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第36話 奇襲
しおりを挟む「ヤンヘル、ゲートを繋いだら『隠者の結界』を複数個すぐに設置しろ。ライガンたちもすぐにゲートをくぐり結界内で身を低くしていろ」
俺は黒竜の革鎧に着替え、4列縦隊で整列する80名のギルド警察隊に向かってゲートを潜ってからの行動を説明した。
俺の記憶に鮮明に残っている場所は基地の真横だ。ゲートはやたら明るい光を放つ。隠者の結界は光は漏れるが、魔力と音は隠蔽できる。光に気付かれても探知に反応しなければ時間は稼げるはずだ。
まあたとえ巡回の兵に気付かれても宣戦布告まであと15分程度だから大丈夫だが、気付かれないに越したことはない。
「御意! 」
「おうっ! 」
「じゃあ繋ぐ 」
俺はゲートキーに魔力を大量に込めてから虚空に差し、以前ティナたちを助けにいく際に巡回の兵を尋問した、基地のフェンスの外側をイメージしてキーを捻った。
すると目の前に高さ3m幅5mの光り輝くゲートが現れた。
よしっ! イメージ通りの大きさだ。
「行けっ! 」
俺がヤンヘルたちへ振り向き号令を掛けると、ヤンヘルとライガンはそれぞれ隊の者を連れゲートへと飛び込んでいった
そして最後の獣人がゲートを潜ったところで俺はキーを抜き、ゲートの中へと飛び込んだ。
※※※※※※※※※※
「ヤンヘル! 」
俺はゲートを潜りすぐに身を低くし茂みへと隠れた。そしてヤンヘルに周囲の状況を確認した。
「はっ! 気付かれておりません」
「あと15分待つ。ここの司令官は準男爵だったか? 宣戦布告を聞いたらすぐに戦闘態勢になるはずだ。そこを狙う。お前たちは司令室があるであろうあの建物に突っ込んで指揮官を捕まえろ。他は殺せ。反撃はないから大丈夫だ」
俺は駐機場の近くにある5階建ての建物を指差し今後の行動を説明した。
「アクツさんよ。突っ込むのはいいけどよ。いったい何する気なんだ? 」
「見ていればわかる」
俺は訝しげに聞いてくるライガンにそう言って基地内を確認した。
飛空戦艦が3に空母が1。あれは巡洋艦か? それが8に……おっ! ラッキー! 重巡洋艦が3隻もある! 欲しかったんだよこれ。ほかは揚陸艦仕様の高速飛空艇が6にあれは輸送艦ぽいな。それが10隻か。戦闘機は空母内のを入れて300ってとこか。さすが地球侵略用に膨大な借金をしてまで用意しただけはあるな。
こりゃあ全てが終わったら荒川さんを絶対に取り込まないとな。
「あと10分か……そろそろだと思うんだが……きたっ! 」
俺が時計を確認していると、ポケットに入れていた魔導携帯が鳴った。そこに表示されているデルミナ数字は知らない数字の羅列だったが、恐らくフォースターのものだろう。旅館を出る時にオリビアに教えておくように言っておいたからな。
「俺だ」
《フォースターです。人質の救出に成功しました。母娘ともに多少殴られただけで軽傷です》
「よしっ! よくやった! こっちの被害は? 」
《ありません。配下の者2名で差し入れがあると近付き、敵5名を騙し討ちしましたので。2名捕えていますがいかが致しますか? 》
「殺せ」
《承知しました》
「お前はそのまま人質になっていた母娘を連れて横須賀に来い。配下の者は霞ヶ関に向かわせ、総督府の総督と局長クラス。そして与党の政治家を全員を捕えろ。その後はテレビカメラの前で男爵暗殺未遂の罪で処刑しろ。俺の命令だと言って警察も使え」
荒川さんを売った総督府の奴らを逃すわけにはいかない。フォースターの配下の者は確か500はいたはずだ。取りこぼすことも考えられるから、そこは警察を使えばいい。警察は特警に俺がしたことを理解している。貴族の殺人未遂の容疑者確保に協力するはずた。しなきゃアイツらも探索者になってもらうだけだ。
