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68侵入者
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休暇申請期間までに屋敷に戻らなかったショーンは今日とうとう無断欠勤になった。
アルも心配していたが、どこにいるのか見当がつかないらしい。
ジョフィルがショーンをクビにするとプンプンしていたのを宥めるのが大変だった。
なんとなくモヤモヤを抱えた日だったなと、ベッドの中で目を瞑り1日を振り返っていた時である。
——カタ
微かな音と共に窓が開いて誰かが侵入してくる気配に目を開ける。
ここは2階で、そこをあっさり侵入してきたとなれば、なんらかの技術を持った人物と推測できる。
侵入したのが俺の部屋で良かった。
屋敷にはセイレスやクローエさんも居る。
絶対に取り逃すまいと、寝たフリで相手が完全に侵入して来るのを待った。
侵入者は足音を殺して真っ直ぐこちらにやってくる。
殆ど気配を感じさせない身のこなしからして、もしかしたらただの泥棒ではないのかもしれないと益々警戒度が増す。
男は俺のベッドの真横で止まった。
部屋を物色するでもなくそこに留まりジッとしているのが分かる。
俺自身を害するのが目的だろうか。
一応勇者という肩書にはそういう厄介な性質も付随することは承知している。
負ける気はしないが、取り逃がすわけにはいかないので相手の出方を慎重に待つことにする。
侵入者がこちらに手を伸ばしてくる。
それが首付近に近づいてきた時、触れると電撃で痺れるように自分の首に魔力を纏わせたが、侵入者の手は首をスルーして頬に触れた。
脆い物に触れるかのように柔らかい手つきが意外過ぎて、反撃を忘れてしまう。
もしかして危害を加えるつもりはないのか?
困惑しているうちに侵入者の親指の腹が俺の唇をなぞるように触れる。
何がしたいのだろうか。
相手の目的が分からず動けないでいたのだが、俺の戸惑いをよそに侵入者が俺の上に跨ってきた。
そして侵入者の顔が近づいて、唇が重ねられた。
「んんん…!?」
突然のことに頭がついていかない。
だが薄暗い中で侵入者が何者なのか確認した俺は、彼に対して反撃しようという思いは消え去っていた。
俺が何もする気がないと知ったからか口づけが激しくなる。
口内に舌が侵入してきて、彼の気ままな性格と同様に俺の中を好きに動き回る。
甘い痺れが脳に伝わるが、彼の真意が理解できずにその疑問の方が強く俺を支配する。
「ちょ、ん、んん、ま、待て…! んぐっ…!」
「……」
どうしよう。全然止まる気配がない。
それどころか彼の手が俺の下半身に伸ばされていることに気付き、仕方なく口内を蹂躙する舌を強めに噛んだ。
「っ…! 痛って…酷いじゃないっすか、マサキ様」
「ショ、ショーン…な、なんの、つ、つもりだ?」
俺の噛んだ舌をベッと出して顔を歪ませているショーンに尋ねる。
「マサキ様には世話になってますから。誰にも相手にされず可哀そうなご主人様に、たまにはご奉仕してやろうと思ってさ」
「け、け、結構だ!」
「なんで?意地悪しすぎたから俺の事嫌いになっちゃった?」
「ショ、ショーンがどうとかじゃなくて、お、俺は、そ、そ、そういうことだけを、し、したいわけじゃない」
「そう言うなって。いっぱいご奉仕してやるからさ。最高に気持ちよくしてやるよ」
「……」
いつものようにヘラヘラとからかっている顔をしているショーンをジッと見つめる。
何も言わずにそうしているとショーンの瞳に苛立ちの色が灯る。
「そのために奴隷を買ってるんだろ?ただヘタレのアンタは悪者になる覚悟もないから、命令も出来ずにただ受け入れてくれる奴が現れるまで待っているだけだ。結局誰の事も好きじゃない。アンタが好きなのはアンタだけだ」
痛い所を突かれた。
元奴隷の彼らに恋をした気持ちに嘘はないが、嫌われる勇気がなくて偽善者ぶっていると言われればその通りである。
結局自分のことしか考えられない自己中だから、ショーンがこんなに苦しんでいることに気付いてあげられなかったんだ。
「ご、ごめん、ショ、ショーン」
「何を謝ってるんですか」
「な、何かあったんだろ?は、話してくれ…」
ショーンが一瞬驚いた表情をしたが、その直後に明らかに怒りの表情に変わった。
「黙れよ…! この無神経鈍感野郎…! 人がどんな気持ちでアンタの側にいるか分かってんのかよ。何度も何度も別の男に惚れやがって…! その度に俺達がどんな辛い思いしてるか考えもしねぇくせに…!」
「え、え…?」
思ってもみない方向で責められて頭が混乱する。
俺が誰を好きになってもショーンにはあまり関係ないような?
