3 / 27
第2話 ゾンビ、救出依頼を受ける
しおりを挟む
ペダルをこぐのをやめ、ゆっくりとブレーキをかけて、俺は大学の正門の前で自転車をとめた。
乗っているのは自転車だけど、俺はバイク用のフルフェイスヘルメットをかぶっている。
おまけに、すでに暑い季節なのに手袋とネックウォーマーを装着。
あやしい格好だってことは自覚している。
でも、どうしようもない。
皮膚をさらせば、一目で俺がゾンビだってことがバレてしまうから。
この世界でゾンビだとバレれば、とたんに命の危険にさらされる。
俺はゾンビになってから散々殺されかけてきたから、よーく知っている。
大抵の非感染者は、なぜかゾンビを見つけると速攻血眼になってゾンビを殺しにかかるのだ。
まったく、ゾンビには生きづらい世界だ。
さて、俺はスマホをとりだし、中林先生を選んで通話ボタンを押した。
研究所にいる中林先生はすぐに出た。
俺はマイク機能付きのワイヤレスイヤホンをつけているから、ヘルメットをつけたまま通話できる。
「先生、無事に大学につきました」
中林先生は嬉しくなさそうな声で言った。
「それはよかったが。今朝言った通り、大学周辺はハッキングしていない。ここから先、こちらからサポートはできない。非感染者に襲われそうなら、すぐに退却してくれ。西浦なんかより、お前のほうがよっぽど貴重だからな」
貴重……。
たしかに、俺はゾンビウイルスに感染しても正気を保っている、超レアな「半ゾンビ」だ。
ゾンビ研究に熱心な中林先生にとって、俺が貴重なのは間違いない。
俺は今、完全なゾンビになった母さんを元に戻すため、恵庭隈研究所で中林先生と一緒にゾンビ治療薬の開発をしている。
といっても、俺はただの高校3年生だから、まずは研究助手になるために、基礎的な勉強をはじめるところだ。
そこで、今朝、中林先生はこんなことを言い出した。
「文亮。そろそろ大学図書館に行って指定の本を読んでこい。数日前からキャンパス内は感染者であふれているらしい。国防軍や警察も撤退済みのはずだ。今ならゾンビが一匹大学に忍び込んだところで、誰も気にしないだろう」
俺はそこでふと気になって、中林先生にたずねた。
「先生、どうやって大学の情報をつかんでるんですか? 大学もハッキングしてたんですか?」
中林先生はパンデミックが深刻になる前からこういう事態の準備をしていて、感染拡大でロックダウンが起きてからは、研究所周辺施設のコンピューターと監視カメラをハッキングして、周辺の状況を把握していた。もちろん、犯罪だけど、もうこの辺は無法地帯だから。
でも、大学は研究所から結構距離が離れていて、しかも、ここ数日、中林先生はゾンビ研究に熱中していて、他のことはやっていない。だから、俺は不思議に思ったのだ。
中林先生は淡々と言った。
「大学内にたてこもっている知り合いから連絡があった」
(先生の知り合い……?)
