ニートの逆襲〜俺がただのニートから魔王と呼ばれるまで〜

芝桜

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終章 ニートの逆襲

第1話 潜入任務

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 ——テルミナ帝国東部 スラム街 幻影大隊 第一特殊部隊 第一小隊長 仁科 星夜 少尉 ——




 日も暮れ暗闇に包まれたスラム街の中を、俺はローブのフードを目深に被りながら歩いていた。

 周囲の建物からは、複数の獲物を狙う狩人のような視線を感じる。

 そんな彼らに見えるように、俺はローブの隙間から大隊の徽章を取り出した。

 その瞬間。周囲から逃げるように気配が消えた。

 ここはマルス公爵の寄子である貴族の領都にある、闇ギルドが支配していたスラム街。

 そう、していただ。闇ギルドはダークエルフと幻影大隊の仲間たちにより壊滅させられ、今ではダークエルフたちが間接的に支配している。

 煩わしい視線がなくなり、俺は目的の建物にたどり着いた。そして中へと入り突き当たりにあるドアをノックした。

 しばらくするとドアの覗き窓が開き、そこから顔立ちの整ったオレンジ色の髪の男が現れた。

 見たことのない顔だ。

『誰だ』

 しかし男は聞き慣れた声で問いかけてきた。

「その声は飯塚か、遅くなって悪かったな俺だ仁科だ」

 俺はそう言って懐から身分証を取り出し魔力を通した。

 すると身分証は光り、それが偽物ではないことを証明した。

『合言葉を……イケメン』

「最高」

『人生』

「大逆転」

『股間』

「休む間もねえ」

『間違いない。仁科さんっすね。入ってください』

 合言葉に間違いがないことを確認した飯塚は、それまでの疑うような表情から一転して笑顔になりドアを開け出迎えてくれた。

「飯塚さあ、身分証も見せたし声でも分かるのになんで合言葉が必要なんだよ」

 飯塚とは同じ小隊とはいえ、班ごとに潜入先が違うから顔を合わすのは2ヶ月ぶりだ。

 しかし魔導通信でこまめに連絡をとっているんだし、偽造不可能な身分証も見せた。顔が変わっていても俺だってすぐわかるだろうに。

「アハハ、様式美ってやつですよ」

「そもそも合言葉なんて決めてないだろうが」

 ノリで答えたが合言葉なんて決めていない。

「返しの言葉でわかるんっすよ。非モテの俺たちだけにしか通じない魂の合言葉ってやつです」

「非モテか……そんな時期もあったな。まあいいや、みんなはもう来てるんだろ? 」

「はい。和田さんも各班長たちはも来てますよ」

 飯塚はそう言って地下へと続く階段へと案内してくれた。


「仁科さん! お久しぶりです」

「小隊長、お先です」

「あら、やっと来たのね。遅かったじゃない」

 階段を降りるとすぐに数多くの酒が飾られているカウンターと、複数のテーブルが目に入った。

 カウンターにはダークエルフのバーテンダーがおり、その向かいではうちの班の班長と、和田が率いる第二小隊の班長らが複数のテーブルに腰掛け酒を飲んでいた。

 いや、カウンターの前で一人。身分証を目の前に置き、グラスを片手に妖艶な雰囲気をかもし出している女性もいる。

「早かったなお前ら」

 俺はカウンターに座っている美女をスルーして、テーブルでジョッキを上げて挨拶をしてくる皆に手をあげて応えた。そして空いているテーブル席へと腰掛けた。


 今日は近くで任務を行なっている、同じ第一特殊部隊の和田小隊とうちの小隊で近況報告をし合おうということで集まったんだ。

 あの日。色々と新しい扉を開いたダンジョンでの訓練を終えた俺たちは、3日しか休みを与えられず、すぐさま帝国本土の阿久津公爵領に送り込まれた。そしてオリビアさんの元情報局の部下たちによりスパイ研修を受けた。

 研修は1ヶ月間でほとんど座学だったから肉体的には楽だった。しかしかなりの詰め込み授業のうえ、座学のテストや実技のテストもあったからしんどかった。

 特に女性を口説く授業では、若い講師の女性に盛大にダメ出しされた時はうちの小隊の皆の心が折れそうだった。馬場さんと既婚者は一度もダメ出しされていなかったが……これが結婚できる者とできない者の差かと、打ちひしがられたもんだ。

