67 / 72
67婚前
しおりを挟む
ウォレント視点
休日のある日、マサキ様でも美味しく食べられるトマトはないかと市場を探してみることにした。
いざ出発しようとしたところでマサキ様とばったり遭遇。
マサキ様も街に行こうとしていたらしく、一緒に行くことになった。
大方、奴隷館で新しく執心している奴隷でも見に行くのだろう。
少し後ろを離れて歩くマサキ様に隣に並ぶように言えば、照れくさそうに頬を染めるのがなんだか可愛い。
屋敷から街の真ん中まで来たときだった。
マサキ様の目当ての奴隷館の横に馬車が付けられているのが目に入る。
そこからボロをまとった人間が手錠をされて複数ずらずらと館の中に連行されている。
恐らく奴隷市場で買い取った奴隷たちだろう。
どん底だったあの時、自分もあんな風に移送されたのだろうが当時の記憶は曖昧であまり覚えていない。
今こうして他人事として彼らを眺めているのが不思議だ。
珍しい光景に思わず見入っていると——
「おい!離せよ!俺を誰だと思ってやがる!」
「離して!これは何かの間違えなの!」
「奴隷共!大人しくしろ!」
まだ自分が奴隷落ちしたことを自覚していない奴らがいるらしい。
男女が大声で騒ぎ立てて押さえつけられている。
その男女の顔を見て、心臓が大きな鼓動を鳴らした。
元妻と元親友の二人だった。
髪を振り乱し肌は薄汚れ頬がこけた姿はかつての面影はあまりなく、惨めを全身で体現している。
俺の金で遊び過ぎたか、何か事業でも起こして失敗したか。
思いがけず勝手に落ちぶれた二人を前に俺はただただ呆然とする。
「ウォ、ウォレント? だ、大丈夫か?」
立ち止まって一点を凝視する俺を不審に思ったのだろう。
マサキ様が心配そうにこちらを覗き込んでくる。
気弱そうに下がった眉を見て、俺は忘れていた呼吸を再開する。
そうだ、俺はもうこの人に救われたのだ。
あの悪夢に囚われる必要はない。
そう自分に言い聞かせるが心臓の鼓動が速いことに気付いてしまう。
「なんだあの奴隷たち。みっともねぇな」
野次馬たちが二人を見て嘲笑うのが聞こえる。
「見てくれも悪いし躾もなってねぇ」
「あいつら二束三文だろう。女の方は金貨20枚、男は30枚ってところだろうな」
「なんだ、女の方が安いのか?女の奴隷は色々需要あるだろ」
「ばっか、ありゃとうが立ち過ぎだ。需要なんて場末の寂れた娼館くらいなもんだ」
「そうか、男なら鉱山とかガレー船送りで一生強制労働ってことも出来るのか」
野次馬たちの言葉に無意識に脳が動く。
元妻は金貨20枚、元親友は30枚。
俺が屋敷で貯めた貯金は金貨40枚だ。
二人は救えない…。
こんな時に、脳裏で楽しかった二人の思い出が浮かんでは消える。
「た、体調悪い?ど、どこかで休むか?」
縋るようにマサキ様を見る。
「…愛する妻とかけがえのない親友。二人が同時に崖から足を滑らせて死にそうになっていたら、マサキ様ならどちらを助けますか?」
「え? え? 何そのドキドキ二択クイズ…」
急に訳の分からないことを言い始めた俺に戸惑いを見せるマサキ様。
ダメだ、困らせてどうするんだ俺。
「変なこと言ってすみません、忘れて下さい」
「そ、そ、それは、ど、どうしても、どちらかしか助けられないのか?」
「…はい、そうですね」
切り上げようとしたが、案外乗ってくれた。
少しだけ難しい顔をして思案したあと、こちらに顔を向ける。
「お、俺は、ど、どっちも助けない」
「え!? どちらかは助かるのに?」
「か、片方だけ助けたら、き、きっと一生苦しむ。そ、それはどちらを選択しても、か、変わらない。だ、だったら俺は、ふ、二人を見捨てて、さ、先に崖から飛び降りて死ぬ」
「先に死ぬ!?」
思いもよらない回答に絶句する。
「だ、だって、崖に落ちたのは、ふ、二人の落ち度だ。だ、だから助けない選択をしても、お、俺に責任はない」
責任はない。
それは俺を全面的に肯定する言葉に思えた。
「で、でも俺は、き、きっと罪悪感で、い、生きていけないから、ふ、二人より先に逝く。ふ、二人の死を見なくて済む」
ああ、なんて勝手な人だろうか。
ピンチを助けるでもなく、自分が必死に欲している生を簡単に手放すマサキ様を、二人はきっと怨みながら死ぬだろう。
それでもこの人の気持ちはそれで救われるんだ。
そう、俺は二人に裏切られたあの時に死んだ。
だから今ここに居る俺は全くの別人。
マサキ様の為に料理を作り続ける料理人だ。
未だ往生際悪く暴れる元親友と目が合った。
俺に気付いて驚愕したようだが、すぐにその目に希望の色が現れる。
「お、おい!助けてくれ!」
俺は隣のマサキ様の肩を慌てて引き寄せて踵を返す。
元親友はツラがいい。
うっかりマサキ様が惚れたら面倒だ。
「ウォ、ウォレント?」
「あっちに美味そうなトマトが売ってました。見に行きましょう」
「う…ト、トマト」
後ろで奴隷が騒いでいたがもう気にすることはなかった。
お前が叫んでいる相手はただの亡霊だ馬鹿野郎。
最近、ジョフィルが何かを察して警戒したのか厨房で手伝いを買って出たり、毒見をするようになった。
マサキ様を守る為なのでこちらとしては悪いことは何もしていないつもりだが、世間一般から見て外聞が悪いのは確かだ。
仕方なく控えて、マサキ様が一人の時に隙を見てお茶に混入するくらいしか出来ず大変不満である。
ある時、マサキ様が子を孕むことが出来ること、この屋敷を離れて俺との子を望んでいたことを知る。
天啓を受けるとはまさにこのこと。
家族のように大切に思っていたが、俺の妻にするという発想はなかった。
なぜ今まで思いつかなかったのだろう。
しかも俺の精液をマサキ様のナカに出す?
今まで精々が血や唾液をほんの少量だったが、それなら俺をたっぷりとマサキ様に仕舞える。
それでマサキ様のナカで生成されて生まれ出た俺たちの子…最強のお守りの完成だ。
惚れっぽいマサキ様の性質は多少心配だが、数多くの男たちの中で結局選ばれたのは俺だ。
結婚前の火遊びくらいは年上の余裕を見せなければいけないのかもしれないな…。
休日のある日、マサキ様でも美味しく食べられるトマトはないかと市場を探してみることにした。
いざ出発しようとしたところでマサキ様とばったり遭遇。
マサキ様も街に行こうとしていたらしく、一緒に行くことになった。
大方、奴隷館で新しく執心している奴隷でも見に行くのだろう。
少し後ろを離れて歩くマサキ様に隣に並ぶように言えば、照れくさそうに頬を染めるのがなんだか可愛い。
屋敷から街の真ん中まで来たときだった。
マサキ様の目当ての奴隷館の横に馬車が付けられているのが目に入る。
そこからボロをまとった人間が手錠をされて複数ずらずらと館の中に連行されている。
恐らく奴隷市場で買い取った奴隷たちだろう。
どん底だったあの時、自分もあんな風に移送されたのだろうが当時の記憶は曖昧であまり覚えていない。
今こうして他人事として彼らを眺めているのが不思議だ。
珍しい光景に思わず見入っていると——
「おい!離せよ!俺を誰だと思ってやがる!」
「離して!これは何かの間違えなの!」
「奴隷共!大人しくしろ!」
まだ自分が奴隷落ちしたことを自覚していない奴らがいるらしい。
男女が大声で騒ぎ立てて押さえつけられている。
その男女の顔を見て、心臓が大きな鼓動を鳴らした。
元妻と元親友の二人だった。
髪を振り乱し肌は薄汚れ頬がこけた姿はかつての面影はあまりなく、惨めを全身で体現している。
俺の金で遊び過ぎたか、何か事業でも起こして失敗したか。
思いがけず勝手に落ちぶれた二人を前に俺はただただ呆然とする。
「ウォ、ウォレント? だ、大丈夫か?」
立ち止まって一点を凝視する俺を不審に思ったのだろう。
マサキ様が心配そうにこちらを覗き込んでくる。
気弱そうに下がった眉を見て、俺は忘れていた呼吸を再開する。
そうだ、俺はもうこの人に救われたのだ。
あの悪夢に囚われる必要はない。
そう自分に言い聞かせるが心臓の鼓動が速いことに気付いてしまう。
「なんだあの奴隷たち。みっともねぇな」
野次馬たちが二人を見て嘲笑うのが聞こえる。
「見てくれも悪いし躾もなってねぇ」
「あいつら二束三文だろう。女の方は金貨20枚、男は30枚ってところだろうな」
「なんだ、女の方が安いのか?女の奴隷は色々需要あるだろ」
「ばっか、ありゃとうが立ち過ぎだ。需要なんて場末の寂れた娼館くらいなもんだ」
「そうか、男なら鉱山とかガレー船送りで一生強制労働ってことも出来るのか」
野次馬たちの言葉に無意識に脳が動く。
元妻は金貨20枚、元親友は30枚。
俺が屋敷で貯めた貯金は金貨40枚だ。
二人は救えない…。
こんな時に、脳裏で楽しかった二人の思い出が浮かんでは消える。
「た、体調悪い?ど、どこかで休むか?」
縋るようにマサキ様を見る。
「…愛する妻とかけがえのない親友。二人が同時に崖から足を滑らせて死にそうになっていたら、マサキ様ならどちらを助けますか?」
「え? え? 何そのドキドキ二択クイズ…」
急に訳の分からないことを言い始めた俺に戸惑いを見せるマサキ様。
ダメだ、困らせてどうするんだ俺。
「変なこと言ってすみません、忘れて下さい」
「そ、そ、それは、ど、どうしても、どちらかしか助けられないのか?」
「…はい、そうですね」
切り上げようとしたが、案外乗ってくれた。
少しだけ難しい顔をして思案したあと、こちらに顔を向ける。
「お、俺は、ど、どっちも助けない」
「え!? どちらかは助かるのに?」
「か、片方だけ助けたら、き、きっと一生苦しむ。そ、それはどちらを選択しても、か、変わらない。だ、だったら俺は、ふ、二人を見捨てて、さ、先に崖から飛び降りて死ぬ」
「先に死ぬ!?」
思いもよらない回答に絶句する。
「だ、だって、崖に落ちたのは、ふ、二人の落ち度だ。だ、だから助けない選択をしても、お、俺に責任はない」
責任はない。
それは俺を全面的に肯定する言葉に思えた。
「で、でも俺は、き、きっと罪悪感で、い、生きていけないから、ふ、二人より先に逝く。ふ、二人の死を見なくて済む」
ああ、なんて勝手な人だろうか。
ピンチを助けるでもなく、自分が必死に欲している生を簡単に手放すマサキ様を、二人はきっと怨みながら死ぬだろう。
それでもこの人の気持ちはそれで救われるんだ。
そう、俺は二人に裏切られたあの時に死んだ。
だから今ここに居る俺は全くの別人。
マサキ様の為に料理を作り続ける料理人だ。
未だ往生際悪く暴れる元親友と目が合った。
俺に気付いて驚愕したようだが、すぐにその目に希望の色が現れる。
「お、おい!助けてくれ!」
俺は隣のマサキ様の肩を慌てて引き寄せて踵を返す。
元親友はツラがいい。
うっかりマサキ様が惚れたら面倒だ。
「ウォ、ウォレント?」
「あっちに美味そうなトマトが売ってました。見に行きましょう」
「う…ト、トマト」
後ろで奴隷が騒いでいたがもう気にすることはなかった。
お前が叫んでいる相手はただの亡霊だ馬鹿野郎。
最近、ジョフィルが何かを察して警戒したのか厨房で手伝いを買って出たり、毒見をするようになった。
マサキ様を守る為なのでこちらとしては悪いことは何もしていないつもりだが、世間一般から見て外聞が悪いのは確かだ。
仕方なく控えて、マサキ様が一人の時に隙を見てお茶に混入するくらいしか出来ず大変不満である。
ある時、マサキ様が子を孕むことが出来ること、この屋敷を離れて俺との子を望んでいたことを知る。
天啓を受けるとはまさにこのこと。
家族のように大切に思っていたが、俺の妻にするという発想はなかった。
なぜ今まで思いつかなかったのだろう。
しかも俺の精液をマサキ様のナカに出す?
今まで精々が血や唾液をほんの少量だったが、それなら俺をたっぷりとマサキ様に仕舞える。
それでマサキ様のナカで生成されて生まれ出た俺たちの子…最強のお守りの完成だ。
惚れっぽいマサキ様の性質は多少心配だが、数多くの男たちの中で結局選ばれたのは俺だ。
結婚前の火遊びくらいは年上の余裕を見せなければいけないのかもしれないな…。
1,226
あなたにおすすめの小説
落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした
444
BL
『醜い顔…汚らしい』
幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。
だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。
その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話
暴力表現があるところには※をつけております
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。
また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる