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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~
第193話 ユウリVSホスルッド
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ユウリは空を飛びながら眼下の山々の中に白い建物を探した。
(見つけた)
ベグランが言った通り、山中にポツンと存在する白亜の美しい建造物が見えた。
だが、ユウリがその建物の傍に降りようとした時、その白い建物の前に置かれた、なかば朽ちたベンチに、<白光>の白いローブを着た人影が優雅に座っているのが目に入った。
後ろから飛んできていたベグランがつぶやく声を、風が届けてきた。
「あーらら。さすがホスルッドさんだ。かぎつけられちまうとは」
ユウリが草の上に降り立つと、ホスルッドはすぐに仮面をはずし、立ち上がった。三十代になってもいまだに誰もがかけねなしに美しいと評するその顔に満面の笑みをうかべて、ホスルッドは声をかけてきた。
「やぁ、エルツ。会えてうれしいよ。これからいっしょに食事にでもいかないかい?」
「師匠、僕は団長に用事があります。そこを通してください」
「残念だけど、それは認められないな。仮に本当に君が団長殿に呼ばれていたとしても、ここは通さないよ」
ホスルッドは笑顔をくずさずそう言った。
<白光>クロー派の実質的な長バルトルは、ホスルッドのことを感情のままに動く人間だというが、少なくともホスルッドは感情や本心を表にだせないすべは身に着けている。
常に優雅で笑みをたやさない。
それは帝国貴族の社交上のたしなみでもあったが、庶民の中で育ったユウリは、ホスルッドのそういうところにも苛つく。
だが、感情を表に出さない性質は、むしろユウリの生まれついての気質だった。
「なら、力づくで通ります」
表情を変えず冷静な声でそう言い、ユウリは再び空に飛翔し、呪文を唱えた。
その声に呼応するように、さっきまで晴れていた空を巨大な暗雲が覆い始めた。
「力試しかい? それも良いね。いつか全力で君と魔法勝負がしたいと願っていたんだ」
ホスルッドは穏やかにうれしそうにそう言い、空にあがった。
多くの魔導士は空中を移動するために重力を操作する移動魔法を使うが、ホーヘンハインには空中を自在に動くための風魔法が伝えられている。
ホーヘンハインの魔導士の戦いは基本的に空中戦になる。
自然魔法の使い手は、空中にいる方が戦いやすいのだ。大規模な自然魔法を使えば、地表は崩壊状態になるから。
自然魔法の名門ホーヘンハインは、アグラシアの人々にもっとも尊敬されてきた一門だ。
なぜならホーヘンハインの魔導士達は自然災害を防ぐことができるから。
大雨で引き起こされる洪水や竜巻の被害を防ぎ、逆に日照りや干ばつで苦しむ地域に雨を降らせることもできる。
そのため、自然魔法のすぐれた使い手は人々に救世主のようにあがめられることもあった。
だが、自然災害をおさめる魔法の力は、使いようによっては災害を引き起こす力になる。
強大な力をもつ自然魔法の使い手は、町一つを水没させることも、強風で破壊しつくすことも意のままだ。
ホーヘンハインの城主ホスルッドの力はその域に達している。
そして、今はユウリの力も。
空をおおう暗雲から大量の雨が降り出した。ユウリが頭上にあげた手の上で、大量の雨が空を流れる川のように一筋に集まっていった。
空を流れる激流は、優雅に空を漂うホスルッドの方へと一直線に流れていったが、ホスルッドはひらりとかわし、激流は山肌に衝突した。
大量の水が山の斜面を削り、木々と土砂を流していった。
空高く、離れたところで高みの見物をしながら、ベグランはつぶやいた。
「いやぁ激しい土砂崩れだ。ふもとに人里がなくてよかったなぁ。あのふたりがやりあったら、もれなく大災害だからねぇ。にしても、身一つであれだ。クロー本家は怖い怖い」
自然魔法は初等魔学校で子どもたちが最初に習う魔法のひとつで、複雑な儀式や魔道具は必要ない。
呪文や修行方法は色々あるものの、基本は自然の中に流れる魔力に自分の魔力で働きかけて操作する、というシンプルな魔術であり、その分、生まれ持った才能に大きく左右される魔術だった。
「他の一族は何百年の間に魔術の才も薄まって、今や名ばかりの名家だってのに。クローの本家だけは、先祖伝来の自然魔法の才がきっちり受け継がれてるんだから、不思議なもんだ。やたら恋に奔放な一族に見えて、ああやって才能を血脈にたもってるんかねぇ」
ベグランは傍観者としてつぶやいた。
ユウリは暗雲から供給される大量の水を操り攻撃を続けた。
ホスルッドには一度も当たらなかったが、そもそもユウリはホスルッドに当てるために攻撃しているわけではなかった。
目的は別にある。
濁流に白亜の建築物が飲み込まれた。
建物を守る結界が、水と土砂が中に入り込むのを防いでいたが、濁流が流れ去った時、白い建物の周囲の山肌は大きく削られ、あらわになっていた。
(あの中に、ウラジナルがいるなら……あの施設ごと破壊する)
ユウリの狙いは、不死者の王を操作するウラジナルだ。
イーアが危険にさらされている今、ホスルッドに構っている暇はない。
ホスルッドに攻撃をするふりをしながら、あの山中にある白い建物を破壊して、ウラジナルの古代魔法をとめる。
古代魔法は複雑な儀式と装置が必要になるため、どこでも使えるわけではない。
だから、ウラジナルを殺せなくても、建物全体を徹底的に壊せば、不死者の王を弱体化できるはず。
ただし、<白光>の施設はどこも強力な結界で守られている。
並みの攻撃では破壊できない。
ユウリは木々が流され土砂がむき出しになった山肌へ向かって飛んだ。
「そろそろ、こちらからもいこうか?」
ホスルッドは優雅に手を動かした。
突如、空に竜巻が出現し、そして、竜巻は大蛇のように曲がりくねりながら、ユウリがいる山の斜面の方へと猛スピードで進んでいった。
ユウリは風を操りその場から逃れようとしたが、ホスルッドが操る竜巻に風が引き込まれ、風を操作できなかった。とっさの判断で、ユウリは斜面に沿って川のように水を流し、急流にのって移動した。
ホスルッドの放った竜巻は、白亜の建物の結界にぶつかり、さらに山肌をえぐった。
<白光>の白い建造物はまだそこにたっている。
だが、この調子でホスルッドにあの建物付近を攻撃させ続ければ、ユウリの目的は早く達成できるだろう。
ユウリは地面に手を当てた。激しい雨で、山の側面の土はすっかり水を含んでいた。
ユウリは地下深くを流れる地下水の気配を探り当てた。
(いい感じだ)
ユウリは残された木々に身を隠すようにして、ホスルッドの攻撃をよけながら、風にのって山の頂の方へむかって移動した。
このあたりかな、と思った場所で、ユウリは再び地面に手をつけ、静かに呪文をささやいた。
ユウリは土を操る魔法はほとんど使えない。ホーヘンハインの魔法は風と水に特化しており、ユウリ自身の適性もその二つが最も優れていた。
それがクローの伝統らしい。憎らしいことにホスルッドが得意とするのも同じだった。
だが、土砂自体は操れなくても、これだけの水分を含んだ土なら、その水を操ることで動かせる。そして、ここにある大量の地下水。
まるで山と空が動いて殴り合いをしているかのように見える激しい風と水の魔法の応酬を高見から見物していたベグランは、それを見てつぶやいた。
「なんじゃ、ありゃ」
山の斜面が突然、大きく隆起し、波打った。そして、土砂とともに大量の水がまるで噴火するように空にむかって噴出した。
ホスルッドは空高く移動し、突進するドラゴンのような土砂の噴出をよけた。
だが、魔力が込められた土砂の一部がホスルッドの周囲で渦巻く風の守りを通り抜け、いつもは染み一つない白いローブが避けきれなかった泥で汚れた。
大量の土砂と水が流れ去ったとき、山は深く大きくえぐられ歪な形になっていた。
その空洞となった穴の中で、<白光>の建物は倒壊しかけたまま浮いていた。
魔法の結界で守られていたため、地下水に突き上げられ、土石流に薙ぎ払われても、全壊はしていない。
だが、白亜の建築物は、ところどころ確実に破壊されていた。
<光の休息所>の状態に気づいているのかいないのか、ほおに飛んだ土汚れをぬぐいながら、ホスルッドは心底うれしそうに笑った。
「すばらしい。すばらしいよ。エルツ。私に泥を付けられるようになるとは」
(見つけた)
ベグランが言った通り、山中にポツンと存在する白亜の美しい建造物が見えた。
だが、ユウリがその建物の傍に降りようとした時、その白い建物の前に置かれた、なかば朽ちたベンチに、<白光>の白いローブを着た人影が優雅に座っているのが目に入った。
後ろから飛んできていたベグランがつぶやく声を、風が届けてきた。
「あーらら。さすがホスルッドさんだ。かぎつけられちまうとは」
ユウリが草の上に降り立つと、ホスルッドはすぐに仮面をはずし、立ち上がった。三十代になってもいまだに誰もがかけねなしに美しいと評するその顔に満面の笑みをうかべて、ホスルッドは声をかけてきた。
「やぁ、エルツ。会えてうれしいよ。これからいっしょに食事にでもいかないかい?」
「師匠、僕は団長に用事があります。そこを通してください」
「残念だけど、それは認められないな。仮に本当に君が団長殿に呼ばれていたとしても、ここは通さないよ」
ホスルッドは笑顔をくずさずそう言った。
<白光>クロー派の実質的な長バルトルは、ホスルッドのことを感情のままに動く人間だというが、少なくともホスルッドは感情や本心を表にだせないすべは身に着けている。
常に優雅で笑みをたやさない。
それは帝国貴族の社交上のたしなみでもあったが、庶民の中で育ったユウリは、ホスルッドのそういうところにも苛つく。
だが、感情を表に出さない性質は、むしろユウリの生まれついての気質だった。
「なら、力づくで通ります」
表情を変えず冷静な声でそう言い、ユウリは再び空に飛翔し、呪文を唱えた。
その声に呼応するように、さっきまで晴れていた空を巨大な暗雲が覆い始めた。
「力試しかい? それも良いね。いつか全力で君と魔法勝負がしたいと願っていたんだ」
ホスルッドは穏やかにうれしそうにそう言い、空にあがった。
多くの魔導士は空中を移動するために重力を操作する移動魔法を使うが、ホーヘンハインには空中を自在に動くための風魔法が伝えられている。
ホーヘンハインの魔導士の戦いは基本的に空中戦になる。
自然魔法の使い手は、空中にいる方が戦いやすいのだ。大規模な自然魔法を使えば、地表は崩壊状態になるから。
自然魔法の名門ホーヘンハインは、アグラシアの人々にもっとも尊敬されてきた一門だ。
なぜならホーヘンハインの魔導士達は自然災害を防ぐことができるから。
大雨で引き起こされる洪水や竜巻の被害を防ぎ、逆に日照りや干ばつで苦しむ地域に雨を降らせることもできる。
そのため、自然魔法のすぐれた使い手は人々に救世主のようにあがめられることもあった。
だが、自然災害をおさめる魔法の力は、使いようによっては災害を引き起こす力になる。
強大な力をもつ自然魔法の使い手は、町一つを水没させることも、強風で破壊しつくすことも意のままだ。
ホーヘンハインの城主ホスルッドの力はその域に達している。
そして、今はユウリの力も。
空をおおう暗雲から大量の雨が降り出した。ユウリが頭上にあげた手の上で、大量の雨が空を流れる川のように一筋に集まっていった。
空を流れる激流は、優雅に空を漂うホスルッドの方へと一直線に流れていったが、ホスルッドはひらりとかわし、激流は山肌に衝突した。
大量の水が山の斜面を削り、木々と土砂を流していった。
空高く、離れたところで高みの見物をしながら、ベグランはつぶやいた。
「いやぁ激しい土砂崩れだ。ふもとに人里がなくてよかったなぁ。あのふたりがやりあったら、もれなく大災害だからねぇ。にしても、身一つであれだ。クロー本家は怖い怖い」
自然魔法は初等魔学校で子どもたちが最初に習う魔法のひとつで、複雑な儀式や魔道具は必要ない。
呪文や修行方法は色々あるものの、基本は自然の中に流れる魔力に自分の魔力で働きかけて操作する、というシンプルな魔術であり、その分、生まれ持った才能に大きく左右される魔術だった。
