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19.新境地
新調したアイボリーの生地に金釦の清廉溢れるブレザーを身に纏い、ランバートは見慣れた校門を見上げた。
残りの初等部二年間と中等部四年間の時はあっという間に過ぎた。天才編入生に維持していた首席を奪われたり、自分に親衛隊なるものが密かに結成されていたり、色々あったが大きな問題もなく、ヨアゼルンは魔力暴走の予兆を身体で覚えて上手く発散できるようになったようだし、俺の謎の光魔法なるものはリーシャ以外に知られることなく秘匿できている。
身長もぐんぐん伸びて今では177センチに到達した。ヨアは180越えだったか。何にせよ、初等部の入学式の時と比べると随分と視界が高くなり見える風景も全く違うようで感慨深い。
高等部の入学式の代表挨拶は中等部から編入してきてすぐ首席を勝ち取ったサファイルだった。これまた美丈夫で長いライムイエローの髪を後ろの高い位置で1つに結え、平民と思わせない堂々たる姿勢と勝ち気な性格、更にはヨアゼルンに次ぐ魔法の強さで女性陣のハートをすぐに掴んだ。
首席の座を取られて悔しくなかったのかって?
そりゃあ、周りにはそんな顔見せなかったけど悔しかったさ。言い訳を承知で言うと、中等部から俺が唯一苦手(とはいえ人並みに扱える)な魔法が試験科目に追加されたから、他全ての教科で頑張って点数を稼いでも次席止まり。それでも俺の人気は廃れることなく女子による親衛隊は現在も活動しているらしい。彼女達のおかげで放課後お呼び出し告白イベントが激減したのでとても助かっています。
「おい、ヨアゼルン。お前、普通科に進んだって正気か、皮肉か?クラスに強い相手が居ないと楽しくねぇんだよ。」
「お前の都合は知らない。」
強さに自信があるからか、元々の気質なのか、貴族の階級を気にせず実力でのし上ろうという気概からか、サファイルは初対面でもヨアゼルンと対等に話し、ライバルと認めて張り合ってくる。代表挨拶を終え熱い視線を多く受けるそんな彼は、ヨアの制服の襟に留められた丸く輝くシルバーのバッジを見遣りながら近寄って来た。
サファイルが言いたいことはよく分かる。高等部になると、全科目を満遍なく学ぶ普通科、魔法が得意な者が更に高みを目指すための魔法科、剣術が得意な者がその腕を更に磨く騎士科の三種のクラスに分かれ、希望のクラスに進むことができる。普通科はシルバー、魔法科はエメラルド、騎士科はワインレッドの色のバッジをそれぞれ着けることになっている。
勉強嫌いなヨアゼルンは普通科以外に進むと当初は俺も思っていた。そして当然と言うべきか、サファイルは魔法科を選んだわけで。
素っ気なく返すヨアに苦笑いを隠せない俺は、代わりにサファイルに説明する。
「俺もだけど、爵位持ちだと騎士団入団希望者でも無い限り普通科を推奨されるんだよ。上に兄弟沢山いる家だとそこら辺自由にさせて貰えるだろうけど・・・普通科でしか受けれない授業もあるしね。」
普通科では経済学や地政学が必須科目に入っている。俺も父に聞くまで知らなかったし、そもそも爵位持ちが少数なわけだから、そんなお家事情は知らなくて当然だ。
「・・・ふん、上級貴族は大変だな。」
応えた俺に一瞥をくれた彼は急に鼻白み、その一言だけで終わらせた。彼のこの塩対応にはもう慣れている。貴族が嫌いなのか、強い魔法の使い手にしか興味がないのか・・・。
ヨアと対等に話せる奴なんて数少ないから俺としては良い付き合いをしていきたいんだけど。出会った当初は悪い印象を与えるどころか人助けをしたのに薄情な奴だ。
編入して早々にヨアに対戦を挑んだサファイルは(後でこってり先生に怒られていたが)、炎と雷撃の激しい戦いの末に左の脛に大きな火傷を負った。すぐ近くで観戦していた俺が、彼が医務室に運ばれる前に氷塊を出現させて応急処置として冷やしたのだ。治癒魔法で治るといっても痛いもんは痛いだろうし、冷やしておけば火傷の痕も少し抑えられるはずだから。
その時、彼は熱の籠もった眼つきで俺に告げたのだ。「この恩は一生忘れない」と。
だがその大袈裟な恩義は決して忘れられていた訳ではなかった。
◇◇◇
