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第2話 ギルド『デビルバスターズ』

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「結構デカイな。鑑定機能も付いてるからか? ああ、ここにカードを貯めておけるのか」



  12月に入り少しした頃。

  俺は毎日のように定期便でやってくる獣人やエルフたちの受け入れを元ニートたちに丸投げし、執務室で帝国から届いた荷物を開封していた。

  そして説明書を斜め読みしていると、執務室に近づいてくる魔力反応があった。
  どうやら1階の警備隊本部事務所で仕事をしていたティナとリズが来たようだ。

「コウ! 仕事終わったぞ! あたしがいなくて寂しそうだから会いにきてやったぞ! 」

「もうっ! リズったら私にほとんど入力をやらせたくせに」

  リズが黒のハイネックセーター姿で勢いよくドアを開け、満面の笑みでリズ語で会いたかったと俺に言うと、その後ろからティナが紺色のスーツ姿で少しむくれた表情で現れた。

「あはははは! のーとぱそこんっての? 難しいよな。だぶるくりっくてのができねえんだよなぁ」

「だからマウスの左右のボタンを同時に押すんじゃないって言ってるでしょ! 片方を連続で2回素早く押すの! 」

「ぷっ! 俺も初めてパソコンを使った時は同じことをしたよ。大丈夫だよリズは魔道具に詳しかったし、すぐに覚えるよ。少しずつでいいから使えるようになってくれると助かるよ」

「ま、まあな! あたしにかかればあんなのすぐマスターしてやるぜ! コウがそれで助かるなら覚えてやるか」

「まったく、私が言っても覚えようとしないのに、コウの一言でこれだもの」

  ティナはヤレヤレって感じだな。でもこの島に来てからは、ダンジョン攻略以外の仕事ができてみんな楽しそうだ。毎晩のように3人と日替わりで一緒に入ってる温泉も格別だしな。洗い場にマットまで用意しちゃったよ。
  ニーナが顔を真っ赤にしてマットを干している姿を見て萌え死にそうだった。

  島の北にある温泉旅館を開放してからは、獣人やエルフたちも温泉の良さに気付いてくれて大人気だ。
  度々降りかかる火山灰や、マンションの建築で汚れた身体を綺麗にしてさらに癒してくるからな。
  北の温泉旅館は新たに帝国から来た貴族の屋敷で働いていた獣人夫婦に、10名ほどの人員を付けて管理運営してもらっている。でもどうやら家族風呂の予約がいっぱいで揉めてるみたいだ。
  カップルが増えてなによりだよ。この分じゃ北東にある小さな温泉宿も開放した方が良さそうだな。
  子供たちも気に入っていたってシーナが言ってたしな。

  今日はシーナは年長組の子供たちを鍛えるとか言っていて、山の方に行くと言っていていたっけ。なんでもマセガキたちがシーナのスカートめくりをして、そのお仕置きで特訓をするそうだ。
  俺は最初それを聞いてかなり焦ったよ。シーナは俺の前では常に履いてないし、お尻に色々と卑猥な言葉を書いてあるからな。
  俺が青ざめた顔でシーナに確認したら、『ご主人様以外の人の前ではちゃんと履いてますぅ』って顔を真っ赤にして言ってたから安心した。顔を真っ赤にするくらいならせめてお尻の文字は消して欲しいと思う。


「ん? コウ? それはなんだ? 新しい魔道具か? 」

  リズが執務机に座っている俺の背後に回り、後ろから俺の首を抱きしめながら俺の手元を覗き見て聞いてきた。
  背中に柔らかい感触が……黒のセーターの中はノーブラか。初めて愛し合ってからリズもシーナに刺激されたのか、結構積極的になってきたよな。うん、いい感触だ。

「見たことがない魔道具ね。オリビアに頼んでいた物かしら? 」

  ティナは俺の隣に立ち、そう言って覗き込むようにして胸の谷間を俺の目の前に突き出してくる。
  ん~いい匂い。ティナたちは最近日本の化粧品にハマってるみたいで、薄化粧をしてるんだよね。すっぴんでもかなりの美女たちなのに化粧までしてるんだぜ? 下半身が毎日これでもかって刺激されてるよ。

  俺はティナの胸の谷間をガン見したのちに、吸い込まれるように軽く顔を埋めてから2人の質問に答えた。

「ああその通りだよ。これはギルドカード製造機という魔道具なんだ。オリビアが帝国の冒険者ギルドで使用されているこの装置のことを詳しく教えてくれてさ。宰相の爺さんと交渉して作ってもらって昨日届いたばかりなんだ。なんでも帝国の魔導技師の……なんてったっけな? ああ、署名があるな。ジン・ライムーンていう人が、冒険者ギルドのギルド証を作るために発明した物らしい。それをうちのギルド用に作ってもらったんだ」

「やった! とうとうできたのか! 」

「やっぱりこれがそうだったのね。ライムーン伯爵は確か魔導技術省の筆頭技師よ。人族が残した古代魔道具や、兵器の解析をしている家系だとは聞いているわ。でもギルド証を伯爵が作った事は知らなかったわね。あれは偽造は不可能だから、私たちのギルドで使うのはいいと思うわ」

「へえ~伯爵で技術省の筆頭技師ねぇ……帝国の兵器を無効化しまくってるから、そのうち絡まれそうな気がするが……まあ今はギルドを作ることが先だからな。獣人たちもどんどん増えていってるし、ダークエルフとエルフも落ち着いたらギルドに入りたいって言ってるしな」

  そう、俺はギルドを作った。
  この地球には帝国国営の冒険者ギルドと、地球の元国家が運営している探索者協会的なものが独自にある。
  冒険者ギルドは古代ダンジョン以外は地球上にあるどのダンジョンにも入れるが、各自治政府で運営している探索者協会やハンター協会などは、自領にある中級ダンジョンまでしか入ることができない。各自治政府内で協定を結んでいれば他領のダンジョンにも入れるが、上級ダンジョンは帝国の貴族が管理しているから入ることは絶対にできない。

  そこで俺は新たにギルドを作ることにした。
  魔帝には帝城を襲撃した時に俺のパーティが世界中のどのダンジョンに入っても良いという許可を得ているが、それ以外の者たちは帝国の冒険者ギルドに加入しなければならなかった。
  しかし解放された元奴隷たちが、帝国の冒険者ギルドに入れば軋轢が生まれるのは必至だ。

  だから俺が引き取ることにした。宰相も奴隷を解放した以上、彼らをなんらかの職に就かせないとまずいと考えていた所だったらしい。元冒険者の奴隷が帝国内にいても、犯罪に走る可能性もある。いや、現在進行形で貴族が毎週のように襲撃を受けていると、帝国のラジオニュースやオリビアから聞いている。
  物騒な世の中になったもんだ。

  まあだからと言って冒険者ギルドに加入させて余計なトラブルを起こしたり、世界中好き勝手に行かれても困る。いずれどこかの自治政府に取り込まれる可能性も無いとは言い難いからだ。

  ならばリスクはあるが、人となりを知っている俺に管理させた方がいいと思ったようだ。単独で帝国に対してのジョーカーたり得る俺に、今さら戦力が増えようが帝国としては差異がないからだろう。
  それにギルド員が何か問題を起こせば、俺に責任を負わせ貸しを作れることも見込んでギルド設立の許可を出したようだ。

  しかし古代ダンジョンだけは帝国人と同じく入ることを固く禁ずると言われた。
  俺には【冥】の古代ダンジョンに入るように言って来るけどな。よほど2等級の停滞の指輪が欲しいようだ。
  持ってるけどな。魔帝に長生きして欲しくないからやらない。どうせまだあと2~300年くらいは生きそうだしな。

  そういう訳で俺はギルドを作ることにした。ギルドの紋章をティナたちと一緒に考えて作り、帝国にギルド証製造機を発注した。当初帝国は高度な技術を外に出すことは難しいと言っていたが、オリビアが頑張って交渉してくれて条件付きで発注を受けてくれた。その条件とは、空の魔石に上級以上のダンジョン内で魔力を込めて欲しいというものだった。
  恐らくこれをやらせたかったんだなと思った俺は、オリビアには悪いがめんどくさいから嫌だと断った。

  そしたら宰相の爺さんから電話が掛かってきて『買い取る! ちゃんと買い取るからやってくれ! 』と必死に頼まれ、いつの間にか条件がお願いになっていた。まあ俺も金になるならいいかと、ノルマとか無しならと受けたら翌日に直径60cmはある様々な形の空の魔石が大量に送られてきたよ。
  どれもSランククラスの魔物の魔石だった。数個ほどヴリトラの魔石に近い80cmほどの魔石があったが、恐らくSS-ランク辺りの魔石だろう。ドラゴンなら70階層のボスの王種辺りかな。

