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第4章 ニートと富国強兵

第17話 ラウラの憂鬱

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 —— テルミナ大陸 アルディス湖 アルディス ——



「いってらっしゃいゼオルム」

「お父様いってらっしゃいませ」

 屋敷の玄関で私とメレスロスはゼオルムを笑顔で送り出した。

「うむ、行ってくる。次に帰るのは5日後になるゆえな。余がいなくて寂しいじゃろうが、悪魔どもがやってくるまでの辛抱じゃ。耐えよ」

 ゼオルムはやつれた顔で、いつもと同じ台詞を口にした。

 ゼオルムは魔界の門がどうしても見つからないらしくて、2月になりやっと帝城から一時的に解放されたのよね。さすがに二ヶ月近く会えなかったのは私も寂しかったわ。不思議よね、200年以上会えなかったのにたった二ヶ月で寂しく感じるなんて。

 でも毎日いたらいたでうるさいのよねこの人。いっつもコウ君への愚痴ばかりだし。今回みたいに週に二日いるくらいがちょうどいいわ。

 それにしても本当にコウ君のことが好きよねこの人。だって嫌いな人間の話をあんなに頻繁にしないもの。本人は死んでも認めないだろうけど。

「ハイハイ、いいから迎えの飛空艇に早く乗りなさい。あなた今朝時間がないって散々言ってベッドから逃げたじゃない。それとももう一回する時間があるの? 」

「い、いや! 急がねばならんのじゃ。皇帝である余が会議に遅刻しては、下の者に示しがつかぬからの。また魔王に遅刻魔と言われるのも癪《しゃく》じゃ。では行ってくる」

 ゼオルムはそう言って慌てた様子で、湖の近くで待機している通勤用の高速飛空艇へと乗り込んでいった。

 何よあの態度。もう一回するくらいで顔を青ざめさせちゃって失礼しちゃうわ。

 でもちょっとやり過ぎたかしら? 昨日と一昨日の夜は久しぶりだったから朝まで求めちゃったのよね。だってあの『朝までオッキ君』て精力剤凄いんだもの。昔はあんなの無かったから5回もすればゼオルムはダウンしていたのに、今ではその3倍はいけるわ。エスティナがもっと凄いのがあると言っていたけど、さすがにあれ以上は私もキツイわね。でもメレスロスの兄弟も早く欲しいし……悩みどころよね。

 それにしても……

「ふふっ、コウ君に馬鹿にされたのが相当悔しかったみたいね。あの時間にルーズなゼオルムの口から遅刻なんて言葉が出るなんてね」

「そうだったんですか? 私のところに来る時はいつも時間より早くに来てくれていましたが……」

「それはメレスロスを愛しているからよ。私も見ていたわ。飛空挺から降りるなり嬉しそうな顔をして、小走りで屋敷に向かっていくあの人の姿を」

 だから精霊の一部となっても安心できた。あの人を愛して良かったと心から思えた。私たちの愛する娘をあれほど大事にしてくれていたのだから。

 でも私のお墓の前でいつも『すまない……すまない』と泣きながら謝るあの人の姿を見て、まだ私はこの世に留まらないといけないと思えた。二人がいつか私がいない世界で幸せを見つけるまでは……

 それがまさかその世界に私が戻って来れるなんてね。これも全てコウ君のおかげだわ。

「お父様が小走りでですか? そんなことが……お父様……」

「メレスロスは一人じゃなかったの。私もゼオルムもずっと心配して見守っていたのよ」

 私はそういって愛する娘を抱きしめた。

 メレスロスが苦しんでる時に、何もできなくてごめんなさいという気持ちを込めて。

「お母様……」

「さて、ゼオルムはいなくなったし、ラウラが来たらコウ君のところに行くわよ。今度バレンタインデーというイベントがあるみたいだし、チョコレートをたくさん買ってオリジナルチョコレートを作る練習をしなきゃね! 」

 しんみりした空気が苦手な私はメレスロスから離れ、来るバレンタインデーのために準備をしようと告げた。

 ゼオルムもどういうわけか知っているみたいだし、それとなく話題を振ってくるのよね。お菓子作りはあんまり得意じゃないけど、チョコレートをあげなかったら泣いちゃいそうだから作らないと。あとコウ君の分も愛情を込めて作ってあげないとね。私たちに幸せを与えてくれた神様みたいな人なんだから。

「はい。私もお父様とお祖父様の分を作ります」

「あら? コウ君の分は? 」

「あ……光にはその……毎年エスティナたちが特別な……その……身体に……ぬ、塗ったり載せたりしてあげているようで……わ、私もそうしないとと思って……」

「ええ!? まさか身体にチョコレートを!? な、なによそれ……」

 私は顔を真っ赤にして俯きながら口にした、メレスロスの言葉に衝撃を受けた。

 ふとメレスロス越しに屋敷の中を見ると、リリアも同じように顔を真っ赤にして俯いている。

 コウ君……貴方って人は……

 す……凄いわ! 天才よ! チョコレートを作ってあげるんじゃなくて、自らの身体に塗って食べてって言うなんて! 最高の愛の受け渡し方じゃない! それにとてもえっちだわ! これで興奮しない男なんていないでしょ! 

 これならゼオルムも喜ぶこと間違いなしね。でもあの人はもらったチョコレートを自慢したいだろうから、別に作ってあげないといけないわね。チョコレートと私と両方とも貰えるなんて、あの人幸せ過ぎて心臓発作起こさないかしら? 

「す、すごく恥ずかしいんですけど、光が毎年とても喜んでいるそうなので、勇気を出してリリアとしようかと……」

「なに言ってるのよ! 愛情表現にタブーは無いのよ! やりなさい! どんどんやりなさい! ママも頑張るから! そうと決まったらより興奮する装飾を勉強しないといけないわね。ニホンには女体盛りっていう食文化があるみたいだし、ラウラが来るまでちょっとネットで調べましょう。そのあと買い物に行くわよ! 」

 ニホンてすごいわ。あんなに性に対して先進的な文化を持つ土地なのに、ちょっと前まで出生率が低かったなんて信じられないわ。

 これはエルフの里でも見習わせないといけないわね。ニホンの性文化の勉強をもっとさせて、出生率を上げないと。あの腑抜けの男どもの尻をどんどん叩かないとね。

 そのために、まずは私たちから勉強しないと!

 それからラウラがやって来るまで、私はメレスロスとリリアと共に女体盛りをネットで調べた。そして調べているうちに18禁動画サイトという所に辿り着き、ゼオルムの名前で登録契約して見てみることにした。

 しかしその内容は想像していた以上の衝撃を私たちに与えた。

 そう、あまりの衝撃に言葉が出ないほどに。

 まさかお魚につけるタレが、女性の股間の……ニホンて凄すぎるわ。

 これを男の人にされるなんて、どれほど恥ずかしいか……

 でも……とてもえっちだわ。


 そしてそれから動画を数本観たところで、ラウラの飛空艦が窓から見えた。

 つい熱中して観てしまったわ。急いで出掛ける準備をしないと。

 メレスロスとリリアに出掛ける準備をするように言って、私も部屋に行き着替えることにした。

 そして着替えが終わりメレスロスと一階のリビングに降りてきたのだけど、まだラウラは屋敷には来ていないようだった。

「あの子なにやってるのかしら? メレスロス。ちょっと見てくるわ」

 ラウラがいつまで経っても屋敷に入って来ないことを不思議に思い、彼女を迎えに行くことにした。

 ところが屋敷を出ると、すぐ近くにラウラはいた。

 どうやら彼女は椅子に座り、肩肘をつきながら湖をボーッと眺めているようだ。

 私はなんとなく懐かしさを感じながら、彼女の近くに行き声を掛けた。

「ラウラ……なにを浮かない顔をしているのよ」

 初めて会った時もこんな感じだったかしら? でもあの時は今にも池に飛び込みそうな程の表情だったけど、今は目が潤んで心ここに在らずって感じなのよね。理由はわかっているけど。

「あ……アルディス姉さん……遅くなってごめんなさい。湖を見ていたらここであった事を思い出してしまって……」

 ラウラは私が近づくまでまったく気が付かなかったようで、少し驚いたあと隣に立つ私を見上げてそう言った。

「コウ君と初めて会ったのがここだったわね。ふふふ、あの時のラウラったら戦意に満ち溢れていたわね」

 あれは復讐を終えた後のラウラの姿だった。でも今のラウラの姿は、まるで私と初めて会った時のようね。あの弱々しくて今にも消えてしまいそうなラウラに戻っているわ。

「あ、あの時は【魔】の古代ダンジョンを攻略した者の力がどれほどのものなのか知るために。それにメレス様に近づけて大丈夫な者なのかを確認したかったから……いえ、戦いたかった気持ちの方が大きかったかも……今思うと恥ずかしいわ」

「私もゼオルムと出会った時は似たようなものだったわ。エルフを見下すあの男にムカついてぶっ飛ばしてやったわ」

 ほんと、出会いは最悪だったわ。というか死ぬほど嫌いだった。それが今では誰よりも愛している存在になった。人生なにが起こるかわからないものね。

「で、でも私はその後も色々と……その……アクツ様に支配されたくて何度も」

「その事はシーナとリズから聞いてるわ。まあかなり狂気的だったみたいだけど、貴女の過去を知っている身としては、むしろそういう男性がラウラの前に現れて嬉しかったわ」

 支配されたい。いえ、圧倒的な強さを持つ男に犯されたい。傍目には変態的に見えるかもしれないけど、それは彼女が過去に受けた傷を上書きしたいことの現れ。

 でもそれがコウ君ではなくラウラの兄のような屑だったなら、ラウラはどんな手を使ってでも殺そうとするはず。しかしコウ君にはそうじゃなかった。

 それはラウラがコウ君に惹かれていたからなんだと思うわ。だからそんな男性がラウラの前に現れたことが嬉しかった。あの男嫌いのラウラに好きな男性が現れたことが嬉しかった。

「アルディス姉さん……」

「なにをためらっているのよ。月一のデートではいい雰囲気なんでしょ? キスだって一度したんだし、早く告白しちゃいなさいよ。若返ってさらに綺麗になったのに、なんでそんなに自信がないのよ」

 手を繋いでデートをしたとか、ご飯を食べさせてあげたとか嬉しそうに私に話すのになんでまだくっついていないのかしら? 