一学年の生徒は皆、新学期早々に力試しの一大イベントとして予定されている試験の話題で持ちきりだった。
騎士・魔法・普通科を必ず1名以上含める3~4名のパーティーを自由に組み、学園が所有・管理している郊外の小さな森「ワインズ」に野営して一晩過ごす。森の中には敢えて駆除せず放置されている魔物達が棲んでいるため、パーティーで協力して魔物を仕留め素材回収まで行う【ワインズ森試験】と呼ばれる実技試験である。
毎年、誰と組むか、それぞれの立ち回りはどうするかと浮足立つのだが、今年はそれだけではなかった。そもそも開催されるのかという論点から始まっていた。
ふた月前、我が国グリディール王国の西側に位置するユーコレット王国が、西端のミレット領地を襲撃して十数名の死傷者を出した。各領地に派遣されている地方兵の活躍により領地の被害は少なかったというのもあるが、決して小さくはない領地を襲撃するには敵兵の数も少なく、安易で突発的な侵攻だった。捕虜となった敵兵も『炭鉱を有する広大な土地を狙って侵略を図った』と口を揃えて吐くので、真意が見えない不気味な印象を受けた。
以上の事件後であることから、ワインズ森は中央の王都から西へ30kmほどしか離れていないのにも関わらず、特に貴族の親から試験を中止しないのかと意見が寄せられ、開催の判断が今まで保留となっていた。
ワインズ森は学園と同じ強力な結界が張られているし、警備も例年より増員するため学園側は問題なしと答えているが、おそらくその試験自体に不安を抱いている過保護な親がここぞとばかりに訴えてきているのだろう。
そんなこんなで一悶着あった試験だが、開催予定日の三日前に決行通達があった。
さて、そうとなればパーティーメンバー探しに本腰を入れないと、と今まで交流のあった生徒を思い浮かべる。
自分の力試しだから、こういう構成は自分と同レベルの生徒と組むべきだ。
男女混合で組んでも良いのだが、俺の親衛隊長から「学園の平和のために女子と組むのはお止めください」と言われてしまっているので、男だけで組まないといけない。初等部から仲が良い騎士科のオルフェンは誘っているが、魔法科の人選に悩んでいた。というのも、自分と同じ属性と組んでもバランスが悪いし、かと言って違う属性なら何でも良いわけではない。水・氷属性は火属性とは互いの威力を弱めるが、地や雷とは相性が良い。
オルフェンは地属性を持っているが脳筋なので魔法はからっきしだ。俺は敵を氷漬けにして足止めするサポートに回るため、彼には得意の剣術で近距離攻撃を担当してもらいたい。あと1人は是非とも後方支援として攻撃特化の魔法科の生徒が欲しいところだ。
昼休みの時間に魔法科クラスへ行こうとしたら、廊下が少し騒めいた。何かと思えばサファイルが普通科クラスの前を歩いており、俺を目で捉えると一直線に歩いて来た。
「サファイル?」
「・・・・」
気難しい顔をして近付いてきた彼は目の前で棒立ちしていた。俺の額辺りを熱心に観察されているので若干視線が合っていない。
「あの時の恩を返す。ランバート、俺とパーティーを組め。」
彼の威風堂々な態度に目が点になる。お前、覚えてたんだ・・・と感心している場合じゃない。教室までわざわざ会いに来て何の用事かと思えば恩返し?なのにどうして命令形なんだ。どこから突っ込もうか。
「いきなり何かと思ったら。あの時って、お前がヨアとやり合った時のことだよな?覚えてたんだ。」
「・・・ああ。」
漫然とした口調に若干苛つくが、表情にはおくびにも出さないよう努める。
「あのな、確かにお前の実力は確かだけど、だからこそお前と組んだら自分の力量が分からなくなって意味がないって言うか・・・。」
「大丈夫だ。お前が狙った獲物には手は出さない。それに戦闘での立ち回りも習得したいなら強い奴と組んで見て学んだ方が手っ取り早いぞ。俺の雷属性とも相性が良いだろう。他に仲間は見つかっているのか?」
「いや・・・あと一人、魔法科はまだだけど。」
矢継ぎ早にアピールされ、顔が引きつりしどろもどろになってしまう。
「なら丁度良いな。騎士科の仲間にも伝えておいてくれ。」
「ちょっと待って」
俺の待ったも聞かずに、サファイルは満足気に踵を返した。
誰かこの俺様止めてくれませんか?
残りの初等部二年間と中等部四年間の時はあっという間に過ぎた。天才編入生に維持していた首席を奪われたり、自分に親衛隊なるものが密かに結成されていたり、色々あったが大きな問題もなく、ヨアゼルンは魔力暴走の予兆を身体で覚えて上手く発散できるようになったようだし、俺の謎の光魔法なるものはリーシャ以外に知られることなく秘匿できている。
身長もぐんぐん伸びて今では177センチに到達した。ヨアは180越えだったか。何にせよ、初等部の入学式の時と比べると随分と視界が高くなり見える風景も全く違うようで感慨深い。
高等部の入学式の代表挨拶は中等部から編入してきてすぐ首席を勝ち取ったサファイルだった。これまた美丈夫で長いライムイエローの髪を後ろの高い位置で1つに結え、平民と思わせない堂々たる姿勢と勝ち気な性格、更にはヨアゼルンに次ぐ魔法の強さで女性陣のハートをすぐに掴んだ。
首席の座を取られて悔しくなかったのかって?
そりゃあ、周りにはそんな顔見せなかったけど悔しかったさ。言い訳を承知で言うと、中等部から俺が唯一苦手(とはいえ人並みに扱える)な魔法が試験科目に追加されたから、他全ての教科で頑張って点数を稼いでも次席止まり。それでも俺の人気は廃れることなく女子による親衛隊は現在も活動しているらしい。彼女達のおかげで放課後お呼び出し告白イベントが激減したのでとても助かっています。
「おい、ヨアゼルン。お前、普通科に進んだって正気か、皮肉か?クラスに強い相手が居ないと楽しくねぇんだよ。」
「お前の都合は知らない。」
強さに自信があるからか、元々の気質なのか、貴族の階級を気にせず実力でのし上ろうという気概からか、サファイルは初対面でもヨアゼルンと対等に話し、ライバルと認めて張り合ってくる。代表挨拶を終え熱い視線を多く受けるそんな彼は、ヨアの制服の襟に留められた丸く輝くシルバーのバッジを見遣りながら近寄って来た。
サファイルが言いたいことはよく分かる。高等部になると、全科目を満遍なく学ぶ普通科、魔法が得意な者が更に高みを目指すための魔法科、剣術が得意な者がその腕を更に磨く騎士科の三種のクラスに分かれ、希望のクラスに進むことができる。普通科はシルバー、魔法科はエメラルド、騎士科はワインレッドの色のバッジをそれぞれ着けることになっている。
勉強嫌いなヨアゼルンは普通科以外に進むと当初は俺も思っていた。そして当然と言うべきか、サファイルは魔法科を選んだわけで。
素っ気なく返すヨアに苦笑いを隠せない俺は、代わりにサファイルに説明する。
「俺もだけど、爵位持ちだと騎士団入団希望者でも無い限り普通科を推奨されるんだよ。上に兄弟沢山いる家だとそこら辺自由にさせて貰えるだろうけど・・・普通科でしか受けれない授業もあるしね。」
普通科では経済学や地政学が必須科目に入っている。俺も父に聞くまで知らなかったし、そもそも爵位持ちが少数なわけだから、そんなお家事情は知らなくて当然だ。
「・・・ふん、上級貴族は大変だな。」
応えた俺に一瞥をくれた彼は急に鼻白み、その一言だけで終わらせた。彼のこの塩対応にはもう慣れている。貴族が嫌いなのか、強い魔法の使い手にしか興味がないのか・・・。
ヨアと対等に話せる奴なんて数少ないから俺としては良い付き合いをしていきたいんだけど。出会った当初は悪い印象を与えるどころか人助けをしたのに薄情な奴だ。
編入して早々にヨアに対戦を挑んだサファイルは(後でこってり先生に怒られていたが)、炎と雷撃の激しい戦いの末に左の脛に大きな火傷を負った。すぐ近くで観戦していた俺が、彼が医務室に運ばれる前に氷塊を出現させて応急処置として冷やしたのだ。治癒魔法で治るといっても痛いもんは痛いだろうし、冷やしておけば火傷の痕も少し抑えられるはずだから。
その時、彼は熱の籠もった眼つきで俺に告げたのだ。「この恩は一生忘れない」と。
だがその大袈裟な恩義は決して忘れられていた訳ではなかった。
◇◇◇
一学年の生徒は皆、新学期早々に力試しの一大イベントとして予定されている試験の話題で持ちきりだった。