《ハッ! 総督以下一族を捕らえ処刑を行います! 》
「家族はいい……当事者のみやれ」
《……ハッ! 》
俺はフォースターの甘いと言いたげな間を感じたが、そんなものには構わず電話を切った。
日本領民に必要以上に怖がられるわけにはいかないからな。こっちにはこっちの計画があるんだよ。
「主君、動き出しました」
「宣戦布告の通知が届いたか。お前たちには物足りないだろうが一瞬でケリをつける。そして飛空艦隊を無傷で手に入れる。以後は無線インカムで指示をする」
俺は基地の建物から魔銃と剣をぶら下げた子爵軍の兵たちが、飛空艦隊へとゾロゾロと乗り込む光景を見ながらヤンヘルたちへ指示をした。
「御意! 」
「マジか……この数相手にアレをやるのかよ」
「別に初めてじゃない」
俺はそう言って黒いマントを羽織り、デビルマスクを装着して飛翔のスキルで上空へと飛び立った。
そして100mほど上空で滞空し、眼下に見える横須賀基地全体へ探知のスキルを発動した。
「思ったよりいるな。本国から呼び寄せたか? 」
俺はフォースターから聞いていた以上に兵がいることに少し驚いていた。
「まあ別に手間は変わらないけどな。まずは飛空艇に入っていく奴らと燃料の魔石からだ」
月のない夜。
俺は自ら飛空艇という棺桶に入っていく兵士たちを見据えながら、地上へと右手を向けた。そして残る左手を天へと突き出した。
「その飛空戦艦に乗って桜島で何をしようとした? その揚陸艦から降りて桜島で何をしようとした? お前らが先に手を出したんだ。馬鹿な貴族の下についたことを呪うんだな」
飛空戦艦や空母に兵士が搭乗し終わったのを見て、そう自分に言い聞かせた。
これは復讐であり桜島の仲間たちを守るための戦いなのだと。
「見せしめになってもらうぞ。滅べ! 魔族! 『滅魔』! 」
俺は飛空艦隊の全ての船の燃料庫にある魔石と、基地内にある戦闘機。そして搭乗した兵士の体内にある魔石を狙いスキルを放った。
ドンッ!
その瞬間膨大な魔力が俺の右手を通り、左手から魔素として天へと吹き出され拡散された。
そして探知のスキルを発動し確認をすると、飛空艦隊とその搭乗員の魔力反応は全て無くなっていた。
「ヤンヘル! ライガン! 行けっ! 司令官は殺すな! 」
《 御意! 》
《おうっ! 》
俺は飛空艇の駐機場の安全を確保できたので、ヤンヘルたちへインカムで突撃の指示をした。
その瞬間フェンスを打ち破り、司令部の建物へと一直線に走る忍び走りのダークエルフの集団と、雄叫びをあげながら突撃していく獣人たちの集団が眼下に見えた。
忍びたいんだか目立ちたいんだか、どっちだかわからない組み合わせだよな。
まあいい、次は建物内といこうか。
俺は次に未だに何が起こっているのか気付いていないであろう、司令部の建物と管制塔内にいる数百名の身体へと狙いを定めた。
魔石にじゃないのは、さすがにコンクリートの建物の中は飛空船のようにはいかないからだ。
飛空船はその特性上、魔力の通る素材を使っているから魔物と同じように一つの船を一体の魔物として見ることができ中までスキルを通せる。しかしダンジョンの壁やコンクリートなどの向こう側は、魔力が通らないため魔素を介してしか発動できない。
魔素を介しての吸収は練習してはいるが、この数の魔石を一気に吸収することはまだできない。だから俺は体内の魔石は諦めて身体から魔力を吸収する。あとはヤンヘルたちが処理してくれるはずだ。
「ん~やっぱ数が多いな。半分づつやるか。早くしないとヤンヘルたちが突入しちゃうしな。『滅魔』 」
俺は建物内で動き回る者たちに狙いを定めるのが難しく、半分づつやることにした。
そしてなんとか二度のスキル発動で魔力を抜くことに成功した俺は、ヤンヘルたちが突入したのを確認してから司令部の建物の前へと降りたった。
中からは子爵の兵士たちの恐怖に怯える叫び声が聞こえてくる。魔力を抜かれ身体が思うように動かない状態のはずだ。抵抗もできずヤンヘルたちに殺されていっているんだろう。
俺はゆっくりと司令部の建物内へと足を踏み入れた。
※※※※※※※※※※
俺がヤンヘルたちの魔力反応が集まる5階にある司令室に入ると、ヤンヘルを始め30人ほどが両腕を折られ地面にキスしている二人の男を取り囲んでいた。
男の一人は黒鉄の鎧を着た赤髪の髭もじゃの大男で、もう一人はオレンジ髪の化粧をした優男だった。二人ともレオンと虎人族のガランに頭を踏みつけられて動けない様子だ。
「ヤンヘルにライガン、お疲れさん」
「主君! たいした労ではございません」
「アクツさんスゲーな! どいつもこいつも動きが鈍かったぜ! さすが俺たちのボスだぜ! 」
「まだまだ練習が必要だけどな。ほかの者たちは残党処理中か。で? そのデカいのが司令官か? 」
俺は腕を折られ苦痛に耐えている表情の大男に目を向けてヤンヘルに聞いた。
「はっ! 司令官のザビン・モンドレットという者です。もう一人は副官のようです。この者がアラカワ殿に指示をしていたようなことを口走っておりましたので、生かしておきました」
「ぐっ……アクツ? 貴様がアクツだと!? アクツがなぜここに!? ぐっ……クソッ! これほどの数の侵入を許すとは! 外にいた俺様の兵たちはどうしたのだ! 」
「い、痛いわ……ザビン様痛いの……腕が折れて……ううっ……ポーションをちょうだいよぅ……」
「うわぁ……やっぱそっち系かよ。ああ、ザビンだったな。 そうだ、俺が阿久津男爵だ。俺がここにいるのがそんなに不思議か? お前らのお望みどおり宣戦布告したんだ。敵陣に乗り込むのは当然だろが。奇襲で外の兵士を皆殺しにしてな」
俺は化粧男が予想通りの人種だったことで一歩後ろに下がり、子供みたいにわめき散らすザビンの質問に答えた。
「なっ!? そ、そんなことがあるわけが……『探知』……くっ……なぜだ! なぜ魔力が無いのだ! 」
「それが答えだ。お前もあとで殺してやる。レオン、そいつらは変身するの知ってんだろ? 両足も折って外に連れ出しておけ。残りの者たちは基地内にある金目の物を回収しろ。 俺は飛空艦隊を回収してくる」
「わかった! 」
「「「御意! 」」」
「なっ!? ま、待て! やめろ! 俺様は貴族だぞ! 戦時法に則り地位に見合った待遇を要求する! 」
「悪いな。貴族に成り立てでそういうのには疎いんだ。それに俺は男の捕虜は取らない主義なんだよ。そもそもだ……俺の恩人を暗殺者に仕立ててくれたお前らを楽に死なせるわけねえだろうが! 処刑の時間が来るまでせいぜい苦しめ! ライガンやれ! 」
「おうよっ! いくぜぇ? 貴族様よお! 」
「や、やめ……ぐあっ! があああああ! 」
「ヒッ! やめて……やめ……あぎゃっ! ぎゃああああ! 」
俺は背後から聞こえる叫び声を聞き流しながら階段を降り、そして駐機場へと戻った。
さて、とりあえず飛空艦隊は死体ごと空間収納の腕輪に回収して、装備の剥ぎ取りは島の連中にやらせるか。個人の遺品くらいは国に帰してやるさ。
俺は男爵軍が到着するまで飛空戦艦や戦闘機、基地にあった魔導戦車や装甲車などを回収していくのだった。
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