 コウ君から告白されるのを待っていたら、そんなのいつになるかわからないわ。前にちょっとラウラのことを聞いたら、最初出会った時と今のラウラとのギャップに困惑していたもの。過去のことを知らないなら当然よね。シーナもラウラをドMだと思っているみたいだし。

 ラウラはドMなんかじゃ無いわ。ただ、過去の傷を消したいだけだけなの。

「私はエスティナやメレス様のような綺麗な身体では無いから……男に、しかも血の繋がった兄におもちゃにされた私なんて……」」

「ラウラ……そこまで本気で好きになっていたのね」

 私はラウラの言葉に少し驚いた。

 ラウラはもうコウ君に過去の傷の上書きを求めていない。本気で愛してもらえることを望んでいるんだわ。だから自分の身体が綺麗かどうかを気にしている。

 それだけ本気でコウ君のことが好きになってしまったのね。

 ラウラがこんなに自分の身体を気にするのは、彼女が潔癖症なのも影響しているのかもしれない。それが災いして、自分の身体の汚れが許せないのね。

 馬鹿な子……コウ君がラウラを汚れているなんて思うはずがないのに。あの子は真性の女好きよ。だから女性にとことん優しい。そんな男性が処女性なんか気にするはずがないでしょうに。

「す、好きな男性に綺麗な身体を捧げたいと思うのは普通のことだわ。アクツ様だってそういう女性がいいに決まってる。だから私は彼には相応しくなんて……」

「ラウラ……貴女は本当に馬鹿ね。そんなことコウ君が気にするわけないじゃない。コウ君はね、ゼオルム並に女好きなのよ。そんな男が処女だなんだの気にするわけないでしょ。コウ君に失礼よ」

 ゼオルム……まさか私がいない間に百人もの女を囲っていたなんてね。コウ君から聞いてビックリしたわ。帝国のために十人やそこらと子を作ったと思っていたら、数十人の愛人まで囲っていたなんてね。しかも下は15歳から上は150歳まで……正直ゼオルムをみくびっていたわ。

 だからそんな元気があるならって搾り取ってやったんだけど、半泣きしながら寂しかったんじゃとかいう顔が可愛くて許しちゃった。

 そんなゼオルムに匹敵するほどの才能をコウ君は秘めているわ。だってメレスロスにおねだりさせたり、エスティナと人が近くにいる場所でしたり、リズとホークⅡの上でとか、いろんな職業の衣装を着せてとか、とんでもなくえっちなんだもの。女子会で話を聞いていた私も興奮しちゃったわ。そのコウ君が処女かどうかなんて気にするわけないわ。

「アクツ様が陛下並みの女好き……そ、そうかもしれませんが、現実にアクツ様の恋人は皆綺麗な身体だったので……」

「あ~もう! グチグチとうるさいわね! 私がそうだって言ってるんだからそうなの! 今までラウラにこうしなさいと言ったことで間違っていたことある? ないでしょ? 黙ってお姉さんのいうことを聞いていればいいのよ。あんまりグチグチと後ろ向きなことを言うならぶっ飛ばすわよ!? 」

 私は言葉で言っても無駄だと早々に悟り、ウンディーネを呼び出し水龍にしてラウラへとその竜頭を向けた。

「ね、姉さん落ち着いて! 水の密度が尋常じゃないわ! そんなので殴られたら死んでしまうわよ! 」

「ならいうことを聞きなさい。ちょうどニホンにはバレンタインデーというイベントがあるの。すでに愛し合っている男女がお互いの愛を確かめ合うほかに、女性が好きな男性に堂々と告白できるイベントでもあるのよ。これを利用して告白しなさい! わかったわね!? 」

「こ、告白を!? でも……」

「まだ言ってるの? なら湖の端までぶっ飛びなさい! 」

 私は片手を上げ、天高く上昇させた水龍ををラウラに向けて放とうと腕を振り下ろそうとした。

「ま、待って! わ、わかったわ! 」

「よしっ! それじゃあニホンに行くわよ! コウ君にはバレンタインデーのお昼は時間を空けておくように言っておくから、ラウラはチョコレートの準備よ! 女体盛りは恋人になってからだから、ちゃんとしたのを作らないとね! 」

「にょ、女体盛り!? なんなのよそれ……」

「告白が成功してからのお楽しみよ。それじゃあメレスロスとリリアを連れて行くわよ! 」

 私はそう言ってラウラの腕を引っ張り屋敷へと連れて行った。そしてメレスと雪華騎士たちを連れ、転移装置で悪魔城へと向かったのだった。

 まったく、世話の焼ける妹だわ。

 でもこれでラウラは幸せになれる。コウ君なら絶対に幸せにしてくれる。

 信じているからねコウ君。





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