚予定なのにフェリクスこそ、別の女性に指輪なんて贈って大丈夫なのだろうか。
彼が辞職の言葉を残したと屋敷のみんなに伝えると、アルはショックを受け、殺されかけたことがあるデイビッドはちょっとホッとし、ジョフィルは興味のなさそうな振りをしていたが少し心配そうだった。
俺はあの時、どう返事をすることが正解だったのだろうかとずっと自問自答している。
ショーンが苦しんでいるのなら話を聞きたい。
少しでもショーンへの手がかりがないかと街に繰り出した。
セイレスの出自を調べた時の調査人に依頼するか…しかし本人から辞める意思を示された以上、深入りしないのがいいのだろう。
でも…嫌がられても構わないからショーンともう一度会いたい。
堂々巡りになる思考の中、とりあえず自分の足で捜すことにした。
まだ街に居るかもしれない。バッタリ出会したりしないだろうかと一縷の望みをかける。
一番心配なことはショーンの魔力についてである。
この世界は魔力に溢れ、赤ん坊や死にかけの老人でさえも無意識に魔力を流すことが出来る。
だから日常生活のちょっとしたことでも魔力が必要な仕組みになっている。
実は蛇口あるし、水洗トイレやガスや電気も存在しているこの世界。
高価な魔石が必要なので一般人にはそこまで普及していないが、それでもランプや薪に火を付ける道具にも小さな魔石が入っている。
全てにおいて魔石を起動するのに極々少量の魔力を必要としている。
日常生活において魔力がないと不便なのだが——ショーンには魔力が全くない。
ショーンのその体質を知ってから屋敷の中は魔力がまったく必要ない仕組みになっている。
最初は業者に依頼しようとしたが、そんな無駄なことはしたことがないと断られてしまい、仕方なく自分で作り変えた。
本来なら軍事用に用いられる術式を応用して「蛇口から湯を出す」「部屋を明るくする」「コンロの火をつける」といった日常に必要な道具はすべて魔力なしで起動できるように改造しまくった。
恐らくショーン以外の人は気づいていないだろうが、この屋敷はまったく魔力を必要としない魔力バリアフリーな家になっている。
だから勝手にショーンは便利なこの屋敷にずっと居てくれるものだと思っていた。
今にして思えば凄く傲慢だった。
少し落ち込みながら街中をキョロキョロ見回す。
あてもない捜索に心は落ち込むばかりであるが、足は勝手に動いてしまう。
「あら? マサキ様?」
「ク、クローエさん…」
急に声を掛けられたかと思えば、クローエさんが佇んでいた。
「こんなところでお会いするなんて珍しいですわね。お買い物かしら?」
「い、いや、ショ、ショーンを探しに…」
未練がましいと思われるのが恥ずかしくて小声になる。
しかしクローエさんは至極真面目な顔をして頷く。
「そうでしたの。実は私もショーンを探していたのです。突然出て行ってしまって心配ですもの。良かったら一緒に探しましょう」
「ク、クローエさん…」
優しい言葉にジーンとしてしまう。
「ずっと気になっておりましたが、私だけさん付けで呼ばれるのは悲しいです。どうぞクローエとお呼びください」
「う、うん。わ、分かったよ、ク、ク、クローエ…」
照れくさそうに微笑むクローエは可愛かった。
恋愛感情を抜きにしても見惚れてしまう。
通り過ぎる通行人の男たちも彼女をチラチラと気にしているが、隣の俺を見て不可解そうな顔をする。
ショーンもクローエのことが好きだったはずだ。
この可愛さに釣られてうっかり出て来てはくれないものだろうか。
「あ…このお店…」
クローエがある店で立ち止まる。
高級そうな宝飾店だ。
「ど、どう、どうかしたか…?」
「いえ、気になっている指輪が店の目立つ場所に飾られていたのですが、それが無くなっちゃってる…売れたのかしら。ちょっと寄っていいですか?」
「え…う、うん」
本当はそんなことよりショーンを優先させたかったが断り切れずに店に入る。
「こんにちは」
「これはこれはいらっしゃいませ、クローエ様」
顔見知りらしい店主とにこやかに挨拶を交わすクローエの後ろにぼんやりと突っ立っている。
どこもかしこも高級そうで場違い感が半端ない。
「やや!もしやそちらの男性はご婚約者である勇者様ですか?」
「こ、こ、こ、婚約者!?」
「いやだわ、違うって言ったじゃないですか」
頬を染めつつ否定するクローエと、それを微笑ましそうに見守る店主。
そういえば屋敷を出入りする商人もそんなことを言っていた気がする。
正直婚約者と誤解されるのは戸惑いを感じる。
「ところであの指輪は売れてしまったのですか?」
「ああ、大丈夫ですよ。クローエ様がお気に召したようなので取り置いております」
「でも私にはとても…」
こちらをチラリと見るクローエ。
俺は早くショーン捜しを再開させたくて頷いた。
「お、お、俺が買うよ。い、いくらかな」
「そんなっ…良いのですか?」
「流石は勇者様。こちらは金貨40枚でございます」
「じゃ、じゃあください」
店主が出してきた大きな宝石の乗った指輪。
確か手持ちにそれくらいならあった筈だと空間魔法を開こうとした時である。
「ちょっと待ってくれ」
「フェ、フェリクス」
「まぁ!」
突然現れたフェリクスにクローエさんが嬉しそうな声を上げる。
「たまたま君たちを見かけてね。それでマサキ。女性に軽い気持ちで指輪を贈るのは感心しないな」
「そ、そうか…」
フェリクスに厳しい表情で注意される。
言われてみると、確かにこういうことをするから誤解されるのかもしれない。
「街では君には美しい女性の婚約者がいるなんて噂になっているよ」
間違いなくクローエのことだろう。
彼女にも申し訳ないし、軽率な行動だったな。
「今回は俺が買うから」
「まぁ!フェリクス様がっ…ありがとうございます!!」
物凄く嬉しそうにお礼を言うクローエ。
目がハートになっている。
しかし結婚予定なのにフェリクスこそ、別の女性に指輪なんて贈って大丈夫なのだろうか。
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