もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~

第80話 終わりと始まり

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 オレンはふらふらと後ずさりながら小瓶の液体を飲みほし、そして笑い声をあげた。
 白いローブは赤く血で染まっていくのに、オレンにはひるむ様子も苦しむ様子もなかった。

「見事だ。さすがウェルグァンダルの召喚士。あるいは、私の才能のなさゆえか。わが才では一生涯の努力をして、いまだ召喚の基礎すら知らぬ少女の足元にも及ばない。才能とは残酷なものだ」

 オレンは火口近くに立ち、片方の手をローブの中にいれていた。 

「最後に、召喚術が野蛮な魔術とされる、もう一つの理由を教えよう。それは、召喚契約だ。精霊と語らうことのできる選ばれし者、ウェルグァンダルの召喚士である君には理解できぬだろうが。ウェルグァンダルの契約をのぞけば、召喚の基本は、精霊を打ちのめし魔術契約で強制的に縛りつけるもの。そして、もう一つ。野蛮この上ない特殊な召喚契約が存在する」

 オレンはローブからすばやく何かを取り出し、それを火口に投げこんだ。
 とたんに、地面が激しく揺れ動きだした。
 立っているのもやっとなぐらいで、身動き取れない。
 ゆれ動く地の端で、オレンはしゃべり続けていた。

「この火山は『溶岩魔神ヴァラリヒヌ』との召喚契約の場。かつて若かりし頃、この山にやってきた私は、後一歩のところでこの強大な力をもつ精霊との契約をあきらめた。今でも思う。あの時契約をしていれば、私の人生は違うものになっていただろう、と。さて、ここで質問だ。神と呼ばれるほどの強大な力を持つ精霊との契約に必要なもの、それは何だ?」

 イーアがとまどい、無言のままでいると、オレンは言った。

「答えは、生贄いけにえとしてささげる人命だ。さぁ、契約を結ぼうではないか、火焔と溶岩の魔神よ!」

 巨大な火口から、炎と溶岩が垂直に噴き出た。
 その炎と溶岩の塊は、人の形を取っていた。溶岩の塊の頭部にある一つ目が開かれ、激しい熱波が辺り一帯をおそった。
 魔神の声が轟いた。

『契約を望む者、贄の命を捧げよ』

 イーアの横に、いつの間にかティトがあらわれていた。
 ティトはフンッと鼻をならして言った。

『地底のヤモリたちががんばってたから、おれの出番はないかと思ったんだけどな。そう簡単には終わらないか。魔神だろうが何だろうが、イーアは渡さん!』

 ティトの唸り声がごうおんの中に響いた。
 火口に立つオレンが、ふっと笑った。

「あの奨学生試験で君に初めて会った時、私は自分がなぜ生まれてきたのか悟った気がした。私には野心も夢もあった。いずれ、私は世界一の召喚士になるのだと、君ぐらいの年頃には信じていた。だが、いくら努力をしても結局、半人前の召喚士。だが、そんな取るに足らない路傍の石にも次代へと夢をつなぐことはできる。この老いぼれの夢、勝手に託させてもらおう! 火焔の魔神ラヴァリヒトよ。我が命を贄とし召喚士イーアと契約を結べ!」

 オレンの姿が、火口に消えた。

「オレン先生!」

 激しい火焔が噴き上がり、溶岩魔神の声がとどろいた。

『たしかに贄を受け取った。召喚士よ。我が試練を乗り超えたあかつきには、汝と契約を結ばん』

 溶岩の塊がいくつも上空に持ち上げられた。
 ティトがうなった。

『生贄を取っといて、さらに試練だ? あいつ、欲張りなやつだな』

『ティト、逃げよう! 友契の書、わたしをウェルグァンダルに』 

 イーアは別にあの魔神と契約なんてしたくない。だったら、ただ逃げればいいだけだ。
 だけど、その時すでに、イーア達の周囲、火口付近全体を炎の壁がおおっていた。
 『友契の書』の淡々とした声が聞こえた。

