35 / 215
第34話 帝都へ
しおりを挟む「む、無理よそんなの! いくらコウが強くてもそのスキルがあっても皇帝はバケモノよ? 皇帝を守る十二神将だって相当な実力者揃いなのよ? それにもしも皇帝がコウのスキルを知っていたら、なにか対策をしてくるかもしれないわ。そうなったらもうどうしようもなくなるわよ? 」
「そ、そうだぜコウ! 帝国の皇帝つったら色んな異名持ちの化け物だ。賢帝と呼ばれたり武帝や魔帝と呼ばれたり、そりゃもう色々だ。噂じゃSSの伝説級に達してるって話だ。そのうえ500年以上生きてんだ。戦闘経験も半端ねぇくらい積んでる。いくらコウでも無理だって」
「ふえぇ……帝都は魔窟と呼ばれてますですぅ。強い人がいっぱいですぅ」
俺が帝都に乗り込むと言った瞬間に、ティナたちに猛反発を食らってしまった。
そりゃそうだよな。自分たちを何千年も支配していた奴らの親玉だもんな。
俺だって怖いさ。このスキルだって弱点はある。どうしたって素早く連発ができない。
狭い部屋で次から次へと全方位から人海戦術で来られたら対応しきれないだろう。
視界に映って初めて発動できるスキルだからなぁ。
そのための結界だけど、SSランク。しかも人族より身体能力の高い魔人のSSランクだ。
ヴリトラよりはそりゃたいしたことないだろうけど、そのぶん竜なんかより遥かに賢い。
S+ランクの精鋭とかも集めて、あらゆる手で俺の結界を破るかもしれない。
帝国は強い。この地球を支配できる武力を持ちながら、地球の文明の良いところを素直に受け入れ吸収しようとしている。
これは決して驕っていないという証明だ。地球人を下等種とか言ってる馬鹿は、皇帝のただの手足に過ぎないんだろうな。
力があるのに驕らず、自分が劣っていると思える部分は受け入れ吸収することができる帝国の皇帝は強い。
それは俺にだってわかる。
きっと俺のスキルもなにか対策しているかも知れない。
でもそれじゃあどうする?
このまま逃げるか? ティナとリズとシーナの大切な人を見捨てて?
帝国は俺の能力を脅威に感じているはずだ。感じない方がおかしい。
それなら確実に俺の親戚や三井や三田たち。それにティナの里の者やシーナの妹に、リズの可愛がっているちびっ子なんかを人質に俺を誘き出そうとするだろう。
それも俺を確実に殺す準備と態勢を整えて、俺がスキルを発動しにくい場所に。
俺の力を利用しようと思うなら殺さずに、ずっと人質を確保したまま言うことをきかせようとするかもしれない。やる。奴らなら必ずやる。
なら後手に回るのは悪手だ。
帝国が完全に準備を整える前に頭を取りに行く。
交渉ができればそれが一番いい。
しかし交渉ができないまたは交渉が決裂したら、あとはお互い殺し合うしかない。
その際に俺のスキルが刺されば帝国は皇帝を失い混乱に陥るだろう。
そうなったらエルフと獣人の首輪を全て外して蜂起させ、俺が先頭になって独立戦争を始めるしかない。
だがこれは獣人やエルフに相当な犠牲者が出る。俺一人で1千万人以上はいると言われている奴隷階級の人たちを守りきるのは不可能だからだ。
それにその混乱に乗じて地球各国も蜂起するかもしれない。そうなったら泥沼の戦争だ。
魔族への特攻スキルを持っている俺は、間違いなく地球の国々に担がれる。英雄だ勇者だのと言われてな。
そして帝国が滅びたら次は地球の人族が科学と魔導技術を融合させ力を付ける。
力を付けた列強国は、魔族がいなくなり用なしとなった俺がテルミナ大陸にいるのは邪魔だろう。
テルミナ大陸という新たなフロンティアを手に入れるために、奴らはきっと俺に濡れ衣を着せ世界の敵にする。それから世界で協力して俺を殺しにくるだろう。
俺の滅魔のスキルは魔族には特攻だ。しかし地球人にはそれほどでもない。上がったランクを無しにすることはできるだろう。だが、科学と魔導技術を融合して作られる兵器の能力は未知数だ。地球人には基礎科学があるから、とんでもない兵器を発明しそうで怖い。
もしそれらの兵器に対応できたとしても、俺は同じ地球の人間を何万人と殺すことになるだろう。
そんなの心が保つか自信ないや。
結局なにも救えないままバッドエンドになる未来しか見えない。
しかしこれは帝国にとっても悪夢だろう。
だから恐らく対等に交渉はできる。
あとはお互いの条件を呑むことができるかどうかだと思う。
これが後手に回れば交渉ではなく脅迫される側になる。
だからやるなら今だ。
交渉成立か戦争か。
皇帝が賢いなら俺を味方に引き入れようとするはずだ。
俺を確実に殺す手段を皇帝が持っていない限り対等かつ優位に交渉は可能だ。
そしてそこで俺は奴隷解放を確約させる。
これを呑ませるためには俺は皇帝と対等以上でいなければならない。
帝国の下についたら実現は難しい。
一番恐ろしいのがハニートラップだ。皇帝のプレゼントとか言って地球の北欧系の美女をあてがわれたら、お酒やら薬やら盛られてついポロっとベッドで色々言ってしまうかも知れない。
俺は俺が一番信用できない。
そして帝国の保護のもとで家族なんて作ったらもう俺は逆らうことなどできないと思う。
そうやって飼いならされて味方だからとスキルを解析され、そのうち約束を反故にされる可能性だってある。
皇帝の一言で全てを決められるのが絶対君主制だ。たった一言で奴隷解放を決めることもできれば、逆もあり得る。
だから帝国の下についたら駄目だ。最低でも対等な関係のまま距離を置けることが望ましい。
こういったことをハニートラップの可能性や、地球人の動きなどはボカしてティナたちに説明した。
監視カメラのことも説明したら驚いていたな。見たことはあるらしいけど、なんなのか知らなかったみたいだ。
「あり得るわね……人質は確実に取るわ。そういうのたくさん見てきたもの。敵対貴族の子供をさらうとか日常茶飯事よ」
「帝国相手に奴隷蜂起かぁ。過去にもあったけど全て鎮圧されたんだよな。何万人て死者を出してさ」
「兎も妹のニーナを人質にされたら……ふええ」
「だから今やるしかないんだ。リスクはある。俺のスキルが通用しないかもしれない。でも人質を取られたら戦うことすらできないかもしれない。帝国が人質をとった時に、こっちも皇帝という人質を取れば交渉は可能だ。帝国軍がまだ俺に通常兵器で勝てると思っている今がチャンスだ。これ以上俺が暴れて、敵わないから人質を取ろうと思われる前に皇帝と会う」
「わかったわ。私もカメラというもので顔が知られたのなら逃げる事はできないわ。私もコウと一緒に帝城に乗り込んでコウを守るわ」
ティナがそう言うと、リズとシーナも頷いてくれた。
本当はティナたちを古代ダンジョンの小部屋に結界を張って置いておきたい。
けど皇帝を殺したあとにエルフと獣人たちをまとめるのは俺には無理だ。
帝国が混乱しているうちに各街に俺たちで攻め込んで蜂起しなければならないし、その際に各種族の旗頭が必ず必要になる。
それにゲートキーの再利用時間まであと2時間掛かる。そこで日本にゲートキーで移動すればさらに6時間のクールタイムが必要だ。突然俺たちが帝国軍から姿を消せば、俺たちを誘き出そうと人質を取る可能性が高くなる。
帝国軍には俺の姿を見せておかないといけない。
「ありがとう。何があっても3人を守るよ。それで早速なんだけどティナたちは帝都に行ったことはある? 」
「いいえ。帝都は奴隷の立ち入り禁止なのよ……でも帝都の東にあるマルス公爵領の外れにある街なら行ったことがあるわ。近くの森に精霊がたくさんいるから印象に残ってるわ。そこからなら魔導車で4時間くらいかしら? 」
「あたしが行ったことがあるとこは帝都から遠いとこばっかだなぁ。ティナの方が近いかもな」
「兎もティナさんの知ってる場所の方が近いと思いますです」
「そこまで近いなら予想以上にいい感じだ。ティナのいうその森に行こう。俺はちょっと魔導車探してくるから待っててくれ。って、見ても何が良いのかわからないんだった。運転できる人いる? 地球のと同じなら俺もできるんだけど……」
