ニートの逆襲〜俺がただのニートから魔王と呼ばれるまで〜

芝桜

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終章 ニートの逆襲

第12話 千人斬りへの道

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 ——岡山地区 山中 深夜 幻影大隊 第一特殊部隊 第一小隊長 仁科 星夜 少尉 ——



『ここがオイラたちの巣だゴブ』

 俺たちを巣に案内するために前を歩いていたゴブリンが、洞窟を指差しそう言った。

 洞窟の入口は人が5人は並んで入れそうなほど大きく、左右には松明が掲げられている。そしてその横には槍を持った2匹のゴブリンが歩哨として立っていた。

『へぇ……こんなところに洞窟があったのか』

 俺は得意気な顔をしているゴブリンに魔物の言語でそう答えつつ、隣でゴブリンに擬態している4人の部下へ目配せをした。

 こんな崖の下にあったとはな。どうりで探知で引っかからないわけだ。

『驚いたかゴブ? ここにはドラゴンから逃げてきた仲間が70匹はいるゴブ。ドラゴンがいなくなったら、ニンゲンの街を襲って食い物とメスを大量に確保する予定だゴブ』

 目の前のゴブリンはそう誇らしげに今後の予定を話した。一緒にいる3匹の仲間のゴブリンも嬉しそうに頷いている。

『そうか。残念だったな。だがその予定はキャンセルになるな』

『どういうことだゴブ? 』

『だってお前らは俺たちによって……一匹残らず駆除されるからなっと! 』

 俺はそう言うや否や腰に差していた剣を抜き、目の前で首を傾げているゴブリンの首を刎ねた。

 それと同時に一緒にいた4人の部下も、首を刎ねたゴブリンの仲間を次々と斬り捨てた。

 突然目の前で起こった惨事に、洞窟前で歩哨をしているゴブリンがギョッとした顔でこちらを見て固まっている。

『火槍』

 そこへ俺の部下が放った2本の火槍が襲いかかる。

  

 火槍は見事にゴブリンの胸にそれぞれ突き刺さり、その炎がゴブリンのボロ着に燃え移り火だるまにした。

 その光景を見届けた俺は、耳に装着している小型の無線機を通し後方に潜んでいるはずの仲間を呼んだ。

『飯塚! 』

《はいよっと! 小隊突撃! 》

 飯塚の号令とともに、15人の剣を持った日本人姿(修正バージョン)の部下たちが後方の茂みから現れた。

 そして彼らは全速力で洞窟へと向かい、その途中で先頭を走る飯塚が俺へと斬り掛かってきた。

『オイッ! テメエふざけんなよ! 俺だ俺! 』

「あっ! すいません! てっきり敵のゴブリンかと思いました。へへへ」

「後ろで見ていたくせに嘘つくんじゃねえ! 」

 俺は飯塚の剣を剣で受け止めながら擬態を解き、ゴブリンから人の姿へと戻り飯塚の腹を蹴り飛ばした。

「ぐえっ! じょ、冗談っすよ隊長。そんな怒らないでくださいよ」

「ふざけてないで早く突撃しろ! 飯塚、お前は奥にいるゴブリンキングとタイマンしてこい! 」

「げっ! 俺一人っすか!? 」

「ゴブリンキングなんか余裕だろ。早く行け! 」

「わかりましたよ……ちぇっ、いつも俺ばっかり……みんな行こうぜ」

 飯塚はブツブツ言いながら小隊を率いて洞窟の中へと入っていった。

 ったく飯塚の野郎。ゴブリンやオークばかりだからって余裕こきやがって。

 それにしてもまさかまた魔物に擬態することになるとはな。

 状況が状況だから仕方ないが、こんな姿を帝国に残してきた女たちには絶対に見せられないな。

 俺は黙って抜け出してきた、新しい潜入先である男爵家の屋敷にいるメイドの女たちを思い出していた。

 トントン拍子に三人も落とせてウハウハだったんだけどな。側室の女ももう少しで落とせそうだったってのに。

 でも悪魔が侵攻してきただけじゃなく、世界中のダンジョンから魔物が飛び出してきたんだ。任務途中でも呼び戻されるのも仕方ないか。

 俺たちも家族がいる日本のダンジョンから魔物が出てきたって聞いてかなり焦った。まあ阿久津がドラゴンを使役したって聞いて安心したけど。

 あいつマジでとんでもねえわ。いくら強いからってドラゴンを蘇生するか? しかも50頭も。

 岡山に行けって言われて着いたらリズさんが乗った火竜が暴れてんだもんな。近くの森の木が焼け焦げてたのはきっとあの人がやったんだと思う。

 そしたら本部の馬場さんからの命令で、その森に入り魔物に擬態して逃げた魔物を探せと言われた。俺を含めてみんながやっぱりって顔をしてたよ。

 でも三日以内に街にいる民兵で対応できる数まで減らせって阿久津から厳命が出ていたから、泣く泣く擬態して森に入った。その際にリズさんに絶対に森を燃やさないでくれってお願いしたけどイマイチ不安だ。