ちょっと意外だった。中林先生はかなりの変人で人間嫌いだから。
中林先生はたぶん、「知り合い」程度の人と連絡を取り合ったりしない。
俺の父さんは中林先生と高校の時からの友達だけど、それでも、なかなか返事をくれないし会ってくれない、と父さんは昔嘆いていた。
俺がそんなことを考えていると、中林先生と付き合いの長い研究員の女性が補足説明をしてくれた。
「西浦先生ですね。先生の昔からの友人で、よく先方に伺って一緒にプログラミングをしていた」
やっぱり、偏屈な中林先生の「知り合い」は普通の人がいう「仲のいい友達」だ。
「あいつが助けてくれというから、手伝ってやっていたんだ」
中林先生は淡々とそう言ったけど。
俺は首をかしげながら、中林先生にたずねた。
「先生、その人って、非感染者ですよね? 普通のゾンビは連絡なんてできないから。だとしたら、その人、ゾンビであふれている大学にいて、大丈夫なんですか?」
俺がたずねると、中林先生はあまり関心がなさそうな様子で言った。
「さぁな。ゾンビに校舎を囲まれていて避難できないらしい。学生も一緒にいるから助けてほしいと言っていたが」
それを聞いて、俺はあきれかえった。
「先生、友達が助けを呼んでいるのに、なんで平然と放置してるんですか? 早くその人達を助けないと」
「そうですよ」
と、俺と一緒に研究所に避難している俺の高校の後輩女子も言った。
でも、中林先生は淡々と言った。
「私にできることはない。文亮を派遣することはできるが、非感染者との接触にはリスクがあるからな」
俺の後輩は、中林先生を非難するような雰囲気を漂わせながら、俺にむかって言った。
「先輩、無理はしてほしくないけど。できたら、できる範囲で助けてあげてください。先生のために」
俺はうなずいた。かわいい後輩の頼みは断れない。そうじゃなくても、俺はそうするつもりだったけど。
「うん。先生、俺はその人達をたすけます。避難させてから、図書館で勉強をします。じゃないと、勉強に集中できないです。すぐそばで助けを求めている人がいるのに無視して勉強なんて。先生と違って、ゾンビの俺には人の心があるんです」
中林先生は、俺の皮肉をスルーして言った。
「そうか? そこまで言うなら、西浦達をたすけてやってくれ」
というわけで、俺は西浦先生と学生たちを救出するため、自転車でこの大学まで急行してきたのだ。
そして今、俺は大学の正門前に到着したところ。
中林先生はスマホごしに俺に言った。
「救出ついでに、ロボットの開発・整備ができる優秀そうなやつがいれば1名スカウトしてくれ。ゾンビの繁栄のためにはロボットが不可欠だからな」
人間嫌いの中林先生は、俺のお願いを聞いていちおう治療薬の開発はしているけど、本心では全人類がゾンビになる日を心待ちにしている。だから、着々とゾンビ繁栄のための準備を進めている。ゾンビは働かないから、超人手不足の時代に備えて、ロボットを開発する気らしい。
「了解。じゃ、俺はとりあえず大学の中に入ります」
乗っているのは自転車だけど、俺はバイク用のフルフェイスヘルメットをかぶっている。
おまけに、すでに暑い季節なのに手袋とネックウォーマーを装着。
あやしい格好だってことは自覚している。
でも、どうしようもない。
皮膚をさらせば、一目で俺がゾンビだってことがバレてしまうから。
この世界でゾンビだとバレれば、とたんに命の危険にさらされる。
俺はゾンビになってから散々殺されかけてきたから、よーく知っている。
大抵の非感染者は、なぜかゾンビを見つけると速攻血眼になってゾンビを殺しにかかるのだ。
まったく、ゾンビには生きづらい世界だ。
さて、俺はスマホをとりだし、中林先生を選んで通話ボタンを押した。
研究所にいる中林先生はすぐに出た。
俺はマイク機能付きのワイヤレスイヤホンをつけているから、ヘルメットをつけたまま通話できる。
「先生、無事に大学につきました」
中林先生は嬉しくなさそうな声で言った。
「それはよかったが。今朝言った通り、大学周辺はハッキングしていない。ここから先、こちらからサポートはできない。非感染者に襲われそうなら、すぐに退却してくれ。西浦なんかより、お前のほうがよっぽど貴重だからな」
貴重……。
たしかに、俺はゾンビウイルスに感染しても正気を保っている、超レアな「半ゾンビ」だ。
ゾンビ研究に熱心な中林先生にとって、俺が貴重なのは間違いない。
俺は今、完全なゾンビになった母さんを元に戻すため、恵庭隈研究所で中林先生と一緒にゾンビ治療薬の開発をしている。
といっても、俺はただの高校3年生だから、まずは研究助手になるために、基礎的な勉強をはじめるところだ。
そこで、今朝、中林先生はこんなことを言い出した。
「文亮。そろそろ大学図書館に行って指定の本を読んでこい。数日前からキャンパス内は感染者であふれているらしい。国防軍や警察も撤退済みのはずだ。今ならゾンビが一匹大学に忍び込んだところで、誰も気にしないだろう」
俺はそこでふと気になって、中林先生にたずねた。
「先生、どうやって大学の情報をつかんでるんですか? 大学もハッキングしてたんですか?」
中林先生はパンデミックが深刻になる前からこういう事態の準備をしていて、感染拡大でロックダウンが起きてからは、研究所周辺施設のコンピューターと監視カメラをハッキングして、周辺の状況を把握していた。もちろん、犯罪だけど、もうこの辺は無法地帯だから。
でも、大学は研究所から結構距離が離れていて、しかも、ここ数日、中林先生はゾンビ研究に熱中していて、他のことはやっていない。だから、俺は不思議に思ったのだ。
中林先生は淡々と言った。
「大学内にたてこもっている知り合いから連絡があった」
(先生の知り合い……?)
ちょっと意外だった。中林先生はかなりの変人で人間嫌いだから。
中林先生はたぶん、「知り合い」程度の人と連絡を取り合ったりしない。
俺の父さんは中林先生と高校の時からの友達だけど、それでも、なかなか返事をくれないし会ってくれない、と父さんは昔嘆いていた。
俺がそんなことを考えていると、中林先生と付き合いの長い研究員の女性が補足説明をしてくれた。
「西浦先生ですね。先生の昔からの友人で、よく先方に伺って一緒にプログラミングをしていた」
やっぱり、偏屈な中林先生の「知り合い」は普通の人がいう「仲のいい友達」だ。
「あいつが助けてくれというから、手伝ってやっていたんだ」
中林先生は淡々とそう言ったけど。
俺は首をかしげながら、中林先生にたずねた。
「先生、その人って、非感染者ですよね? 普通のゾンビは連絡なんてできないから。だとしたら、その人、ゾンビであふれている大学にいて、大丈夫なんですか?」
俺がたずねると、中林先生はあまり関心がなさそうな様子で言った。
「さぁな。ゾンビに校舎を囲まれていて避難できないらしい。学生も一緒にいるから助けてほしいと言っていたが」
それを聞いて、俺はあきれかえった。
「先生、友達が助けを呼んでいるのに、なんで平然と放置してるんですか? 早くその人達を助けないと」
「そうですよ」
と、俺と一緒に研究所に避難している俺の高校の後輩女子も言った。
でも、中林先生は淡々と言った。
「私にできることはない。文亮を派遣することはできるが、非感染者との接触にはリスクがあるからな」
俺の後輩は、中林先生を非難するような雰囲気を漂わせながら、俺にむかって言った。
「先輩、無理はしてほしくないけど。できたら、できる範囲で助けてあげてください。先生のために」
俺はうなずいた。かわいい後輩の頼みは断れない。そうじゃなくても、俺はそうするつもりだったけど。
「うん。先生、俺はその人達をたすけます。避難させてから、図書館で勉強をします。じゃないと、勉強に集中できないです。すぐそばで助けを求めている人がいるのに無視して勉強なんて。先生と違って、ゾンビの俺には人の心があるんです」
中林先生は、俺の皮肉をスルーして言った。
「そうか? そこまで言うなら、西浦達をたすけてやってくれ」
というわけで、俺は西浦先生と学生たちを救出するため、自転車でこの大学まで急行してきたのだ。
そして今、俺は大学の正門前に到着したところ。
中林先生はスマホごしに俺に言った。
「救出ついでに、ロボットの開発・整備ができる優秀そうなやつがいれば1名スカウトしてくれ。ゾンビの繁栄のためにはロボットが不可欠だからな」
人間嫌いの中林先生は、俺のお願いを聞いていちおう治療薬の開発はしているけど、本心では全人類がゾンビになる日を心待ちにしている。だから、着々とゾンビ繁栄のための準備を進めている。ゾンビは働かないから、超人手不足の時代に備えて、ロボットを開発する気らしい。
「了解。じゃ、俺はとりあえず大学の中に入ります」
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる