桜の樹の下にはゾンビが眠っているーーゾンビVS殺人事件! ゾンビはびこる終末世界でたてこもる人々を襲う連続殺人事件。その真相は!?

しゃぼてん

文字の大きさ
9 / 27

第8話 ゾンビ、連絡先を交換する

しおりを挟む
 俺はあちこちの部屋からテーブルを移動して、それを見つけたロープで縛りつけて、簡易バリケードを作った。
 ついさっき、外で死体を見つけたわけだけど。俺は慌てて4階に戻ろうという発想にはならなかった。
 異常事態の中に居続けたせいで、俺の感覚はもう何かが麻痺してしまっているのかもしれない。
 知らない人の死体があっても、それだけじゃ何も感じなくなっている。

 バリケードを作り終えると、俺はエレベーターに乗って4階に戻った。
 エレベーターから降りると、エレベーターホールに築かれた立派なバリケードの向こうに、青ざめた顔の小柄な大学院生っぽい男性がいるのが見えた。
 たしか、ザワチンと呼ばれていた人だ。
 
「すいません。西浦先生を呼んでもらえますか? とりあえずバリケードを作りました」

 俺が声をかけると、小柄な大学院生っぽい人、ザワチンさんは、俺を指さしながら言った。

「君はそこから動くなよ。ゾンビに襲われないなんて、絶対おかしい……」

 ぶつぶつ言いながらザワチンさんはスマホで電話をかけた。
 数分後、エレベーターホールに、青い顔をした工学部の人達が集合した。
 さっき会った時と、メンバーがちょっと違うような気がする。あの怖いおじいさん先生はいない。でも、人数はさっきと同じく6人いる。

 俺は死体のことを聞こうか迷いながら、まずは西浦先生に報告した。

「西浦先生。バリケードは作り終えました。見つけたゾンビは建物の外に追い出しておいたから、建物内のゾンビの数は減ってるし、たぶんこれで出入口までちゃんと移動できます」

 西浦先生は頭を下げた。

「ありがとう。えーっと、お名前を聞き忘れていましたね。お名前は?」

「木根文亮です」

 そこで、なんだか空気を読まなさそうな、ギャルっぽい少女が口をはさんだ。

「あたしは大鳥カラ。よろしくー」

「よ、よろしく……」

 さっきも思ったんだけど、このギャルは、誰かの妹? 
 工学部の大学生には見えないギャルだ。
 というか、昔のドラマや記録映像でしか見ないような一昔、いや、二昔か三昔くらい前のギャルだ。

 ともかく俺は、西浦先生にたずねた。

「あの、大丈夫ですか? 外に死体がありましたけど」

 何気なく聞くようなことじゃないけど。俺は何気なく聞いた。
 青ざめたザワチンさんが自分に言い聞かせるように震える声で早口に言った。

「立花君はただの自殺だよ。そうだ。ただの、自殺だ。別に、桜の樹の呪いなんかじゃない。そうだ。そんなはずはないんだ」

 俺は冷静に聞き返した。

「自殺? 桜の木の呪い? 俺は殺人事件かと思ったんですけど」

 俺の推理では、立花さんは自殺じゃない。というより、転落死ではない。
 途中で桜の木というクッションにぶつかったんだから、よっぽど打ちどころが悪くない限り、転落で即死するとは思えない。
 なのにゾンビが移動していないということは、立花さんは落ちた時にはすでに死んでいたはずだ。

 つまり、殺されてから、落とされた。
 そして、当然、立花さんを殺して死体を窓から落とした犯人は、この工学部にいる。

 だけど、俺がそれ以上何かを言う前に、ザワチンさんはヒステリックな声になって言った。

「殺人? そんなわけないじゃない。君は何を言ってるんだ!」

 大鳥カラという名のギャルが冷静な声でザワチンさんに言った。

「でもさ、ザワチン。やっぱ自殺にしては変じゃない? 本気で死にたいなら、4階じゃなくて、もっと高いとこ、寝場所にしている5階から飛び降りればいいじゃん。しかも、あの場所さ、ちょうど窓の下に桜の木があるんだよ? あそこから飛び降りたら、木の枝にひっかかりそうだよね。そしたら……」

 カラは俺と同じことを考えていたようだ。
 ザワチンさんはかん高い声で叫んだ。

「うるさい! 変なことを言うんじゃない! 当たり所が悪ければ、階段から落ちただけでも人は死ぬんだから、4階も5階もないよ。桜の木があってもなくても、運が悪ければ、死ぬんだよ。立花君は運が悪かったんだ。運が、悪い……? てことは、呪い……? これはやっぱり呪いなのか……? 桜の木の呪いぃ……」
 
 ザワチンさんは、最後の方はぼそぼそと言いながら、両手で頭を抱えてしまった。
 どうやらザワチンさんはショックで半分パニック状態のようだ。
 こういう人は、あまり刺激しない方がいい。
 もしも俺がここで「犯人はあなた達の中にいる」なんて、名探偵ぶっちゃったら、逆上されて大変なことになるだろう。
 だから、俺は黙った。
 名探偵だったら、ここで空気を読まずに現場検証とアリバイの調査をして犯人捜しをするんだろうけど。
 俺は意外と常識のあるゾンビだから。
 というか、名探偵ゾンビぶって俺が集団リンチにあったら嫌だから。

 重苦しい沈黙が漂う中、カラは俺にむかって明るく言った。

「あ、そーだ。フミピョン。連絡先交換してよ」

(フミピョン!?)

 名乗ってさっそく、変なあだ名をつけられた……。
 てか、この状況で、連絡先交換?
 殺人事件が起きて、みんな、顔面蒼白で動揺しまくっている中で?
 この「ヤッホー。友達になろ?」みたいな明るいテンション?

「いいけど……」

 冷静に考えれば、連絡先交換しておいた方が便利だから。俺は空気を読まない大鳥カラという変なギャルと、それから西浦先生と連絡先を交換した。
 そして、先生たちに「明日また来ます」と告げ、俺は速やかにその場を去った。
 あまり長居したい雰囲気じゃなかったから。
 殺人犯の存在は気になるけど。

 陰鬱な工学部の建物を出て、太陽光を浴びると、俺は少し生き返ったような気分になった。
 フルフェイスヘルメットをしているから、むちゃくちゃ暑いけど。
 辺りではゾンビ達が相変わらずゴミを拾って落としたり、車輪を回したり、のんびり昼寝をしていたりしている。

(やっぱりこの方が平和で落ち着くよな)

 そう思いながら、俺はヘルメットの中で深く長いため息をついた。
 ゾンビに囲まれている方が落ち着くなんて。俺もずいぶんゾンビ色に染まってしまった。
 でも、ゾンビたちは俺にとっては、本当に安全で平和な存在だ。俺は襲われないし、それに、すくなくともゾンビは人を殺さない。

 そう考えたところで、俺はちょっと心配になって工学部の建物を振り返った。

(大丈夫だよな。うん。あの中に殺人鬼がいて連続殺人に、なんてことは……さすがに、ないない)

 工学部を後にして、俺は勉強をするために図書館にむかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...