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66お守り
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*ウォレント視点
俺の人生は途中まで順風満帆だった。
有名店で修行を積んで、夢だったレストランを開業。
同時に長年付き合った恋人と結婚した。
レストランも評判が良く連日予約で満席。
そろそろ子どもが欲しいなんて妻と相談もしていたのに。
ある日突然妻が俺の親友だと思っていた男と駆け落ちした。
青天の霹靂で呆然とする俺に追い討ちがかけられる。
勝手に俺の名義で借金し、更に大切な店の権利書まで書き換えられていたことが発覚する。
もうここまで来ると笑うしかなかった。
奴隷落ちが決定した時には悟りを開いたかのように達観した気持ちで受け入れた。
俺を引き取ったのはなんと勇者であるマサキ様だった。
しかも俺に一目惚れしたというのだから驚きだ。
こちらの反応を気にしながら可哀想に思えるほど卑屈な態度で告白されて正直同情はしたが、男なんて冗談じゃない。
男とキスやセックスなんて、そんな変態みたいなことは死んでもしたくない。
だがこの人に嫌われることは極力避けねば俺の人生はそこで終わりかねない。
考えた末の返答は“死んだ妻に操を立てたい”だった。
これなら同情も引けるし、俺の中ではすでに死んだも同然だったから嘘という感覚も少ない。
マサキ様はそれを真に受けたようで、やたら深刻そうな顔をして頷いた。
その後奴隷から解放された俺は馬鹿みたいに広くて綺麗で設備の整った厨房を任されることに。
料理人ならば誰でも一度は憧れる空間に感動したのを今でも覚えている。
ジョフィルも多少料理は出来るようだが、基本的には全部俺に任せたいとのことだ。
おまけに賃金と休みも貰えるときたもんだ。
王城勤めのエリートよりも高給で、休みも週2日なんて貰いすぎだと思う。
詰んだと思っていた俺の人生だったが、地の底に落ちたらマサキ様により簡単に引き戻された。
良妻や親友の顔をして人を陥れる奴もいれば、奴隷を弄ぶ素振りでただ人助けをする奴もいる。
世の中分からないものだ。
ただ受けた恩に報いようと、毎食心を込めてマサキ様の飯を作った。
マサキ様はそれを本当に美味そうに食ってくれる。
異世界人らしく初めて口にする料理も多いようで、一口食べては一々驚きや喜びの表情をするマサキ様をなんとなく厨房から覗き見るのが好きだった。
マサキ様は誰にでも惚れてしまう厄介な性質を持っているようで、奴隷を連れてきては振られている。
奴隷にどんなに冷たく袖にされても絶対に雑にはせず、解放して丁重に扱う。
俺も嘘なんか吐かずに正直に拒絶しても問題なかったと今なら分かる。
野生動物の放獣のようにさっさと逃げ出す元奴隷も多いが、マサキ様がどこまでも下手にチヤホヤするものだから調子に乗って屋敷に居着く者も少なくない。
受け入れるつもりもないくせに好意だけ受け取る奴らに最初は苛立ちも覚えたが、マサキ様の興味が徐々に他所に移ったことを感じ取り、疑問と焦りに支配されて苦しむ姿を見ているうちに哀れに感じてきた。
もちろん俺も通った道だ。
結構残酷なことをしていると思うが、マサキ様にはその自覚がないらしい。
あれはちょっと何かが歪みそうになる。
本人は言葉にしないが、どうやらマサキ様は生のトマトが苦手らしい。
この地方のトマトは酸味が強く皮が厚いので生では確かに食べにくい。
今まで嬉しそうに食べていも、トマトの時だけちょっと手が止まる。
一瞬息を止めて口に運ぶのを何度も見た。
サラダのトマトなんて残しても問題ないだろうに、律儀に頑張って完食する様子が微笑ましい。