恐らく地球の技術をコピーしたやつだとは思うんだけど、まったく知らないからなぁ。
乗ればなんとかなりそうな気もするけど、一応俺はティナたちに聞いてみた。
「地球のはあたしも運転した事ないからわからないけど、魔導車なら運転できるぜ? 」
「ならリズと一緒に探してくるから、ティナとシーナは建物の中で待ってて。リズおいで」
「お、お姫様抱っこでもいいんだぜ? コウがしたいならだけどよ」
「当然そうするつもりだよ」
俺はそう言ってリズの可愛いおねだりの通りお姫様抱っこをして飛翔のスキルで飛び立った。
ティナとシーナは手を振って俺たちを見送り建物の中に入っていった。
俺は真っ赤になって目をそらしているリズをお姫様抱っこしながら、基地内を飛んで魔導車を探した。
途中管制室のようなところの地下らしき場所に生き残りがいたが、動かずジッとしてるようなのでスルーした。
別にいくら魔族だからといって敵対行動を取ってない者まで殺すつもりはない。
ダンジョンだって魔物を見つけたからといって、いちいち倒しに行くわけでもないしね。
ダンジョンでは階段を探すのが目的だし。
そして駐車場らしき場所にジープ型の車やトラックが大量に停まっていたので、とりあえず全部空間収納の腕輪に入れた。戦争になったら使うかもしれないしな。
そしてちょっとだけリズと抱き合い、リズのお尻を揉みながらシーナに刺激を受けたリズと舌を絡めた大人のキスしてティナたちのもとへと戻った。
建物に戻るとティナたちは一階にある食堂らしき場所でジュースを飲んでいた。
そこに俺とまだ顔を真っ赤にしているリズで入っていき、車輌の確保ができたことをティナたちに伝えた。
それから皆には休憩してもらいつつ、俺は外に出て空を飛びずっと俺の姿を晒し続けた。
そうして1時間半ほど待っていると探知にもの凄い数の航空機の反応が現れた。
よしっ! まだ滅魔の存在は知られていないようだ。やはり皇帝クラスしか知らないのだろう。
つまり皇帝には強力な悪魔が現れ空軍が壊滅した程度の情報しかいっていない。
この基地の戦力を殲滅した際のカメラの映像も、どこかで俺の能力を解析中ってとこか?
いける! これなら意表をつける!
俺はティナたちのところへ戻り、大艦隊がこっちに向かっているということといつでもゲートキーで移動できるよう準備していてくれと伝え、外で時計と艦隊の動きを見比べてタイミングを計った。
ギリギリいけそうだ。
そう判断した俺は建物の中へと入り食堂全体に結界を張ったのちに、金色のゲートキーを取り出し持ち手にある青い石の色が濃くなるのを時計を見ながら待った。
この石が薄い青から濃い青になれば再使用可能の合図だ。
探知ではもう飛空戦艦の射程に入りそうだ。
俺はティナにゲートキーを持たせ、合図をしたら森をイメージするように言って時計を見た。
すると俺がテルミナ大陸に来た時間からちょうど6時間が経過していた。
そしてその数十秒後、探知で艦隊が展開するのを確認したところでゲートキーの青い宝石が濃くなった。
「ティナ! 」
「ええ! ゲートよ開いて! 」
俺が合図をするとティナは空中にゲートキーを挿し込みひねった。
すると黄金に輝くゲートが現れ、俺はティナとリズとシーナを先に飛び込ませた。
そして最後に俺がゲートを潜ろうとしたところで建物が崩れる大きな音がした。
俺は結界がそれらを防いでいるのを確認してゲートを潜った。
これで俺たちが死んだと思ってくれたなら儲けものだ。
帝都までたどり着く時間稼ぎになる。
こうして俺たちは帝国軍と正反対の場所へゲートを潜り転移をしたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
939
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる