桜の樹の下にはゾンビが眠っているーーゾンビVS殺人事件! ゾンビはびこる終末世界でたてこもる人々を襲う連続殺人事件。その真相は!?

しゃぼてん

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第2話 ゾンビ、救出依頼を受ける

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 ペダルをこぐのをやめ、ゆっくりとブレーキをかけて、俺は大学の正門の前で自転車をとめた。
 乗っているのは自転車だけど、俺はバイク用のフルフェイスヘルメットをかぶっている。
 おまけに、すでに暑い季節なのに手袋とネックウォーマーを装着。
 あやしい格好だってことは自覚している。
 でも、どうしようもない。

 皮膚をさらせば、一目で俺がゾンビだってことがバレてしまうから。

 この世界でゾンビだとバレれば、とたんに命の危険にさらされる。
 俺はゾンビになってから散々殺されかけてきたから、よーく知っている。
 大抵の非感染者は、なぜかゾンビを見つけると速攻血眼になってゾンビを殺しにかかるのだ。
 まったく、ゾンビには生きづらい世界だ。

 さて、俺はスマホをとりだし、中林先生を選んで通話ボタンを押した。
 研究所にいる中林先生はすぐに出た。
 俺はマイク機能付きのワイヤレスイヤホンをつけているから、ヘルメットをつけたまま通話できる。

「先生、無事に大学につきました」

 中林先生は嬉しくなさそうな声で言った。

「それはよかったが。今朝言った通り、大学周辺はハッキングしていない。ここから先、こちらからサポートはできない。非感染者に襲われそうなら、すぐに退却してくれ。西浦なんかより、お前のほうがよっぽど貴重だからな」

 貴重……。
 たしかに、俺はゾンビウイルスに感染しても正気を保っている、超レアな「半ゾンビ」だ。
 ゾンビ研究に熱心な中林先生にとって、俺が貴重なのは間違いない。
 
 俺は今、完全なゾンビになった母さんを元に戻すため、恵庭隈研究所で中林先生と一緒にゾンビ治療薬の開発をしている。
 といっても、俺はただの高校3年生だから、まずは研究助手になるために、基礎的な勉強をはじめるところだ。

 そこで、今朝、中林先生はこんなことを言い出した。


「文亮。そろそろ大学図書館に行って指定の本を読んでこい。数日前からキャンパス内は感染者であふれているらしい。国防軍や警察も撤退済みのはずだ。今ならゾンビが一匹大学に忍び込んだところで、誰も気にしないだろう」

 俺はそこでふと気になって、中林先生にたずねた。

「先生、どうやって大学の情報をつかんでるんですか? 大学もハッキングしてたんですか?」

 中林先生はパンデミックが深刻になる前からこういう事態の準備をしていて、感染拡大でロックダウンが起きてからは、研究所周辺施設のコンピューターと監視カメラをハッキングして、周辺の状況を把握していた。もちろん、犯罪だけど、もうこの辺は無法地帯だから。
 でも、大学は研究所から結構距離が離れていて、しかも、ここ数日、中林先生はゾンビ研究に熱中していて、他のことはやっていない。だから、俺は不思議に思ったのだ。
 中林先生は淡々と言った。

「大学内にたてこもっている知り合いから連絡があった」

(先生の知り合い……?)

 ちょっと意外だった。中林先生はかなりの変人で人間嫌いだから。
 中林先生はたぶん、「知り合い」程度の人と連絡を取り合ったりしない。
 俺の父さんは中林先生と高校の時からの友達だけど、それでも、なかなか返事をくれないし会ってくれない、と父さんは昔嘆いていた。

 俺がそんなことを考えていると、中林先生と付き合いの長い研究員の女性が補足説明をしてくれた。

「西浦先生ですね。先生の昔からの友人で、よく先方に伺って一緒にプログラミングをしていた」

 やっぱり、偏屈な中林先生の「知り合い」は普通の人がいう「仲のいい友達」だ。

「あいつが助けてくれというから、手伝ってやっていたんだ」

 中林先生は淡々とそう言ったけど。
 俺は首をかしげながら、中林先生にたずねた。

「先生、その人って、非感染者ですよね? 普通のゾンビは連絡なんてできないから。だとしたら、その人、ゾンビであふれている大学にいて、大丈夫なんですか?」

 俺がたずねると、中林先生はあまり関心がなさそうな様子で言った。

「さぁな。ゾンビに校舎を囲まれていて避難できないらしい。学生も一緒にいるから助けてほしいと言っていたが」

 それを聞いて、俺はあきれかえった。

「先生、友達が助けを呼んでいるのに、なんで平然と放置してるんですか? 早くその人達を助けないと」

「そうですよ」

 と、俺と一緒に研究所に避難している俺の高校の後輩女子も言った。
 でも、中林先生は淡々と言った。

「私にできることはない。文亮を派遣することはできるが、非感染者との接触にはリスクがあるからな」

 俺の後輩は、中林先生を非難するような雰囲気を漂わせながら、俺にむかって言った。

「先輩、無理はしてほしくないけど。できたら、できる範囲で助けてあげてください。先生のために」

 俺はうなずいた。かわいい後輩の頼みは断れない。そうじゃなくても、俺はそうするつもりだったけど。

「うん。先生、俺はその人達をたすけます。避難させてから、図書館で勉強をします。じゃないと、勉強に集中できないです。すぐそばで助けを求めている人がいるのに無視して勉強なんて。先生と違って、ゾンビの俺には人の心があるんです」

 中林先生は、俺の皮肉をスルーして言った。

「そうか? そこまで言うなら、西浦達をたすけてやってくれ」


 というわけで、俺は西浦先生と学生たちを救出するため、自転車でこの大学まで急行してきたのだ。
 そして今、俺は大学の正門前に到着したところ。

 中林先生はスマホごしに俺に言った。

「救出ついでに、ロボットの開発・整備ができる優秀そうなやつがいれば1名スカウトしてくれ。ゾンビの繁栄のためにはロボットが不可欠だからな」

 人間嫌いの中林先生は、俺のお願いを聞いていちおう治療薬の開発はしているけど、本心では全人類がゾンビになる日を心待ちにしている。だから、着々とゾンビ繁栄のための準備を進めている。ゾンビは働かないから、超人手不足の時代に備えて、ロボットを開発する気らしい。

「了解。じゃ、俺はとりあえず大学の中に入ります」
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