貴方の姿が見えなくても

宇宙月

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自覚なんかしたくなかった(パトリス視点)

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「……ったくなんであんなこと言うんだよっ……」
ナディアが去った後、俺は先ほど彼女が発したことを思い出し、一人頭を抱えていた。彼女が俺のことをああ言う風に思っていたのは正直予想外だ。…いや、まあ好意的に見てくれているとは多少なりとも感じてはいたが。
「俺といたってあいつを傷つけてしまうだけだから…だからあんな行動にもでたのに…」
口ではああいったが、ナディアに酷いことをするつもりなんてない。ただ、俺に対して警戒心を抱いてほしかったから脅しのつもりでああいった。そしたら…あの返答だ。

(そういえばあいつに触れたのは初めて会った日以来だな…)



俺の姿が周りから見えなくなったのはちょうど1年前だった。その頃の俺はとある施設に収容されていたのだが、その施設というのが非人道的なことも行われていた、まぁやばい場所だった。あそこにいたときにあったことは正直今も思い出したくない。まぁそんなことで、逃げ出す機会をうかがっていた俺は、ある日あの施設から何とか逃げ出すことができた。

だけど、本当に苦しかったのはここからだった。

施設から逃げた直後に助けを求めるために何人か通りすがり見つけた人に声をかけ続けた。その人たちに声は届いたけど、誰も俺の存在に気づくことはなかった。中には何度も呼びかけられて恐怖を感じたのか逃げて行った人もいた。その中の一人が落としていった手鏡を見てやっと自分の身体に何が起こっているのかを理解した。
施設を抜け出す前に打たれた実験薬の影響か、俺の姿は誰にも見えなくなっていた。しかも俺だけでなく、自分に触れているものも周りから見えなくなるようになってしまっていた。

俺は、人間ではなくなっていた。

誰かに助けてほしくても助けてもらえない。声を出すとみんな逃げていく。寂しくて、辛くて。今思えばいつ心が壊れてもおかしくなかったと思う。

ナディアと出会ったのは施設から逃げ出して半年ほどたったときだった。逃げている途中で偶然見つけた空き家で休んでいたところにドアを開けて彼女が入ってきた。すぐに出ていくだろうと思って気づかれないようじっとしていたのだが、心ここにあらずといった様子でこちらに近づいてきたかと思うと。

『きゃっ…!?』
『―――!』

何かにつまづいた彼女が倒れそうになり、とっさに身体が動いて彼女を支えていた。
それが、出会い。



その翌日、ナディアは来なかった。あんなことがあったからか、それとも仕事が忙しかったからなのかはわからない。

「…これに懲りてもうここに来なくなればいいのに」

俺と関わったって彼女にいいことなんてない。施設の人間はきっと俺を探しているだろうし、もし見つかってしまったら彼女自身も危険にさらされてしまう。そうならないためにも彼女ときっぱり縁を切るためにも早くここから去るべきだ。…頭ではわかっている。けどその決断をなかなか出せない俺もいる。離れたくない、傍にいたいと思ってしまっている。

(余計に苦しくなるだけなのに…俺も馬鹿だな)



それから二日後の夕方に彼女はやってきた。

「…性懲りもなくまた来たわけ?」
「……すみません」
「ほんとあんたって…」

警戒心なさすぎ、と言いかけたところで彼女の様子がいつもと少し違うことに気づいた。

「…なんかあったの?」
「え…?」
「あんた、今すごく泣きそうな顔してる」
「……!」
「…まぁ無理には聞かないけど。気持ち吐き出して少しでも楽になるなら言ったら?」
「………少し、話をしてもいいですか……?」

それからナディアはポツリポツリと話し始めた。仕事中幸せそうな親子を見かけて亡くなった母親のことを思い出したらしい。寂しさと孤独感に襲われ、一人になるのが怖くなってここにやってきたとのことだった。彼女の話を聞いているときにふと自分の両親のことが頭に浮かんだ。あの人達は生きているのだろうか。

「……落ち着いた?」
「はい…ありがとうございました」
「それじゃあ、そろそろ帰ったほうがいいよ。この辺り暗くなったら危ないし」
「…あの。お願いがあるんですけど」
「…なに?」
「……家に来てくれませんか?」
「………はぁ!?」

いきなり何を言い出すんだこいつは。

「そんなのダメに決まっているだろ!?」
「で、でもここにパトリス一人でいるよりは私の家のほうが安全だと…」
「あんた男と二人きりになるってことまだわかってないの!?」
「そ、それはわかってますけどパトリスはそんなこと絶対…」

…とまぁ家に行くいかないでしばらく言い合ったが、最終的に俺が折れた。まぁ幸いなことにまだ施設の人間はこの町にやってきていないし、俺の存在を知っているのはナディアだけだから、そういう意味では彼女の家に滞在させてもらうのが一番安全だろう。…決して彼女と離れたくなかったとかではない、と。そう自分に言い聞かせ、俺は共に彼女の家に向かった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一応補足すると、パトリスはほぼ一目ぼれです。ナディアは自覚してませんがパトリスに異性として好意を抱いています。つまり両片思いです。

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