『ヴァラリヒヌの結界により、召喚士の転移は不可能です。なお、精霊の召喚は行えます』

 ヴァラリヒヌと戦うしかない。
 巨大な溶岩の塊が、イーアめがけて飛んできた。
 だけど、ティトがイーアに体当たりして突き飛ばしたおかげで、ふたりとも溶岩の塊を避けることができた。
 あの溶岩が少しでもかすれば、イーアは焼けこげ死んでしまうだろう。
 地表にぶつかり赤黒く染める溶岩を見ながらイーアはティトにたずねた。

『ティト、どうする?』

『たぶん、弱点はあいつの目だ。他の部分を攻撃してもダメージを与えられる気がしない』

 ヴァラリヒヌの体は溶岩と炎でできている。あの体にぶつかれば、ダメージを与えられないどころか、こっちが大ダメージを受けそうだ。
 ティトのいうとおり、目を狙うしかないだろう。
 だけど、ヴァラリヒヌの顔とそこにある一つ目は、かなり高い位置にある。
 ティトは早口に言った。

『おれなら、あいつの目を攻撃できる。でも、攻撃するには、ために時間がかかるんだ。しばらく無防備になるから、その間をどうにかしてくれ』

『わかった』

 イーアはユウリにもらった魔力回復薬を飲み干し、『モンペル、もう一度お願い』と呼んだ。
 さっき爆弾炎岩に爆破されて消えてしまったばかりだけど、モンペルたちはもう一度やってきてくれた。
 モンペルは数が多いから、ダメージを受けて消えても他の個体がすぐに呼べるようだ。

 再び、火口から火炎と溶岩が噴出し、ヴァラリヒヌの頭上に炎をまとう溶岩の塊がいくつも出現した。

『モンペル、溶岩からわたしとティトを守って!』

 モンペルが動き出した。
 ティトはしっぽをピンと高くあげた。
 ティトのしっぽの先はいつも輪郭りんかくがはっきりと見えないほど強い光を放っている。
 そのしっぽの先の部分に、いつもより強く強くまるで太陽のように強い光が集まっていた。

 『これでどうだ!』というヴァラリヒヌの声とともに、溶岩の塊が、降ってきた。
 モンペルはイーアとティトを守る壁と屋根となり、降ってくる巨大な溶岩の塊をふせいだ。
 溶岩の塊はガンガンと次から次へと降って来て、モンペルの屋根のはしから灼熱しゃくねつの溶岩が流れ落ちていった。
 だんだんと青いモンペルが溶岩の熱で赤く変色していく。
 溶岩の雨がとまった時。ついにモンペルはバラバラになって消えていった。

 だけど、その瞬間、ティトの尻尾の先から一直線に光線が放たれ、溶岩魔人の一つ目を撃ち抜いた。

 溶岩の魔神が一つ目を両手でおさえ、もだえ苦しむように火口の上で暴れまわった。その動きで、溶岩の欠片と火の粉がイーアとティトにようしゃなく降ってきた。
 さっきの溶岩の攻撃のような激しい攻撃ではない。これはヴァラリヒヌにとっては攻撃ですらないはずだ。
 だけど、ただの人間であるイーアはこれでも十分ダメージをうけてしまう。

『熱っ! ……ヒューラック!』

 降ってくる溶岩の欠片に皮膚ひふを焼かれ、イーアは何も考えずに、必死にヒューラックを呼んだ。
 ウェルグァンダルの冷凍庫の中にいた白くて丸くてふわふわした可愛い物体が何匹も出てきた。

『ヒュー。ここ熱いヒュー。苦しいヒュー』

 そう言いながら、ヒューラックはイーアとティトの上に乗った。ヒューラックは氷のように冷たい。ヒューラックを抱きかかえ、その冷たさでイーアがやけどを冷やしている内に、ティトが障壁を張った。