  満タンにしたこの魔石をインフラに使うのか兵器に使うのか。はたまた将来地球から魔素が無くなった時の蓄えにするのか……密室での俺のスキル対策の魔道具に使う可能性もあるな。それなら別に俺もヴリトラと王種の竜の魔石を空にしたし、滅魔の新たな可能性にも気付いたからいいんだけどな。滅魔に関してはちょこちょこ古代ダンジョンに入って練習しているところだ。まさに盾と矛の攻防だな。

  こっちに利益があるから帝国とは友好関係を築くが油断はしない。
  俺には守るべき大切な人がいるんだ。力に溺れないし油断もしない。
  帝国は強大だ。魔族の数もこんなものを作れるその技術力も。だから俺は決して驕らないし油断しない。

「コウ! それ使ってみようぜ! あたしがギルドのサブマスになるんだろ? だったらあたしが一番最初にギルドカードを作る実験台になってやるよ!  」

「リズったら早く私たちのギルドのカードが欲しいだけでしょ。でも私も欲しいわ。コウと私たちのギルドの証だもの」

「へへへ、バレたか」

「あはは、じゃあ俺とティナのも作るか。まずはサブマスターのリズからだな」

「やったぜ! お礼に今夜はあたしが特別にご奉仕してやるからな。楽しみにしとけよ! 」

「うん、楽しみにしてるよ。リズに尽くされると嬉しいんだよね」

  リズ語でお礼に今夜はいっぱい気持ちよくしてあげるね!ってとこかな。可愛いなぁもう。

  俺は仕方ねえなぁって顔をしながらも、ブンブンと嬉しそうに振られているリズの尻尾を見て内心ニヤニヤしていた。

  そしてギルドカード製造機に銅、赤銀、銀、金、黒鉄、ミスリル、魔鉄のカードをセットし、付属の各種鉱物の粉末を製造機の中に流し込んだ。
  魔鉄のカードは1枚しかなくて、素材と交換すると書いてあった。まあかなり希少な鉱物だからな。
  ケチくさいとは言わないよケチくさいとは。

  そして製造機の正面にある銀盤にリズに手を置いてもらい、魔力を流してもらった。

ウィーーン  ウィーーン

ガコンッ!

「うおっ! 出たっ! 黒だ! 真っ黒カードだ! それに裏面にあたしたちが考えた紋章が彫られてる! カッケー! 」

「ランクを自動で判断してカードを排出するのね。良くできてるわ。紋章も考えたものよりも細部まで凝っていて素敵ね」

「おお~早いな。確かに紋章も良くできてる。黒は……A-ランクだな。冒険者ギルドと同じだから色で区別できるみたいだ」

  ギルドカード製造機から出た黒いカードに大はしゃぎをしているリズの手には、免許証サイズの黒いカードが乗っており、そのカードにはギルド名とリズの名前と種族が書かれていた。そして裏には2本の禍々しい角が生えた悪魔の頭部に、その上から今にもその首を切り落とそうとしているクロスされた二本の剣が描かれていた。

  そう、この紋章が俺たちのギルド『デビルバスターズ』の紋章だ。busterは日本語でやっつけるや、退治するなどの意味がある。まあつまりは悪魔(魔物)を退治するギルドだ。帝国人への当て付けの意味もある。
   まあ普通の帝国人は自分たちが魔族だとは知らないけどな。

  でもギルド名をこの名称にしたことを宰相に伝えた時にさ、不機嫌になると思ったのに驚いてたんだよな。
  そして次の日に魔帝から電話が掛かってきて、『紋章を見たぞ。ギルド名も良いではないか。よくそこまで覚悟を決めてくれたのぅ』とか嬉しそうに言ってんだよね。
  ちょっとなに言ってるのかわかんなかった。まああのひねくれた性格の魔帝のことだ。挑発されたことに反応するのが悔しいから強がってるだけだろう。


「じゃあ次は私がやってみるわね」

 ガコンッ!

「ティナは黒に金縁か……これは……Aランクってことだな」

  俺は取り扱い説明書を見ながらティナにそう伝えた。

「ティナはもともとあたしやシーナよりステータス高いからな。あたしも金縁になれるように頑張んなきゃな! 」

「ふふふ、色よりもコウと私たちのギルド証が手に入ったことの方が嬉しいわね」

「ははは、落ち着いたらダンジョン攻略で名をあげるから、ティナもリズもまたすぐに新しいカードを作ることになるさ。さて、俺はっと」

  俺はティナのカードを羨ましげに見るリズと、カードの裏の紋章を見てうっとりしているティナにそう言って自分のカードも作ってみることにした。

ガコンッ!

「魔鉄にミスリルの縁か……え~っと……SS以上って書いてるな。俺がSS+だからこれか。ん? これ以上のカードは用意していないみたいだ」

  さすがにSSSランクは想定していないか。魔帝より上になっちゃうから、そういう存在が現れると想定するのも不敬とかになるからかね?

  まあわかってはいたけど、こうやって物として自分の能力が証明されるとなんか嬉しいな。

  説明書を見るとE・Fランクは銅のカード。Dは赤(赤銀)、C-は銀、CとC+は銀に赤銀の縁、B-は金、BとB+は金に銀縁、A-は黒(黒鉄)、AとA+は黒に金縁、S-はミスリル、SとS+はミスリルに黒縁、SS-は魔鉄の青白い光を放つカード、SS以上は魔鉄にミスリルの縁と書かれていた。
シルバーとミスリルは輝きが違うからすぐわかる。だから見間違わないだろう。錆びない銀でずっと輝いてるのがミスリルだ。

「すげー! やっぱあたしの恋人は格が違うぜ! 毎日獣人の仲間たちに羨ましがられて鼻が高くてさ! 別にコウの強さだけにその……惚れ……気に入ってるわけじゃないんだけどな! コウはとことん優しいからな! 」

「ふふふ、リズったらかわいい。でも本当に凄いわ。伝説級のギルドマスターがいるギルドなんて、誰も逆らわないわよ」

「逆に信じないだろうから絡んでくる奴は絡んでくるよ。冒険者ギルドのカードじゃないしな。偽造とか言われそうだ。その辺の周知は徹底してやってもらうようにオリビアに言っておかないとな」

  最初は大変かもな~、知名度が0だしな。オリビアに探索者協会やらダンジョンを管理している貴族やらに周知してもらわないとな。

「あの子に任せておけば大丈夫よ。本当によくやってくれてるわ」

「あ~アイツか。帝国の兵士に相当厳しく言ってるみたいでさ、おとなしいもんだよ。まあ初対面の時のことは勘弁してやるかな」

「仕事ぶりは認めてるよ。部下の管理もね。それでも公爵家の者だ。いつ家の指示で敵対してもおかしくはないよ」

「そん時はあたしがぶっ殺してやるからまかせとけって! コウには指一本触れさせないって」

「リズは早とちりして手を出さないか心配だわ」

「なんだよティナ~、この思慮深いあたしが勘違いなんかするわけないだろ。阿久津 光を悪魔公て勘違いしたティナと一緒にすんなよな~」

「ちょ、リズ! あの時は仕方なかったのよ! コウが悪魔の仮面付けて空飛んでたし、魔王のいるダンジョンて言われてたし。もうっ! 悪かったわよ 」

  言われてみれば俺が悪い気がする。真っ黒装備だったしな。

「あははは! そうむくれるなって! 普段は冷静なのはわかってっからさ! だからあたしも大丈夫だって! 」

「リズを信じてないわけじゃないわ。私たちはコウを想うあまり沸点が低くなりがちだから注意しなきゃと思っただけよ」

「あ~まあそれはあるかもな。コウのいない生活なんてもう考えられねーしな。それを失うと思ったら……危ないかも」

「私も同じよ。だからコウが不利にならないように私たちは気を付けなきゃね」

  俺だってそうだ。だから警戒を常にしているんだ。
  
「ああそうだな! コウの指示があるまで手を出すのは我慢だな! 放置、連携、速攻のほーれんそーって奴だな!」

「違うわよ! 報告、連絡、相談よ! なんで放置から連携して速攻するのよ! それは猫科の狩りでしょ! 」

「んあ? そうだっけ? まあほーれんそーは合ってるから別に問題ねーって」

「中身が違うわよ! 」

「あははは! 確かに猫はそんな素振りを見せないのに急に襲い掛かってくるよね」

  夜のリズは最初は受け身なのに途中から凄く積極的になるしな。おとなしくしていて、甘えてきて、突然上に乗って激しく襲い掛かってくる。うん、俺は毎回リズに狩られてるな。どんな体位でも楽々応じてくれるしさすが猫人族だ。

  まあそんなくだらない話をしながら、この後もティナとリズと楽しくじゃれあって過ごした。


  まずは日本のダンジョンで俺たちは暴れ回り名前を売る。そして力を付けたら世界中のダンジョンに進出しまくってやる。元ニートと元奴隷の躍進を世界中の奴らに見せつけてやるさ。



  
  
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