事なかれ主義の回廊

由紀菜

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23.新風の旋毛

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翌朝は予想通りというべきか、ワインズ森試験に対する批判や実態を明かせと迫る声が大きくなり、校門前は記者や保護者が押しかけ人だかりが出来ていた。子供に学校を休ませる判断を下した保護者もおり、教師達はそれらの対応に追われて授業もまともに回らず、その日一日はほぼ自習となった。

「当然といえば当然だな。現代の日本なら叩かれまくって廃校まで追い込まれるだろ。」
なんて騒然の中誰にも聞こえない声量で独り言ちた。
「ここは国立だから校長や理事長の一存では廃止できないだろう。王家がどう対応するのか見ものだな。」
小声をわざわざ拾って可愛く無ない横槍を入れる冷静な男に、だからこいつの親友はやめられないのだと一人で笑う。
「ところで、ニホンって何だ。」
「・・・昔読んだ物語に出てきた島国に例えたんだよ。世間体を気にする調和の国って設定だったからな。さて、此処にいても自習どころか会話に巻き込まれるし、俺は図書室行ってくる。ヨアはどうする?」
前世のことをポロッと話してしまった時は、本に書いている世界の内容ということでいつも収めている。話を終わらせるためでもあるが、早くこの場から離れたい。特に自習にあたって教室で大人しくしていなさい、という指示もないし、ボードゲームを机に広げる生徒も居て、既に無法地帯だ。権力行使というつもりはないけど、爵位持ちの俺達が教室を出たところで追及する生徒も居なかった。
「一緒に行く。魔出力方程式の原理を教えてくれ。」
「いいけどさ。それ理解していないのにほぼ最大出力の魔力変換できてるお前と、理解できているのに実現できない俺って・・・皮肉だな。」
優等生ぶっている俺だが、まさか図書室で自習するわけもなく。リーシャからゼラムやフィース降臨の話を聞いて以来、神話や歴史に深く興味を持つようになり、度々図書館に行っては関連資料を読み漁っているというわけだ。