「………」
「ショ、ショーン…?」
返答に困っていると、無言で抱きしめられた。
首筋に顔を寄せられて匂いを嗅がれている気がした。
加齢臭とか…まだしてないよな?
「俺と…俺と一緒にここから逃げてくれませんか?」
「え…?」
かすれた声で呟かれた言葉を思わず聞き返す。
「誰も知らない国でさ、二人で暮らすんです。全部置いて二人だけで…」
なんだかショーンの声が泣いているように聞こえた。
「そ、それは…で、出来ない」
セイレスを置いていくわけにはいかないし、ジョフィルたちだってきっと困る。
「そうですよね」
いつもの皮肉気な笑顔でニッと笑うショーン。
俺の上から離れると、侵入してきた窓まで歩く。
そして窓枠に足をかけてこちらに振り返った。
「俺、今日でやめさせてもらいます。マサキ様のセクハラに耐えられなくなったんで」
「ま、待ってくれ、ショ、ショーン…!」
「今までお世話になりました」
手をひらひらと振ったショーンはこちらの制止も空しくヒョイと2階から飛び降りてしまった。
残された薄暗い部屋の中、俺は茫然と固まっていた。
アルも心配していたが、どこにいるのか見当がつかないらしい。
ジョフィルがショーンをクビにするとプンプンしていたのを宥めるのが大変だった。
なんとなくモヤモヤを抱えた日だったなと、ベッドの中で目を瞑り1日を振り返っていた時である。
——カタ
微かな音と共に窓が開いて誰かが侵入してくる気配に目を開ける。
ここは2階で、そこをあっさり侵入してきたとなれば、なんらかの技術を持った人物と推測できる。
侵入したのが俺の部屋で良かった。
屋敷にはセイレスやクローエさんも居る。
絶対に取り逃すまいと、寝たフリで相手が完全に侵入して来るのを待った。
侵入者は足音を殺して真っ直ぐこちらにやってくる。
殆ど気配を感じさせない身のこなしからして、もしかしたらただの泥棒ではないのかもしれないと益々警戒度が増す。
男は俺のベッドの真横で止まった。
部屋を物色するでもなくそこに留まりジッとしているのが分かる。
俺自身を害するのが目的だろうか。
一応勇者という肩書にはそういう厄介な性質も付随することは承知している。
負ける気はしないが、取り逃がすわけにはいかないので相手の出方を慎重に待つことにする。
侵入者がこちらに手を伸ばしてくる。
それが首付近に近づいてきた時、触れると電撃で痺れるように自分の首に魔力を纏わせたが、侵入者の手は首をスルーして頬に触れた。
脆い物に触れるかのように柔らかい手つきが意外過ぎて、反撃を忘れてしまう。
もしかして危害を加えるつもりはないのか?