「他の一族は何百年の間に魔術の才も薄まって、今や名ばかりの名家だってのに。クローの本家だけは、先祖伝来の自然魔法の才がきっちり受け継がれてるんだから、不思議なもんだ。やたら恋に奔放な一族に見えて、ああやって才能を血脈にたもってるんかねぇ」
ベグランは傍観者としてつぶやいた。
ユウリは暗雲から供給される大量の水を操り攻撃を続けた。
ホスルッドには一度も当たらなかったが、そもそもユウリはホスルッドに当てるために攻撃しているわけではなかった。
目的は別にある。
濁流に白亜の建築物が飲み込まれた。
建物を守る結界が、水と土砂が中に入り込むのを防いでいたが、濁流が流れ去った時、白い建物の周囲の山肌は大きく削られ、あらわになっていた。
(あの中に、ウラジナルがいるなら……あの施設ごと破壊する)
ユウリの狙いは、不死者の王を操作するウラジナルだ。
イーアが危険にさらされている今、ホスルッドに構っている暇はない。
ホスルッドに攻撃をするふりをしながら、あの山中にある白い建物を破壊して、ウラジナルの古代魔法をとめる。
古代魔法は複雑な儀式と装置が必要になるため、どこでも使えるわけではない。
だから、ウラジナルを殺せなくても、建物全体を徹底的に壊せば、不死者の王を弱体化できるはず。
ただし、<白光>の施設はどこも強力な結界で守られている。
並みの攻撃では破壊できない。
ユウリは木々が流され土砂がむき出しになった山肌へ向かって飛んだ。
「そろそろ、こちらからもいこうか?」
ホスルッドは優雅に手を動かした。
突如、空に竜巻が出現し、そして、竜巻は大蛇のように曲がりくねりながら、ユウリがいる山の斜面の方へと猛スピードで進んでいった。
ユウリは風を操りその場から逃れようとしたが、ホスルッドが操る竜巻に風が引き込まれ、風を操作できなかった。とっさの判断で、ユウリは斜面に沿って川のように水を流し、急流にのって移動した。
ホスルッドの放った竜巻は、白亜の建物の結界にぶつかり、さらに山肌をえぐった。
<白光>の白い建造物はまだそこにたっている。
だが、この調子でホスルッドにあの建物付近を攻撃させ続ければ、ユウリの目的は早く達成できるだろう。
ユウリは地面に手を当てた。激しい雨で、山の側面の土はすっかり水を含んでいた。
ユウリは地下深くを流れる地下水の気配を探り当てた。
(いい感じだ)
ユウリは残された木々に身を隠すようにして、ホスルッドの攻撃をよけながら、風にのって山の頂の方へむかって移動した。
このあたりかな、と思った場所で、ユウリは再び地面に手をつけ、静かに呪文をささやいた。
ユウリは土を操る魔法はほとんど使えない。ホーヘンハインの魔法は風と水に特化しており、ユウリ自身の適性もその二つが最も優れていた。
それがクローの伝統らしい。憎らしいことにホスルッドが得意とするのも同じだった。
だが、土砂自体は操れなくても、これだけの水分を含んだ土なら、その水を操ることで動かせる。そして、ここにある大量の地下水。
まるで山と空が動いて殴り合いをしているかのように見える激しい風と水の魔法の応酬を高見から見物していたベグランは、それを見てつぶやいた。
「なんじゃ、ありゃ」
山の斜面が突然、大きく隆起し、波打った。そして、土砂とともに大量の水がまるで噴火するように空にむかって噴出した。
ホスルッドは空高く移動し、突進するドラゴンのような土砂の噴出をよけた。
だが、魔力が込められた土砂の一部がホスルッドの周囲で渦巻く風の守りを通り抜け、いつもは染み一つない白いローブが避けきれなかった泥で汚れた。
大量の土砂と水が流れ去ったとき、山は深く大きくえぐられ歪な形になっていた。
その空洞となった穴の中で、<白光>の建物は倒壊しかけたまま浮いていた。
魔法の結界で守られていたため、地下水に突き上げられ、土石流に薙ぎ払われても、全壊はしていない。
だが、白亜の建築物は、ところどころ確実に破壊されていた。
<光の休息所>の状態に気づいているのかいないのか、ほおに飛んだ土汚れをぬぐいながら、ホスルッドは心底うれしそうに笑った。
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