 そしてそんな精神的に色々とキツかった研修の終了試験の日。

 『見た目はイケメンだし潤沢な活動資金もあるから、ある程度はごまかせるでしょう』と美人の講師に合格をもらった俺たちは、心に傷を負いながらそれぞれの任地に赴いた。

 ちなみに大隊長兼第一特殊部隊長の馬場さんと、副隊長兼第二特殊部隊長の武田中尉は、阿久津公爵領の幻影大隊本部でそれぞれ1個小隊を連れて俺たちのバックアップ任務に就いている。

 さらには御庭番衆と宵闇の谷忍軍のダークエルフたちが、陰ながら俺たちを支援してくれている。

 彼らは俺たちに厳しいが、どうもダンジョン内でも俺たちを見守っていてくれたらしい。まったく魔力も気配も感じ取れなかった。まさかテントの中まで入ってきていないよな?

 俺はダンジョンでのことを思い出し、カウンターでグラスを磨いている中年のダークエルフの男性へとチラリと視線を向けた。

 彼の名前は知らない。潜入前にあった記憶があるが、名無しだとしか答えてくれなかった。

 その彼は俺の視線を気にすることなく、ただ黙々とグラスを磨いている。

 うーん……時折くノ一たちが興味深そうな視線をちょこちょこ向けてくるのが気になるんだよな。彼らは寡黙で口数が少ないから、なかなか遠回しに聞けないし。

 それでも彼らには潜入当初は命を救われた。役目が被っているにも関わらず、俺たちを守ってくれる彼らには頭が上がらない。

 そんな危険と隣り合わせの任務も一区切りつき、次の任地に向かう前に和田たちの小隊と情報交換をしようとこうして集まったわけだ。

 全員顔が変わっているから、本人確認は魔力を登録する身分証作成機で作った物を皆が持っている。これは阿久津が魔導技師であるライムーン侯爵に特注で作らせた物らしく、偽造は不可能らしい。

 全員帝国人になっているから、これが無いと誰だかさっぱりわからない。

 それに顔もみんなが超絶イケメンだ。だから今日は声だけは元に戻すようにあらかじめ伝えていた。

 しかし

「ちょっと、星夜? 私を無視するなんて酷いじゃない」

 コイツだけは声を変えていない。しかも俺を名前で呼びやがって!

「……お前いい加減にしろよ? 」

 俺はカウンターで足を組み、深いスリットの入ったスカートから網タイツの太ももを覗かせている女性に真顔で答えた。

「やだ、なんで怒ってるのよ。声を戻してないのはこんな格好で男の声だと気持ち悪いでしょ? だからよ。姿は戻せないわ。まだ任務中だし、一度戻したらまたこの姿になるの大変だし」

「俺の名前を呼ぶなって言ってんだ。俺とお前はただの友人だ。お前の小隊の奴らと同じだと思われたくねえんだよ」

 俺は名前で呼ぶ女装……いや、女体化した和田へそう釘を刺した。

 うちの小隊と同じように和田の小隊も別の貴族家への潜入をしている。そしてメイドや側室と仲良くなって情報を聞き出している。

 しかしどうしてか和田だけは俺たちとは別の形で潜入し、ここにいる誰よりも多くの情報を得ている。そりゃそうだ、貴族の当主から直接情報を聞き出しているんだからな。

「ふふふ、なのことかしら? ヤキモチ妬いてるなら相手してあげても良いわよ? 」

「和田……お前はもう俺の知る和田じゃなくなっちまったんだな……」

 予兆はあった。ドッペルゲンガーに転生する時に、女になれると聞いた和田は目を輝かせていた。

 和田はエロい。それはもう気持ちいいことのためならなんでもする。自ら性の探求者と名乗っていたくらいだ。昔は俺たちによく気持ちの良い自家発電の仕方を真顔で解説していたもんだ。

 しかしまさか小隊の部下に手を出していただなんて……あのダンジョンで俺たちより先に一線を超えた小隊があったとはな。

 そして今も貴族家当主に近づくために、身体を武器にしているらしい。

「星……仁科も女になってみればいいじゃない。うちの子たちも何人かやってみて目覚めたわよ? 女の方が気持ちいいから一度経験したら病みつきになるわよ? それに女の気持ちもわかるようになって口説きやすくなるし夜も上手くなるしで良いことずくめよ? 」