正門から正面に位置する教室棟の両脇に特別棟があり、その三階である最上階は図書室のフロアで占められている。ヨアと二人で廊下を歩いていると、向かいから見知った人物が見えた。
「ニコルだ。」
「ヨアゼルン君にランバート君、昨日ぶりですね。一緒にライアーを全て倒すつもりでいたのですが・・・力及ばずでした。」
困ったように眉を下げ緩く笑う彼は相変わらず腰の低く清楚な佇まいである。
「フォーキースを一人で倒したニコルは凄いよ。それで、噛まれたって聞いたけど、大丈夫だった?」
「いえいえ、こっちも必死でなりふり構わず剣を振ったら運良く当たっただけなので。噛まれたところもすぐ解毒してもらって、もうなんともないですよ。」
「それは良かった。そういえば、そっち(騎士科)は自習じゃないの?」
「『自習って言ってもお前達はじっと出来ないだろうから、校舎を出なければ自由にしていい』ってドレーブ先生が。有り難く稽古場に向かおうとしていたところでした。」
騎士科も3クラスあるが、あのいい加減そうなさっぱりしたドレーブ先生のクラスだったのか。羨ましい限りだ。
「いいね。こっちも自習とは言われたけどお祭り状態だよ。騒がしいから図書室へ逃げようとしていたところなんだ。」
「やっぱりどこもそんな感じですよね。ヨアゼルン君と組んでライアーと対戦したってことで朝は質問攻めに合いましたよ。噂通り本当にお強くて、僕も興奮しながら皆さんに説明しました。」
「だってさ。良かったね。」
からかい気味にヨアに片肘で突くも反応は薄い。褒められた反応とは思えない胡乱げな目でニコルを見つめる。
「お前も相当強い。魔力量も壮大なのに、剣だけなのは勿体無いと思うが。」
「えっ、そうなの。」
新事実に驚いてニコルを見ると、本人は苦笑して降参するように肩を上げた。
「ヨアゼルン君、流石ですね。はい、確かに魔力量は人一倍多いようなんですが、それ故コントロールが難しくて…暴発するのも怖いので魔法は極力使わないようにしているんです。」
「そうだったんだね。でもそれだと魔力暴走起こらない?」
「そうですね、なので定期的に魔力研究所に提供する形で放出しているんです。」
「魔力を提供?そんなのあるんだ。」
聞くと、魔力を用いた魔道具の開発や研究中の魔法陣への注入等、集めても集めても消費してしまう研究所へ魔力提供する代わりにそれなりの代金を貰えるという仕組みがあるらしい。
その話をヨアは珍しく興味深そうに聞いていた。お前の家はお金に困っていないだろ…まあでも、お金持ちでも教育の為に子供に自由に使えるお金を渡すのを制限している厳格な家も多いからな。お小遣い稼ぎにはもってこいかもしれない。
「それをお父様の治療費に充ててるんだよね。本当に君は親孝行で立派だね。」
「私が勝手に貯めているだけで、父は自分の学費と生活費に充てろと言って受け取ってくれないんです。高額ですが特効薬を手に入れれば早く治るかもしれないのに…。」
「調合薬の情報とかならこちらで調べられると思うよ。できることは少ないかもしれないけど、何かあればいつでも言ってね。」
「ありがとうございます。あの、この街のことは来たばかりで分からないので、薬屋を教えてもらえませんか?」
早速のお願いを俺は快く受けた。
「そっか、そうだよね。悪質な薬屋もあると聞くから、それは大事かもしれない。執事と使用人も連れてよければ今度案内するよ。薬屋ツアーだね。」
何でも知ってるウェイトンなら、良質な薬売りのツテもあるだろう。オルフェンの両親も調剤師だから後で聞いてみよう。
「俺も行く」
「えっ」
なんでお前も、と言いかけたがニコルが満面の笑みで喜んだので心の中で押し留める。学外の交流は殆どしないこの男が。俺が放課後遊びに誘っても十回に一回くらいしか乗ってこないこの男が。交友の浅い生徒との外出に付いてくるとは。
「いいですね、編入したばかりでまだ学校に馴染めていなかったので嬉しいです。そのときに魔力研究所のことも詳しく教えますね。」
「ああ。頼む。」
そこで合点がいく。目的はそれか。損得勘定な彼を嗜める気持ちで片目を薄めるランバートだった。

次会う約束をしてニコルと別れたあと、小さく溜息を吐いてヨアを見上げた。
「お前、ちゃっかりしてるな」
「何のことだ?」
「俺の誘いには中々乗らないくせに。そんなにお金が欲しいのかよ。」
口を尖らせると、ヨアは不可解そうに眉を上げたまま静止し、俺の言いたいことを汲み取ると納得がいったように薄っすら笑う。
「魔力提供のことはいつでも聞けるからわざわざ出掛ける必要も無いだろう。俺が付いていく理由は別にある。」
「回りくどいな。なんだよ別の理由って。」
「言わない。」
「はぁ?教えろよ、なに勿体ぶってるんだよ。」
「・・・。あの男が怪しいと思っているからだ。」
「怪しい?どこが。親想いの優しい子じゃねぇか。」
「辺境の地に住む平民だとしても、あれ程の魔力量を有していればとっくの昔に魔術師や魔法騎士の見習いとして引き抜かれているはずだ。そういう情報はどこに住んでいても王都に集まってくる。」
「実際に引き抜かれて武爵家の養子に入ったお前が言うと説得力あるけどさ…。故郷を離れたくなかったり、それこそ親父さんが心配で行けなかったとか、色々理由はあるだろ。」
「貴族であれば話は別だが、平民なら基本的に拒否権はない。」
「えっ、そうなの?」
物騒な話になってきた。それって強制連行ってこと?
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