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18.転がり込んだ幼子
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その日は豪雨で今にも空が轟きそうな気象だった。夜明けに北西の拠点の視察を終えた軍事総司令官を務める我が主、ダスクウェル様が一人の少年を連れて帰ってこられた。
「ドルーフ。これを養子に迎え入れる。お前が中心となって世話をしろ。」
「は・・・かしこまりました。」
迎え入れた少年は瑠璃色の無造作な長髪をぐっしょりと濡らしており、大きめの外套を脱がせると心許ない布地を纏った身体に切り傷や打撲痕が多く見られた。
・・・ダスクウェル様が養子を迎え入れるために孤児院や各地の村の子供についての資料を集めていたので、いつかこんな日が来ることは想像できていた。できていたが、面倒事が嫌いな御方が見るからに複雑な事情がありそうな子供を連れてくるとは。直接私に世話を命じたので、他の使用人では手に余ると判断されたのだろうか。
嫡男のカイール様は剣術の腕前とセンスは申し分無かったが、生まれ持った魔力が人並みであられた。第二子は長女のマリー様が二歳差でお生まれになり、その三年後にお生まれになった次男のフレイ様は待望の男子であったが、生まれつき身体が弱く戦いには向いておられなかった。
ダスクウェル様は誰かを特段可愛がるということもなく、養子のヨアゼルン様も含めて良くも悪くも平等に子供達に接していた。血の繋がりなど微塵も気にしておられる様子はなく、それよりも『強さ』に固執して、ヨアゼルン様に厳しく指導されていた。カイール様からすれば"平等"だとは感じていなかったかもしれないが。
ヨアゼルン様について知らされているのは、稀有な『闇属性持ち』である、ということだけだった。そんな特性なぞ無くとも、生まれ持った魔力量が規格外でそれだけで十分な能力と言えた。何故闇属性のことを隠しているのかまでは分からない。この秘密を共有しているのは私と、ヨアゼルン様を迎えた直後に雇った魔術師のリーシャ殿のみであり、リーシャ殿であれば魔術の指導者故に隠匿する理由について知っているかもしれないが・・・。
ヨアゼルン様は感情の乏しい少年だった。いつも無表情でそれを気味悪がる使用人も少なくなかった。生まれの境遇が影響していることは想像に難くない。北西の端の小さな村で拾われたものの、村人達は身寄りの無い莫大な魔力を持つ彼を養う代わりに、近接する森へ散策させては小さい身体ひとつで魔物退治をさせていたという。
そしてダスクウェル様は彼に全く外部との交流をさせなかった。秘密を漏らさない為だろうが、私は少しやり過ぎだと感じる程の徹底ぶりだった。例えば、王家と密接である武爵家なら養子だろうが家族が増えれば、王宮へ出向いて紹介するのが通例だが、未だにその機会を避けていた。
それから一年余りが経ち、彼の年齢も定かでは無かったが、六歳になったと推定して学園の入学手続きを進めた。貴族は教育を受ける義務があるし、当主としても世継ぎを考える上で学友と共に教養をつけることは気は進まないが必須だと判断されたのだろう。家族ともまだ余所余所しく接する彼がせめて、友をつくり学園ではその時間を年相応に謳歌して欲しいと私は心から願った。
だから、彼がランバート様のお宅へ招待されたと聞いた時は非常に嬉しかった。自分から学園での様子を話す方では無いが、徐々に角が取れたように表情も雰囲気も少し柔らかくなった。
初等部四学年になった年のある日。
ヨアゼルン様が校内で魔力暴走を起こした。彼を心配したランバート様がこの屋敷に初めて訪ねて来たが、暴走した魔力で闇魔法を発動する恐れがあるため一度は断ったものの、リーシャ殿は何を考えているのか彼の部屋に招いた。
ヨアゼルン様の部屋には初めから防音の術がかけられていて、中で何が起こったのか知る由もない。
リーシャ殿が意識を失ったランバート様を抱えて出てきた後は、床や家具が大きく損傷しており愕然とした。リーシャ殿は「二人とも無事じゃ、問題ない」と言うだけでそれ以上話すつもりは無いようだった。タイミング悪く魔力暴走の最後の放出が起きたのだろうと自分の中で納得し・・・その後リーシャ殿がランバート様と二人で話した内容が悪いものではないことを願うしかなかった。
それから六年後の今日を迎えた。夏空の溌剌とした太陽に反して、室内の空気は重たい。
「ドルーフ。ヨアゼルンを使用人に扮して参加させる。準備をしておけ。」
ダスクウェル様から王家の紋章の封蝋が施された建国500周年記念式典の招待状を受け取り、近い将来起こるであろう国家の瓦解と彼にのしかかる仄暗い呵責に私は固く目を瞑った。
「ドルーフ。これを養子に迎え入れる。お前が中心となって世話をしろ。」
「は・・・かしこまりました。」
迎え入れた少年は瑠璃色の無造作な長髪をぐっしょりと濡らしており、大きめの外套を脱がせると心許ない布地を纏った身体に切り傷や打撲痕が多く見られた。
・・・ダスクウェル様が養子を迎え入れるために孤児院や各地の村の子供についての資料を集めていたので、いつかこんな日が来ることは想像できていた。できていたが、面倒事が嫌いな御方が見るからに複雑な事情がありそうな子供を連れてくるとは。直接私に世話を命じたので、他の使用人では手に余ると判断されたのだろうか。
嫡男のカイール様は剣術の腕前とセンスは申し分無かったが、生まれ持った魔力が人並みであられた。第二子は長女のマリー様が二歳差でお生まれになり、その三年後にお生まれになった次男のフレイ様は待望の男子であったが、生まれつき身体が弱く戦いには向いておられなかった。
ダスクウェル様は誰かを特段可愛がるということもなく、養子のヨアゼルン様も含めて良くも悪くも平等に子供達に接していた。血の繋がりなど微塵も気にしておられる様子はなく、それよりも『強さ』に固執して、ヨアゼルン様に厳しく指導されていた。カイール様からすれば"平等"だとは感じていなかったかもしれないが。
ヨアゼルン様について知らされているのは、稀有な『闇属性持ち』である、ということだけだった。そんな特性なぞ無くとも、生まれ持った魔力量が規格外でそれだけで十分な能力と言えた。何故闇属性のことを隠しているのかまでは分からない。この秘密を共有しているのは私と、ヨアゼルン様を迎えた直後に雇った魔術師のリーシャ殿のみであり、リーシャ殿であれば魔術の指導者故に隠匿する理由について知っているかもしれないが・・・。
ヨアゼルン様は感情の乏しい少年だった。いつも無表情でそれを気味悪がる使用人も少なくなかった。生まれの境遇が影響していることは想像に難くない。北西の端の小さな村で拾われたものの、村人達は身寄りの無い莫大な魔力を持つ彼を養う代わりに、近接する森へ散策させては小さい身体ひとつで魔物退治をさせていたという。
そしてダスクウェル様は彼に全く外部との交流をさせなかった。秘密を漏らさない為だろうが、私は少しやり過ぎだと感じる程の徹底ぶりだった。例えば、王家と密接である武爵家なら養子だろうが家族が増えれば、王宮へ出向いて紹介するのが通例だが、未だにその機会を避けていた。
それから一年余りが経ち、彼の年齢も定かでは無かったが、六歳になったと推定して学園の入学手続きを進めた。貴族は教育を受ける義務があるし、当主としても世継ぎを考える上で学友と共に教養をつけることは気は進まないが必須だと判断されたのだろう。家族ともまだ余所余所しく接する彼がせめて、友をつくり学園ではその時間を年相応に謳歌して欲しいと私は心から願った。
だから、彼がランバート様のお宅へ招待されたと聞いた時は非常に嬉しかった。自分から学園での様子を話す方では無いが、徐々に角が取れたように表情も雰囲気も少し柔らかくなった。
初等部四学年になった年のある日。
ヨアゼルン様が校内で魔力暴走を起こした。彼を心配したランバート様がこの屋敷に初めて訪ねて来たが、暴走した魔力で闇魔法を発動する恐れがあるため一度は断ったものの、リーシャ殿は何を考えているのか彼の部屋に招いた。
ヨアゼルン様の部屋には初めから防音の術がかけられていて、中で何が起こったのか知る由もない。
リーシャ殿が意識を失ったランバート様を抱えて出てきた後は、床や家具が大きく損傷しており愕然とした。リーシャ殿は「二人とも無事じゃ、問題ない」と言うだけでそれ以上話すつもりは無いようだった。タイミング悪く魔力暴走の最後の放出が起きたのだろうと自分の中で納得し・・・その後リーシャ殿がランバート様と二人で話した内容が悪いものではないことを願うしかなかった。
それから六年後の今日を迎えた。夏空の溌剌とした太陽に反して、室内の空気は重たい。
「ドルーフ。ヨアゼルンを使用人に扮して参加させる。準備をしておけ。」
ダスクウェル様から王家の紋章の封蝋が施された建国500周年記念式典の招待状を受け取り、近い将来起こるであろう国家の瓦解と彼にのしかかる仄暗い呵責に私は固く目を瞑った。
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