騎士・魔法・普通科を必ず1名以上含める3~4名のパーティーを自由に組み、学園が所有・管理している郊外の小さな森「ワインズ」に野営して一晩過ごす。森の中には敢えて駆除せず放置されている魔物達が棲んでいるため、パーティーで協力して魔物を仕留め素材回収まで行う【ワインズ森試験】と呼ばれる実技試験である。
毎年、誰と組むか、それぞれの立ち回りはどうするかと浮足立つのだが、今年はそれだけではなかった。そもそも開催されるのかという論点から始まっていた。
ふた月前、我が国グリディール王国の西側に位置するユーコレット王国が、西端のミレット領地を襲撃して十数名の死傷者を出した。各領地に派遣されている地方兵の活躍により領地の被害は少なかったというのもあるが、決して小さくはない領地を襲撃するには敵兵の数も少なく、安易で突発的な侵攻だった。捕虜となった敵兵も『炭鉱を有する広大な土地を狙って侵略を図った』と口を揃えて吐くので、真意が見えない不気味な印象を受けた。
以上の事件後であることから、ワインズ森は中央の王都から西へ30kmほどしか離れていないのにも関わらず、特に貴族の親から試験を中止しないのかと意見が寄せられ、開催の判断が今まで保留となっていた。
ワインズ森は学園と同じ強力な結界が張られているし、警備も例年より増員するため学園側は問題なしと答えているが、おそらくその試験自体に不安を抱いている過保護な親がここぞとばかりに訴えてきているのだろう。
そんなこんなで一悶着あった試験だが、開催予定日の三日前に決行通達があった。
さて、そうとなればパーティーメンバー探しに本腰を入れないと、と今まで交流のあった生徒を思い浮かべる。
自分の力試しだから、こういう構成は自分と同レベルの生徒と組むべきだ。
男女混合で組んでも良いのだが、俺の親衛隊長から「学園の平和のために女子と組むのはお止めください」と言われてしまっているので、男だけで組まないといけない。初等部から仲が良い騎士科のオルフェンは誘っているが、魔法科の人選に悩んでいた。というのも、自分と同じ属性と組んでもバランスが悪いし、かと言って違う属性なら何でも良いわけではない。水・氷属性は火属性とは互いの威力を弱めるが、地や雷とは相性が良い。
オルフェンは地属性を持っているが脳筋なので魔法はからっきしだ。俺は敵を氷漬けにして足止めするサポートに回るため、彼には得意の剣術で近距離攻撃を担当してもらいたい。あと1人は是非とも後方支援として攻撃特化の魔法科の生徒が欲しいところだ。
昼休みの時間に魔法科クラスへ行こうとしたら、廊下が少し騒めいた。何かと思えばサファイルが普通科クラスの前を歩いており、俺を目で捉えると一直線に歩いて来た。
「サファイル?」
「・・・・」
気難しい顔をして近付いてきた彼は目の前で棒立ちしていた。俺の額辺りを熱心に観察されているので若干視線が合っていない。
「あの時の恩を返す。ランバート、俺とパーティーを組め。」
彼の威風堂々な態度に目が点になる。お前、覚えてたんだ・・・と感心している場合じゃない。教室までわざわざ会いに来て何の用事かと思えば恩返し?なのにどうして命令形なんだ。どこから突っ込もうか。
「いきなり何かと思ったら。あの時って、お前がヨアとやり合った時のことだよな?覚えてたんだ。」
「・・・ああ。」
漫然とした口調に若干苛つくが、表情にはおくびにも出さないよう努める。
「あのな、確かにお前の実力は確かだけど、だからこそお前と組んだら自分の力量が分からなくなって意味がないって言うか・・・。」
「大丈夫だ。お前が狙った獲物には手は出さない。それに戦闘での立ち回りも習得したいなら強い奴と組んで見て学んだ方が手っ取り早いぞ。俺の雷属性とも相性が良いだろう。他に仲間は見つかっているのか?」
「いや・・・あと一人、魔法科はまだだけど。」
矢継ぎ早にアピールされ、顔が引きつりしどろもどろになってしまう。
「なら丁度良いな。騎士科の仲間にも伝えておいてくれ。」
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