困惑しているうちに侵入者の親指の腹が俺の唇をなぞるように触れる。
何がしたいのだろうか。
相手の目的が分からず動けないでいたのだが、俺の戸惑いをよそに侵入者が俺の上に跨ってきた。
そして侵入者の顔が近づいて、唇が重ねられた。
「んんん…!?」
突然のことに頭がついていかない。
だが薄暗い中で侵入者が何者なのか確認した俺は、彼に対して反撃しようという思いは消え去っていた。
俺が何もする気がないと知ったからか口づけが激しくなる。
口内に舌が侵入してきて、彼の気ままな性格と同様に俺の中を好きに動き回る。
甘い痺れが脳に伝わるが、彼の真意が理解できずにその疑問の方が強く俺を支配する。
「ちょ、ん、んん、ま、待て…! んぐっ…!」
「……」
どうしよう。全然止まる気配がない。
それどころか彼の手が俺の下半身に伸ばされていることに気付き、仕方なく口内を蹂躙する舌を強めに噛んだ。
「っ…! 痛って…酷いじゃないっすか、マサキ様」
「ショ、ショーン…な、なんの、つ、つもりだ?」
俺の噛んだ舌をベッと出して顔を歪ませているショーンに尋ねる。
「マサキ様には世話になってますから。誰にも相手にされず可哀そうなご主人様に、たまにはご奉仕してやろうと思ってさ」
「け、け、結構だ!」
「なんで?意地悪しすぎたから俺の事嫌いになっちゃった?」
「ショ、ショーンがどうとかじゃなくて、お、俺は、そ、そ、そういうことだけを、し、したいわけじゃない」
「そう言うなって。いっぱいご奉仕してやるからさ。最高に気持ちよくしてやるよ」
「……」
いつものようにヘラヘラとからかっている顔をしているショーンをジッと見つめる。
何も言わずにそうしているとショーンの瞳に苛立ちの色が灯る。
「そのために奴隷を買ってるんだろ?ただヘタレのアンタは悪者になる覚悟もないから、命令も出来ずにただ受け入れてくれる奴が現れるまで待っているだけだ。結局誰の事も好きじゃない。アンタが好きなのはアンタだけだ」
痛い所を突かれた。
元奴隷の彼らに恋をした気持ちに嘘はないが、嫌われる勇気がなくて偽善者ぶっていると言われればその通りである。
結局自分のことしか考えられない自己中だから、ショーンがこんなに苦しんでいることに気付いてあげられなかったんだ。
「ご、ごめん、ショ、ショーン」
「何を謝ってるんですか」
「な、何かあったんだろ?は、話してくれ…」
ショーンが一瞬驚いた表情をしたが、その直後に明らかに怒りの表情に変わった。
「黙れよ…! この無神経鈍感野郎…! 人がどんな気持ちでアンタの側にいるか分かってんのかよ。何度も何度も別の男に惚れやがって…! その度に俺達がどんな辛い思いしてるか考えもしねぇくせに…!」
「え、え…?」
思ってもみない方向で責められて頭が混乱する。
俺が誰を好きになってもショーンにはあまり関係ないような?
「………」
「ショ、ショーン…?」
返答に困っていると、無言で抱きしめられた。
首筋に顔を寄せられて匂いを嗅がれている気がした。
加齢臭とか…まだしてないよな?
「俺と…俺と一緒にここから逃げてくれませんか?」
「え…?」
かすれた声で呟かれた言葉を思わず聞き返す。
「誰も知らない国でさ、二人で暮らすんです。全部置いて二人だけで…」
なんだかショーンの声が泣いているように聞こえた。
「そ、それは…で、出来ない」
セイレスを置いていくわけにはいかないし、ジョフィルたちだってきっと困る。
「そうですよね」
いつもの皮肉気な笑顔でニッと笑うショーン。
俺の上から離れると、侵入してきた窓まで歩く。
そして窓枠に足をかけてこちらに振り返った。
「俺、今日でやめさせてもらいます。マサキ様のセクハラに耐えられなくなったんで」
「ま、待ってくれ、ショ、ショーン…!」
「今までお世話になりました」
手をひらひらと振ったショーンはこちらの制止も空しくヒョイと2階から飛び降りてしまった。
残された薄暗い部屋の中、俺は茫然と固まっていた。
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