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ジョフィルが怒鳴りつけようと息を吸うのが分かったが、それを大人しく聞いている余裕はない。
「だ、だ、誰がこんなことをしたんだっ!!」
スカートから顔を出した俺はセイレスの肩を掴んで叫んだ。
怒鳴った俺が珍しかったのか、セイレスは目を皿のように丸くして見つめている。
セイレスに強く言うのは違うと思うが、焦りから気遣うことが出来ない。
だってこの痣は明らかに人為的につけられたものだからだ。
「…なにかあったのですか?」
ジョフィルも異変に気づいたようで訝しげに尋ねる。
「セ、セイレスの太ももにつねったような酷い痣が、た、沢山あるんだ」
「なんですって…? 見せてください」
「…だ、だ、だめ」
今ジョフィルに見せたらセイレスのセイレスにも気付かれて話がややこしくなりそうだ。
「…確かに婦女子が男に脚を露出させるのはよろしくないですね」
怒られるかと思ったが納得してくれた。
ジョフィルと話して少し冷静になれた気がする。
一度大きく深呼吸して改めてセイレスに向き直る。
「セ、セイレス、ど、どうか教えて欲しい。そ、その痣は誰がやったんだ?」
「クローエだよ。よく僕を抓るんだ」
「クローエが…」
しばらく呆然とする。
痣の位置からしてセイレスの世話を任せている彼女の顔はチラついていたが、改めて突きつけられると途方に暮れてしまう。
誰でもいいとクローエを世話係として選んだのは自分だ。
自分のせいでセイレスはこんな目に合った。
「セ、セイレス。ご、ごめん。お、俺のせいだ」
「ふふ、苦しいよマサキ」
感情に任せて抱きしめればセイレスが無邪気な笑い声をあげる。
「い、痛かったな…こ、怖かったよな…」
「僕は平気だよ。マサキ以外の人間はどうでもいいんだ。だからあの女が何をしようが興味無かった。でも…マサキがこんなにショックを受けるならちゃんと言えば良かったね」
ヨシヨシと頭を撫でられて余計に涙が込み上げてくる。
辛い目にあったのはセイレスなのに俺に気を遣わせてしまった。
自分が情けないやらセイレスの優しさが嬉しいやらで感情がぐちゃぐちゃだ。
「き、気づいてやれなかった、お、俺が悪いんだ。い、いつ頃から、は、始まったんだ?」
「最初からだよ。お風呂の時にいつも抓ってくるんだ。何をしても僕の反応が悪いことに腹を立ててたみたい」
クローエがそんなことをしていたなんて夢にも思わなかった。
俺は本当に見る目がない。
以前誰かに鈍感だと言われたが本当にその通りだった。
「おそらく他者に確実に見つからない場所を狙ってますね。子供に対してなんと卑劣な…。最近のクローエはわざと勇者の婚約者であるかのような誤解をさせる振る舞いが街で見られておりまして、マサキ様にご相談しようかと思っておりました。私が本人を問い詰めましょうか」
ジョフィルの申し出に首を横に振る。
「お、俺が話すよ。じ、事情も含めて、か、確認してみる」
事情も何もセイレスに危害を加えた時点で許せないが、事実は把握しておかなければならない。
セイレスは部屋で待機して欲しかったが、自分も着いていくと聞かずに一緒にクローエの元に向かうことになった。
何か嫌なことを言われないか心配したが、本人は「あの女に何か言われてなんで僕が傷つくの?」と首を捻っていた。
それが本心であることを願うしかない。
フェリクスの相手を頼んでいたのでクローエも応接室にいるだろう。
扉の向こうから彼女の楽しそうな笑い声が聴こえる。
「マサキ、遅かったな…あれ?確かその子を寝かせに行ったんだろ?」
部屋に入るとフェリクスがセイレスを見て不思議そうに尋ねる。
「ん? なんかその子の魔力…ちょっと変わったか…?」
「あ、あ、そ、そうかも」
言われてみて気付いたが、確かにセイレスの魔力が変化している。
元々魔力量は多くはあったが、密度が大幅に増して印象も少し違う。
多分男性に変化したことが関係していると思うが…この魔力に少し違和感を感じた。
しかし今はそれどころではない。
「と、とりあえず、ク、クローエに急ぎの用事が出来た」
「私ですか? 何かしら」
「セ、セイレスについて、は、話がある」
まったく心当たりがないようだったのでセイレスの名前を出してみる。
「フェ、フェリクス。あ、あと少しだけ、ま、待っていてくれるか? ク、クローエを連れて行く」
「ここでは話せないことか?」
「あら、私はまったく構いません。今からフェリクス様とご一緒するのですから、いちいち移動するのは面倒ですわ。ここでお話ください」
クローエに悪びれた様子はない。
俺は隣のセイレスに向き直る。
「セ、セイレスはどうだ? い、嫌じゃないか?」
「うん、僕はマサキが居ればなんでもいいよ」
無垢な笑顔で頷くセイレスに仕方なくフェリクスとクローエのテーブルを挟んだ向かいのソファに腰かける。
隣にセイレスを座らせて、背後にジョフィルが待機した。
「その子は本当にマサキに懐いているな」
「マサキは僕のつがいだから、当たり前でしょ」
珍しくフェリクスの言葉にセイレスが反応した。
ツンとそっぽを向くセイレスにキュッと切ない感情が込み上がる。
この子はそのつがいとやらを求めてこんなに苦労したのに…。
多分鳥の刷り込みのような感情を勘違いしているのだ。
だがそれがセイレスの心の支えになっているのなら今は訂正しない。
小さな手を包むように握ると、一気に笑顔になるセイレス。