 溶岩魔神ヴァラリヒヌは暴れるのをやめ、目をつぶったまま腕組みをしてうなずいた。

『召喚士よ。汝の力、認めよう。我が力、その短き生が終わるまで、しばし貸さん』

 魔神の姿と炎が轟音とともに、火口の中へと沈んでいった。
 イーア達を囲んでいた炎の壁も消えた。

 『ヒュー……』と力なく鳴き、ヒューラックたちも力尽き消えていった。
 周囲を流れていた溶岩はすでに固まりだしていて、今は黒ずんでいる。
 さっきまでの激しい戦闘や音が嘘のように、山頂は静かになっていた。

 イーアは地面にへたりこみながら、静かに火の粉がふきでる火口を見た。
 今はもう、あの場所に消えていったオレンの姿も、ヴァラリヒヌの姿も、すべて幻だったかのように感じる。

(オレン先生……)

 たぶん、オレンは最初から、ああするつもりだったんだろう。
 自分の命を使って、イーアに自分が知っている最強の精霊と契約させる。
 なぜそんなことをするのか、オレンの心情はイーアには理解できない。
 でも、そうでなければ、ここにギルフレイ卿を呼ばなかった理由がない。

 イーアはゆっくりと立ち上がりながら、ティトに言った。

『終わったね』

 オレンとの戦いは終わった。
 でも、ティトはけわしい表情で言った。

『ちがう。はじまったんだ。あの石を、白装束たちから奪ったんだろ?』 

『うん』

 白装束の魔導士たちは、支配者の石板の欠片を奪いにくるだろう。
 ガネンの民全員でも、地底竜モルドーですら、守り切れなかったものを、これからイーアが守らなければいけない。
 でも、不思議とイーアには絶望的だとは思えなかった。

『だいじょうぶ。きっと、どうにかなるよ。ウェルグァンダルに行こう。ガリに聞くことがあるから』

 ティトはフンッと鼻をならした。

『あのトカゲかぶれか。助けになるといいけどな』

『たぶんなるよ。ガリは』

『じゃ、また後でな』

 ティトは姿を消した。
 イーアは『友契の書』にお願いした。

『友契の書、わたしをウェルグァンダルに』




・・・


 白い石材でできた美しい神殿のあちらこちらを白いローブに白銀の仮面をつけた者達が歩いていた。
 幾人いくにんかは薄暗い廊下で立ちどまり、うわさ話をささやきあっている。

「アンドルが例のモノの回収に失敗したそうだ」
「なんと。あの成り上がりの私生児も運の尽きか」
「近く大臣の職を解かれ、バララセにとばされるという噂だ」
「ふふふ。いい気味だ。下賤げせんな魔女の子がえある帝国の要職につくなどあってはならぬことだったのだ」

 そんなささやき声の聞こえる廊下をひとりの魔導士が優雅に通り抜けていった。
 優雅に歩く魔導士は人気のない美しい小さな庭園を抜け、石像のある小部屋に入った。
 室内の石のベンチには、手の甲に黒い呪炎のあざをもつ白装束の魔導士がひとりうつむき座っていた。

「お疲れのご様子で。ギルフレイ卿、いや、同志アンドル」

 入ってきた魔導士がそう優雅な仕草であいさつをすると、ギルフレイ卿は歯ぎしりとともに苦々しい声で言った。

「グランドールの件には手を出すなと言っただろう。ホスルッド」

「なんのことでしょう。仰せの通り、私は一切手を出しませんでしたが」

「とぼけるな。この落とし前、いずれつけてもらうぞ」

 吐き捨てるようにそう言うと、ギルフレイ卿は立ちあがり、ホスルッドの耳元に口を近づけ小声でささやいた。

「今度邪魔をすれば、貴様の息子であろうと容赦はせん」

 立ち去るギルフレイ卿を、小首をかしげながら見送り、銀色の仮面の中でホスルッドは小さくつぶやいた。

「あの子が何かしたのかな?」






第一部 終


ーーーーーーーーー
[あとがき]

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。このまま第二部に突入しますので、引き続きよろしくお願いします。
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