「……遠慮しておく」

 俺は夜が上手くなるという部分に若干引かれたが、自分が男に抱かれることを想像して冗談じゃないと思い拒絶した。

 股間の形を変えれるしな。テクニックはまあそのうちにだ。

「そう、せっかく変幻自在の体を手に入れたのにもったいないわね」

「お前が何をしようと勝手だが、うちの小隊には手を出さないでくれ。オイ、お前ら和田をチラチラ見てんじゃない! 和田だぞ? あの和田 圭一《けいいち》なんだぞ? 」

 俺が飯塚を筆頭に和田の太ももをチラチラみているうちの班長たちにそう釘を刺すと、彼らはハッとした顔になり目を瞑り首を左右に振った。頭の中で男の時の和田の姿を思い出しているんだろう。

「失礼しちゃうわね。今の私はケイシーよ。帝国一の美女、魅惑のケイシー。この名をいつか帝国中に広げてみせるわ」

「なんという安直な……」

 俺は和田のネーミングセンンスに首を振った。

「まあまあ、仁科さんも和田さんもとりあえず乾杯しましょうよ」

「ああそうだな」

「それもそうね」

 飯塚の言葉に俺と和田はうなずき、目の前に置かれたジョッキを手に取った。

「では第一小隊と第二小隊が潜入に成功したことを祝って……乾杯! 」

『『『かんぱ~い! 』』』

 俺が音頭を取ると皆でジョッキを打ち付けながら日本産のビールを飲み干した。

 日本の酒は帝国でも人気で、今じゃどこに行っても買うことができる。

「ふふふ、でも仁科たちは最初は結構危なかったって聞いたわ。よく潜入できたわね」

「まあな。班員がヘマをして危ない時もあったけど、半蔵さんやダークエルフの人たちがが助けてくれたからな」

 俺は和田の言葉にこれまでの2ヶ月間であったことを思い出し、カウンターにいるダークエルフの男性へと頭を下げた。

 そう、あれは今から2ヶ月前。うちの小隊はマルス公爵家の寄子である、男爵家と子爵家の屋敷。そして軍の高級士官の屋敷へ潜入するよう命令された。

 どうもこの2家は滅びたロンドメル家や地球の旧国家と繋がりがあるらしい。

 そこで俺の小隊が潜入捜査をすることになったんだが、研修を終えて間もない俺たちだ。配送業者として屋敷に出入りしたり、商人を装いメイドを口説こうとして失敗した者がいた。

 そして屋敷の兵士に捕まろうとしている所を、俺が近くにいた部下を連れて救出に向かった。そして兵士と戦闘することになった。当然姿は変えてだ。

 そしてなんとか隙を見て、兵士に化けて逃げようとした。しかし高ランクの兵士に俺も部下も傷を負わされ、次々と切りかかってくる兵たちにそのタイミングを掴めなかった。

 このままじゃマズイと思ったその時。黒い忍者装束を身にまとい、大型バイクにまたがった集団により助けられた。半蔵さん率いるダークエルフの草たちだ。

 後からわかったことだが、どうも部下が口説こうとしたそのメイドも他の貴族家より送り込まれたスパイだったようだ。

 その後は再び姿を変えて別の方向からアプローチして、俺は貴族の側室に目をかけられ執事見習いとなり潜入することに成功した。部下も姿を変えて別のメイドを口説き、情報を聞き出すことができるようになった。

「うちもダークエルフの人たちには助けられたわ。特にくノ一には特殊な薬を用意してもらったりして……もう伯爵家の屋敷は私の小隊が制圧したも同然よ」

「そ、そうか……」

 俺は和田の言葉に深くは聞かないようにして流した。

「でも任務はいつまでなんすかね? 任務が終わったらこの任地から姿を消さないといけないんすよね? 今付き合ってる女性とも別れて……」

「そりゃそうだろ。次の任地でまた姿を変え、そして女を口説いて潜入しての繰り返しだ。今繋がっている女性とは縁を切らないと大変なことになる」

 飯塚は何を当たり前のことを言ってんだ?