それを見たフェリクスがなんだかひどく驚いた顔をした気がした。
「だ、だ、誰がこんなことをしたんだっ!!」
スカートから顔を出した俺はセイレスの肩を掴んで叫んだ。
怒鳴った俺が珍しかったのか、セイレスは目を皿のように丸くして見つめている。
セイレスに強く言うのは違うと思うが、焦りから気遣うことが出来ない。
だってこの痣は明らかに人為的につけられたものだからだ。
「…なにかあったのですか?」
ジョフィルも異変に気づいたようで訝しげに尋ねる。
「セ、セイレスの太ももにつねったような酷い痣が、た、沢山あるんだ」
「なんですって…? 見せてください」
「…だ、だ、だめ」
今ジョフィルに見せたらセイレスのセイレスにも気付かれて話がややこしくなりそうだ。
「…確かに婦女子が男に脚を露出させるのはよろしくないですね」
怒られるかと思ったが納得してくれた。
ジョフィルと話して少し冷静になれた気がする。
一度大きく深呼吸して改めてセイレスに向き直る。
「セ、セイレス、ど、どうか教えて欲しい。そ、その痣は誰がやったんだ?」
「クローエだよ。よく僕を抓るんだ」
「クローエが…」
しばらく呆然とする。
痣の位置からしてセイレスの世話を任せている彼女の顔はチラついていたが、改めて突きつけられると途方に暮れてしまう。
誰でもいいとクローエを世話係として選んだのは自分だ。
自分のせいでセイレスはこんな目に合った。
「セ、セイレス。ご、ごめん。お、俺のせいだ」
「ふふ、苦しいよマサキ」
感情に任せて抱きしめればセイレスが無邪気な笑い声をあげる。
「い、痛かったな…こ、怖かったよな…」
「僕は平気だよ。マサキ以外の人間はどうでもいいんだ。だからあの女が何をしようが興味無かった。でも…マサキがこんなにショックを受けるならちゃんと言えば良かったね」
ヨシヨシと頭を撫でられて余計に涙が込み上げてくる。
辛い目にあったのはセイレスなのに俺に気を遣わせてしまった。
自分が情けないやらセイレスの優しさが嬉しいやらで感情がぐちゃぐちゃだ。
「き、気づいてやれなかった、お、俺が悪いんだ。い、いつ頃から、は、始まったんだ?」
「最初からだよ。お風呂の時にいつも抓ってくるんだ。何をしても僕の反応が悪いことに腹を立ててたみたい」
クローエがそんなことをしていたなんて夢にも思わなかった。
俺は本当に見る目がない。
以前誰かに鈍感だと言われたが本当にその通りだった。
「おそらく他者に確実に見つからない場所を狙ってますね。子供に対してなんと卑劣な…。最近のクローエはわざと勇者の婚約者であるかのような誤解をさせる振る舞いが街で見られておりまして、マサキ様にご相談しようかと思っておりました。私が本人を問い詰めましょうか」
ジョフィルの申し出に首を横に振る。
「お、俺が話すよ。じ、事情も含めて、か、確認してみる」
事情も何もセイレスに危害を加えた時点で許せないが、事実は把握しておかなければならない。
セイレスは部屋で待機して欲しかったが、自分も着いていくと聞かずに一緒にクローエの元に向かうことになった。
何か嫌なことを言われないか心配したが、本人は「あの女に何か言われてなんで僕が傷つくの?」と首を捻っていた。
それが本心であることを願うしかない。
フェリクスの相手を頼んでいたのでクローエも応接室にいるだろう。
扉の向こうから彼女の楽しそうな笑い声が聴こえる。
「マサキ、遅かったな…あれ?確かその子を寝かせに行ったんだろ?」
部屋に入るとフェリクスがセイレスを見て不思議そうに尋ねる。
「ん? なんかその子の魔力…ちょっと変わったか…?」
「あ、あ、そ、そうかも」
言われてみて気付いたが、確かにセイレスの魔力が変化している。
元々魔力量は多くはあったが、密度が大幅に増して印象も少し違う。
多分男性に変化したことが関係していると思うが…この魔力に少し違和感を感じた。
しかし今はそれどころではない。
「と、とりあえず、ク、クローエに急ぎの用事が出来た」
「私ですか? 何かしら」
「セ、セイレスについて、は、話がある」
まったく心当たりがないようだったのでセイレスの名前を出してみる。
「フェ、フェリクス。あ、あと少しだけ、ま、待っていてくれるか? ク、クローエを連れて行く」
「ここでは話せないことか?」
「あら、私はまったく構いません。今からフェリクス様とご一緒するのですから、いちいち移動するのは面倒ですわ。ここでお話ください」
クローエに悪びれた様子はない。
俺は隣のセイレスに向き直る。
「セ、セイレスはどうだ? い、嫌じゃないか?」
「うん、僕はマサキが居ればなんでもいいよ」
無垢な笑顔で頷くセイレスに仕方なくフェリクスとクローエのテーブルを挟んだ向かいのソファに腰かける。
隣にセイレスを座らせて、背後にジョフィルが待機した。
「その子は本当にマサキに懐いているな」
「マサキは僕のつがいだから、当たり前でしょ」
珍しくフェリクスの言葉にセイレスが反応した。
ツンとそっぽを向くセイレスにキュッと切ない感情が込み上がる。
この子はそのつがいとやらを求めてこんなに苦労したのに…。
多分鳥の刷り込みのような感情を勘違いしているのだ。
だがそれがセイレスの心の支えになっているのなら今は訂正しない。
小さな手を包むように握ると、一気に笑顔になるセイレス。
それを見たフェリクスがなんだかひどく驚いた顔をした気がした。
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