生野菜全般が嫌いなショーンによく押し付けられており、当然その中にトマトもあるが涙目で食べて決して残そうとはしない。
主人なのに何やってるんだこの人は…。
この頃になると俺はマサキ様の食事を見守らなければ気が済まなくなっていた。
奴隷になったばかりの頃は、主人の顔色を一生窺って生きていくのかとうんざりしていたのに、気付くと嬉々としてマサキ様の顔色を逐一観察している。
レストランオーナー時代の客の反応をチェックする感覚ではなく、なんだろうな。
頼りなさすぎて放っておけない気がするからだろうか。
それと反応が可愛くて癒されるし。
この屋敷で最年長である俺をマサキ様はかなり慕ってくれていると思う。
というかまともに接しているのが俺だけだからと言うのも大きい。
ジョフィルやショーン達とも接する時より明らかに嬉しそうだと自負している。
引っ込み思案なのに誰かれ構わず引っ張り込んで来る手のかかる弟のようなものだろうか。
新しい奴隷に夢中の時などは、泣かせてやりたくなる衝動に駆られるが、他の連中のように青くないので抑えている。
あっさりフラれてメソメソしているのを何度慰めただろう。
本当に手がかかる。
俺が守ってやらないとこの人はダメだ。
子供の頃、今は亡き母がお守りをくれた。
母の髪の毛をほんの少し掌サイズの人形に埋め込み、子供はそれを肌身離さず持ち歩くと言う、その地域独特の風習のようなものだった。
子供の平穏を祈る親の愛だ。
ある日、俺もマサキ様にそれをしてあげようと思いついた。
頼りないマサキ様が泣かなくても済むように祈りを込めよう。
身につけるよりも直接マサキ様が取り込んだ方が効率がいいのではないだろうか。
俺の一部をマサキ様に…。
俺の用意した料理をマサキ様が咀嚼して喉が上下する。
どうかマサキ様の中の俺がマサキ様を守りますように。
常に健やかに笑顔であれるように。
純粋な気持ちでそれをしたと言うのに、マサキ様が美味しそうに俺を取り込むのを目にすると興奮して勃起してしまった。
どうしたことだろうか。
俺の人生は途中まで順風満帆だった。
有名店で修行を積んで、夢だったレストランを開業。
同時に長年付き合った恋人と結婚した。
レストランも評判が良く連日予約で満席。
そろそろ子どもが欲しいなんて妻と相談もしていたのに。
ある日突然妻が俺の親友だと思っていた男と駆け落ちした。
青天の霹靂で呆然とする俺に追い討ちがかけられる。
勝手に俺の名義で借金し、更に大切な店の権利書まで書き換えられていたことが発覚する。
もうここまで来ると笑うしかなかった。
奴隷落ちが決定した時には悟りを開いたかのように達観した気持ちで受け入れた。
俺を引き取ったのはなんと勇者であるマサキ様だった。
しかも俺に一目惚れしたというのだから驚きだ。
こちらの反応を気にしながら可哀想に思えるほど卑屈な態度で告白されて正直同情はしたが、男なんて冗談じゃない。
男とキスやセックスなんて、そんな変態みたいなことは死んでもしたくない。
だがこの人に嫌われることは極力避けねば俺の人生はそこで終わりかねない。
考えた末の返答は“死んだ妻に操を立てたい”だった。
これなら同情も引けるし、俺の中ではすでに死んだも同然だったから嘘という感覚も少ない。
マサキ様はそれを真に受けたようで、やたら深刻そうな顔をして頷いた。
その後奴隷から解放された俺は馬鹿みたいに広くて綺麗で設備の整った厨房を任されることに。
料理人ならば誰でも一度は憧れる空間に感動したのを今でも覚えている。
ジョフィルも多少料理は出来るようだが、基本的には全部俺に任せたいとのことだ。
おまけに賃金と休みも貰えるときたもんだ。
王城勤めのエリートよりも高給で、休みも週2日なんて貰いすぎだと思う。
詰んだと思っていた俺の人生だったが、地の底に落ちたらマサキ様により簡単に引き戻された。
良妻や親友の顔をして人を陥れる奴もいれば、奴隷を弄ぶ素振りでただ人助けをする奴もいる。
世の中分からないものだ。
ただ受けた恩に報いようと、毎食心を込めてマサキ様の飯を作った。
マサキ様はそれを本当に美味そうに食ってくれる。
異世界人らしく初めて口にする料理も多いようで、一口食べては一々驚きや喜びの表情をするマサキ様をなんとなく厨房から覗き見るのが好きだった。
マサキ様は誰にでも惚れてしまう厄介な性質を持っているようで、奴隷を連れてきては振られている。
奴隷にどんなに冷たく袖にされても絶対に雑にはせず、解放して丁重に扱う。
俺も嘘なんか吐かずに正直に拒絶しても問題なかったと今なら分かる。
野生動物の放獣のようにさっさと逃げ出す元奴隷も多いが、マサキ様がどこまでも下手にチヤホヤするものだから調子に乗って屋敷に居着く者も少なくない。
受け入れるつもりもないくせに好意だけ受け取る奴らに最初は苛立ちも覚えたが、マサキ様の興味が徐々に他所に移ったことを感じ取り、疑問と焦りに支配されて苦しむ姿を見ているうちに哀れに感じてきた。
もちろん俺も通った道だ。
結構残酷なことをしていると思うが、マサキ様にはその自覚がないらしい。
あれはちょっと何かが歪みそうになる。
本人は言葉にしないが、どうやらマサキ様は生のトマトが苦手らしい。
この地方のトマトは酸味が強く皮が厚いので生では確かに食べにくい。
今まで嬉しそうに食べていも、トマトの時だけちょっと手が止まる。
一瞬息を止めて口に運ぶのを何度も見た。
サラダのトマトなんて残しても問題ないだろうに、律儀に頑張って完食する様子が微笑ましい。
生野菜全般が嫌いなショーンによく押し付けられており、当然その中にトマトもあるが涙目で食べて決して残そうとはしない。
主人なのに何やってるんだこの人は…。
この頃になると俺はマサキ様の食事を見守らなければ気が済まなくなっていた。
奴隷になったばかりの頃は、主人の顔色を一生窺って生きていくのかとうんざりしていたのに、気付くと嬉々としてマサキ様の顔色を逐一観察している。
レストランオーナー時代の客の反応をチェックする感覚ではなく、なんだろうな。
頼りなさすぎて放っておけない気がするからだろうか。
それと反応が可愛くて癒されるし。
この屋敷で最年長である俺をマサキ様はかなり慕ってくれていると思う。
というかまともに接しているのが俺だけだからと言うのも大きい。
ジョフィルやショーン達とも接する時より明らかに嬉しそうだと自負している。
引っ込み思案なのに誰かれ構わず引っ張り込んで来る手のかかる弟のようなものだろうか。
新しい奴隷に夢中の時などは、泣かせてやりたくなる衝動に駆られるが、他の連中のように青くないので抑えている。
あっさりフラれてメソメソしているのを何度慰めただろう。
本当に手がかかる。
俺が守ってやらないとこの人はダメだ。
子供の頃、今は亡き母がお守りをくれた。
母の髪の毛をほんの少し掌サイズの人形に埋め込み、子供はそれを肌身離さず持ち歩くと言う、その地域独特の風習のようなものだった。
子供の平穏を祈る親の愛だ。
ある日、俺もマサキ様にそれをしてあげようと思いついた。
頼りないマサキ様が泣かなくても済むように祈りを込めよう。
身につけるよりも直接マサキ様が取り込んだ方が効率がいいのではないだろうか。
俺の一部をマサキ様に…。
俺の用意した料理をマサキ様が咀嚼して喉が上下する。
どうかマサキ様の中の俺がマサキ様を守りますように。
常に健やかに笑顔であれるように。
純粋な気持ちでそれをしたと言うのに、マサキ様が美味しそうに俺を取り込むのを目にすると興奮して勃起してしまった。
どうしたことだろうか。
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