「そうっすか……」

「なんだよ急に暗くなりやがって。確かお前は三股くらい掛けてるって言っていたよな? 全員に別の姿で接してんだろ? 器用なやつだな」

 飯塚は配送業者として2家に出入りしている。そしてメイド2人と一般の女性一人と付き合っていると言っていた。阿久津に精力剤を頼んでいたくらいだ。毎日やりまくってるんだろう。

 俺でさえ貴族の側室の女性と、本妻の娘の相手で大変だってのによくやるよ。

「……みんな俺のことが好きって言ってくれてるんすよね」

「お前のそのイケメンの顔とその資金力にな」

 なんだコイツ? まさか情が湧いたのか?

「そんな…………」

「違うと言い切れるのか? 元のお前の姿を見ても、彼女たちは同じようにお前を好きだと言ってくれる自信があるのか? ニートだった頃の風呂に月一しか入らず、美容室にも何年も行っていない本当のお前の姿を見て、彼女たちは今と変わらない愛情をお前に注いでくれんのか? 」

 俺の言葉に飯塚は目が覚めたのか、グラスを手に持ちながらうつむいた。

 ふと周囲を見ると、同じようにうつむいている者たちがいる。

 ったく、ちょっとモテたくらいで真の姿を忘れやがって。馬鹿野郎どもが。

「で、でも……彼女たちなら本当の姿を見ても俺のことを……」

「このっ! 大馬鹿野郎! 」

「ぐあっ! 」

「「「仁科さん! 」」」

 俺は勘違いしている飯塚の目を覚まさせるために思いっきり殴り飛ばした。

 そして床に転がり頬を押さえている飯塚の前に立ち見下ろした。

「自分を見失ってんじゃねえ! 俺とお前の真の姿は違うだろ! 生前俺たちは女の子に好きだ愛してるだなんて言われたことがあるのか? 無いだろうが! 風俗でしか女に相手をされず、しかもサービスが悪かった事を忘れるんじゃねえ! それが俺たちの真の姿だろうが! 」

 俺がここまで言うと飯塚は泣きそうな顔になり、周囲では先ほどより多くの人間が下を向いた。その中には和田の姿もあった。

「飯塚……確かに今は変幻自在の身体を魔神阿久津から与えられ、そのおかげで人生が一変した。イケメンにもなれて、エロゲの主人公のように股間の形を変えることもできる。そんな奇跡の身体と任務のために使うことのできる潤沢な資金力。これでモテないわけがないよな。だが転生したとはいえ、真の俺たちの姿は生前のあの姿だ。転生して生まれ変わったと、そうやってどんなに思おうが生前の姿と記憶は俺たちの中から消えねえんだ。それがある以上、俺たちは真の愛なんか得られることなんかできねんだよ! 」

 俺たちは愛だの恋だのを追い求めたら駄目なんだ。そんな物に幻想を抱き、元の姿で髪と目の色を変えただけで任務を遂行しようとしてみろ。絶対に成功しない。

「う……仁科さん……俺……俺は……」

「飯塚……愛がなんだってんだ? こうして毎日女とヤレてるじゃねえか。今まで手の届かなかった美女も、可愛い女の子もよりどりみどりだ。任地が変わったらまた別の女を口説けばいいじゃねえか。そうして一緒に千人斬りしようぜ? もう阿久津の魂の中で羨ましがっていた俺たちじゃねえんだ。その気になればハーレムを作れるんだよ。それのどこが不満だってんだ? 俺たちは魔神阿久津に魂を売ってこの素晴らしい身体を手に入れた。それ以上望むのは、富豪が小学生の持つお菓子が欲しいって駄々をこねるようなもんだぜ? 」

「……そうっすよね……俺勘違いしてました。俺なんかが女の子に愛されるなんてあり得るわけがないっすもん……仁科さんのおかげで目が覚めました。ありがとうございます」

「わかってくれればいいんだ。痛かったか? 悪かったな」

「いえ、幻想に惑わされていた俺を現実に戻してもらえて感謝してるっす。千人斬り……一緒に達成しましょう! 」

「ああ、約束だ。みんなも約束だ! 俺たちは女を喰って喰って喰いまくる! そして誰が最初に千人斬りを達成するか競争だ! 俺たちが求めるのは愛なんかじゃねえ! 穴だ! いいな! 」

「「「はいっ! 」」」

「仁科……心に響いたわ……そうね、本気で好きになりそうな騎士がいたけど諦めることにするわ」

「お、おう……」

 俺は手に持ったグラスを眺めながら、落ち込んだように言う和田へそう返した。

 和田はもう心まで女になっちまったんだな……

 しかし危なかった……愛なんかに皆が縛られたら任務がやりにくくなるところだった。

 こんな女にモテて悦ばせることもできる身体を手に入れたってのに、どんだけ欲張りな奴らなんだ。ヤれればいいじゃねえか。そこに愛なんか必要ねえだろ。

 ったく、世話のやける奴らだぜ。

 それから俺たちは近況報告をし合いながら、落とした女の画像を見せ合い自慢大会を開催した。

 和田だけイケメン騎士の画像を見せてきて反応に困ったが……

 さて、今夜は早めに帰らないとな。当主の娘が股間を濡らして俺が夜這いに来るのをベッドで待っているだろうしな。

 ククク、阿久津。感謝してるぜ。まさかこんな薔薇色の人生を送れるなんてな。おれたちは一生お前について行くからな。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「そうですか。仁科たちの潜入は順調ですか」

 7月に入りだいぶ暑くなってきた頃。

 俺は幻影部隊の報告を馬場さんと弥七から受けていた。

「ああ、全ての部隊が対象の貴族家及び、軍の高官の屋敷への潜入に成功した。色々とトラブルもあったが、御庭番衆と宵闇の谷忍軍のギルロス……いや、銀無殿の助けにより事なきを得た」

「銀無たちもエルフの森から呼び戻してからは張り切っているようですからね。弥七《ヤンヘル》、今後も幻影部隊のバックアップを頼んだぞ」

「御意」

「それと阿久津。これは話そうかどうか迷ったんだが、お前は和田と仲が良かったからな。一応耳に入れておこうと思う」

「え? なんです? 和田のやつが何かやったんですか? 」

 なんだ? アイツなんかやったのか?

「和田はその……女性になって貴族家当主の愛……秘書になった。そのおかげで部隊で一番情報を持ってくるんだが……まあそのそういうことだ」

 馬場さんは俺の隣の席でパソコンを入力しているティナをチラリと見た後、言葉を選びながらそう俺に告げた。

「……戻っては来れなさそうですか? 」

 俺はその意味を察し、少しショックだったが恐る恐る確認した。

「恐らく……女性の身体がずいぶんと気に入っているようだ」

「そうですか……」

 とうとうそっちに行ったか……休暇中も女性に姿を変えたいと申請してきていたからな。もしかしたらとは思っていた。

 和田は性の探求者だからな。女性になりたいというよりも、女の悦びにハマったんだろう。今はハマっているが、そのうち戻ってくるとは思う。戻ってくるかな……

「俺もショックだが、今までと変わらず接しようと思う」

「俺もそうするように心がけます」

 まあそれならそれで使いようがあるからいいか。隣の領の当主になった、魔帝のひ孫のローエンシュラム侯爵家にでも送り込むかな。ずっと面会を断っていたら、メレスが義理の孫になるのか? まあ会ってみたいって言い出すしな。

 隣領には銀無に草を送らせているが、城の中までは入り込めてないみたいなんだよな。和田の部隊を送って先にどんなやつか調べさせるか。

 そう考えた俺は和田の小隊の任務を早々に切り上げさせ、ローエンシュラム侯爵気に潜入するように馬場さんに指示をして仕事へと戻ってもらった。

「さて、そろそろ時間だな」

 馬場さんがたいせきしたあと、俺は窓から夕焼けに染まる空を眺めながらそう言って席から立ち上がった。

「あら? 今から出掛けるの? 」

「ああ、ちょっと魔道科学研究所に寄って開発中のエアバイクを見てくる。そのまま三井と三田や田辺たちと飲んでくるから遅くなると思う」

「そう、楽しんでらっしゃい。オリビアには言っておくわ」

「頼むよ」

 俺はティナにそう言って執務室を出て、鹿児島に作った魔導科学研究所へと向かった。

 実は弥七たち用のエアバイクのほかに、もう一つ作らせていた物の試作品が完成したってさっき所長から携帯にメールが来たんだ。内密に研究させていたそれができたことに俺はワクワクが止まらなかった。

 でもそれをティナに悟られるわけにはいかない。この兵器は絶対に恋人たちには知られてはいけないのだから。

 俺は三井と三田たちに、かねてからの計画を実行するとメールを送ってから研究所に入り、その兵器を受け取ったのだった。

 まずはみんなで実験だ。

 うへへ、楽しみすぎる!




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