 彼女は笑いながら『大丈夫だって、あたしを信じろ』って言っていたけど、隣で疲れた顔をしているシーナさんやエルフの顔を見たら全然安心できねえんだよな。早く他の地区に行ってくれないかな……

 そんな不安を胸に抱きつつも、俺たちは空からホークⅡに乗った探知スキル持ちの兵からの情報をもとに、一晩中ゴブリンとオークが潜んでいる場所に仲間のフリして近づいて潰して回っていたってわけだ。

 夜が明けた今日も朝からゴブリンの巣を潰して回り、気がつけばもう深夜だ。

 だがゴブリンはともかく、ここに来てからまだ20匹程度のオークの巣を2つしか見つけてない。シーナさんは少なくとも百匹以上は森に逃げ込んだはずと言っていた。てことはどこかで固まっているのかもしれない。

 ここ岡山は俺と和田の小隊が担当していて、他の部隊は神戸や仙台などダンジョンの近くに山や森が多いところに行っている。小隊で対応ができないほどの数のオークを見つけたら、ほかの小隊と街にいる陸軍と協力して殲滅することになっている。

 最低でも明日中にそのオークたちを殲滅しないといけない以上、俺たちとしてはオークがまとまっていてくれた方が助かるんだが問題は見つけられるかどうかなんだよな。

 そんな事を考えながら俺と囮役をした4人の部下たちは飯塚たちの後をゆっくりと付いていき、洞窟の小部屋にいるお腹の大きなメスのゴブリンを処理していった。

 その後洞窟内のゴブリンとゴブリンキングを皆殺しにした飯塚たちと外に出て、洞窟の入口を石壁のスキルで塞いだ。

「こんなもんかな」

「今回も楽勝でしたね」

 剣についた血を布で拭い終えた飯塚が、まだまだ余裕がありそうな顔でそう言った。

「まあゴブリンだからな」

 狩るのは簡単でも巣を見つけるまでが大変なんだよな。

「それもそうっすね。あ~、早く終わらせて帝国に戻りたいっす。二人の新しい恋人が俺を待ってるんすよ。二日も女の子とヤれないなんて、そんなのもう耐えられない体になったっす」

「あ~そうかい」

 この男は……前回の潜入任務が終わったあと、恋人と別れなきゃならなくなって死ぬほど落ち込んでいたくせにもう新しい恋人で頭がいっぱいかよ。

 まあ隣で落ち込まれるのも鬱陶しかったからいいけどさ。だがこれで飯塚もわかっただろう。女なんかに本気になるのは馬鹿だってことが。今の俺たちには女は掃いて捨てるほどいるんだ。使い捨てが正解なんだよ。でなきゃ千人斬りなんて到底できるわけない。

 俺もまだ喰った女はたったの18人だ。先は長い。

「あ~あ、なんで街での駆除じゃなかったんだろ。ニート連隊の皆はSNSで大人気っすよ。危ないところを助けられたっていう女子高生たちが、助けてくれたニートと連絡取りたいって投稿してるんすよ? 可愛い子もいっぱいいたし、俺たちもあっちがよかった」

「三田たちは擬態ができないからな。適材適所だ。んなことより次の命令が入ったぞ。ここから東に30キロの山中に複数の魔物の反応があるらしい」

 俺は飯塚の話を聞き流しながら軍から支給されている端末を確認し、馬場さんのいる本部から発布された次の命令を皆に伝えた。

「30キロっすか……小型飛空艇は……」

「んなもんねえよ。飛空艇もホークⅡもみんな出払っている。走って移動するぞ」

「またっすか……」

「文句を言うな。いいか? 飯塚もみんなもよく聞け。昨日話したとおり、阿久津から三日以内に領民でも対応できる程度まで魔物を減らせって厳命が出ている。タイムリミットは明日だ。明日中に岡山にいるオークだけでも殲滅しなきゃ、阿久津に潜入任務ばかりで腕が落ちたと思われ、再訓練として俺たちを上級ダンジョンに放り込まれる可能性は高い。そうなれば帝国に戻るのは何ヶ月先になるかわからない。今必死に魔物を狩って帝国に戻って再びヤりまくりの毎日を送るのと、ダンジョンで女なしの生活を何ヶ月も送るのとどっちがいいんだ? 」

「「「「「隊長! 早く行きましょう! 俺たちの故郷を守るために! 」」」」」

「よし、なら出発だ」

「「「「「了解! 」」」」」

 俺の号令とともに、部下たちは一斉に東へと走り出した。

 女を知り、それにより女なしの生活には戻れなくなった頼もしい部下たちと共に。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢



「止まれ! オークだ」

 目的地付近の森の中で探知のスキルを発動しながら進むと、前方で3匹のオークが川沿いを歩いている姿を見つけた。

「ビンゴっすね仁科さん」

「ああ、よし。またくじ引きをするぞ」

 俺は小隊の皆を集め、マジックポーチから20本の割り箸が入った筒を取り出した。そして皆に引かせた。これは今回の潜入任務用に作ったものだ。

 通常はこういった潜入任務は班ごとで行うのだが、ゴブリンとオークが相手なら余裕だから個人単位でくじを引くことになった。

 そんな低ランク魔物が相手ということで、皆が気楽な気持で次々とクジを引いていく。

「チッ、またかよ」

「くっ、今度は当たりを引いたっす」

 その結果、俺と飯塚と3人の部下が当たりを引いた。

 俺は二回連続だ。ついてねえ。

「まあいいや。じゃあ俺と飯塚たちで行ってくるから、吉田が小隊を指揮してくれ。飯塚、とっとと終わらせるぞ」

 そう言ってオークに擬態した俺は、皆のことは三班の班長の吉田に任せオークの後を追った。

 その後いつものようにはぐれオークのフリをしてオークに声を掛け、巣のボスに紹介してもらえることになった。

 それから1時間ほど歩くと大きな滝が見えた。俺が水の補給でもするのかと思っていたら、オークたちは滝の裏へと入っていった。

 飯塚たちとその後をついていくと、そこにはなんと洞窟らしき入口が存在していた。

『まさか滝の裏に洞窟があったなんてな』

『ブヒヒ、驚いたか? ここはボスが見つけて、その後オレたちに同胞を集めるように命令したんだべ』

『だからすぐに俺たちを受け入れたってわけか』

『んだ。ボスを見て漏らすんでねえぞ? なんたってオークキングだからな』

『オークキングがいるのか!? 』

 マジか! ボスはせいぜいオークナイトくらいだろうと思っていたがキングが……

 これはラッキーだな。キングがいるってことは、かなり大きな群れになっているはずだ。

『ブヒヒ、そうビビるでねえ。キング様はオレたちを守ってくださるだ。さあ入るだ』

 オークはそう言って俺たちに洞窟に入るように促した。

 洞窟に入るとそこはかなり広く、複数の側道があり天井も高かった。

 そんな洞窟を奥へと先導するオークの後をついていきながら、俺は探知のスキルを発動した。

 70……いや80ちょっとか。それに人間の反応も10ほどある。恐らく攫われた日本人の女性たちだろう。

 クソ豚どもが……

 俺は後ろからついてきている飯塚に向け、後ろ手に指で魔物の数を伝えた。そして手信号で援軍を要請するように指示をした。

 このオークの数。岡山のダンジョンから山に逃げた、残りのオークの殆どがここにいると見て間違いないだろう。

 さすがにこの数を俺の小隊だけで駆除するには無理がある。ここは和田の小隊と街にいる軍と協力した方がいい。

 軍が飛空輸送艦で和田たちを拾い、ここにやってくるまで3時間ってとこかな。

 まあここにいるオークをすべて駆除すれば岡山はもう大丈夫だろうし、ならそれくらい待つさ。

 そんな事を考えていると先導していたオークたちが立ち止まり、俺たちへと振り向いた。

『ここで待っているだ。キング様に話を通してくるだ』

『ああ、頼むよ』

 俺がそう答えるとオークはうなずき、右の側道に入っていった。

 ここにはオークが2匹と、オークに擬態した俺と飯塚たち5人が残されている。

 そうしてキングに話を通しに行ったオークを待っていると、左の側道から一回り大きいメスのオークが現れた。オーククイーンだ。

 メスのオーク2匹を従え側道から出てきたオーククイーンは、俺たちの姿を見て足を止めた。

『ん? 新顔け? 』

『んだ、クイーン様。キング様へ紹介するためにここで待っているだ』

『ふうん……なかなかめんこいオスだべな。うん、気に入ったべ。そこのおめえ』

『え? 俺ですか? 』

 俺は突然オーククイーンに指を差され動揺した。

『んだ。おめえはわだしと一緒に来い』

『え? いや、仲間を置いて行くわけには……』

『おめえの仲間にはニンゲンのメスを与えてやるべ。その間おめえはわだしの相手をするだ。わだしと側付きのこのメスらはちょうど発情期でムラムラしてっだよ。特におめえみたいなめんこいオスを見たら我慢ならねえだ』

 オーククイーンはそう言いながらボロ着の上から複乳を揉みしだき、目をうるませながら口からよだれを垂れ流した。その後ろにいる2匹のメスのオークも豚鼻を大きく膨らませ、俺に熱い眼差しを向けている。

 それはまさに餌を前にした豚そのものの姿で……

 ひっ!? じょ、冗談じゃねえ! なんとかして断らないと!

『あっ、いや俺なんかがクイーン様の相手など恐れ多くて……なによりもキング様に知られれば殺されてしまいます』

『大丈夫だ。子種は多いほうがいいべ。キングにはわだしから言っでおぐから心配することはねえだ。さ、いいからこっちに来るだ。おい、おめえは残りの4匹をニンゲンのメスのとこにつれていくだ』

 後ずさる俺の腕を掴み、オーククイーンは俺たちを連れてきたオークにそう指示をした。

『わかっただ。ブヒヒ、絶世の美女であるクイーン様のお相手をできるなんてオマエが羨ましいだ』

『あっ、ちょっ! ま、待ってくださいクイーン様! 』

 俺はオーククイーンとメスのオークに両腕を掴まれ、引きづられるように側道へと連れて行かれようとしていた。

 マズイ! このままじゃ絶対にマズイ! どうする!? ここでオーククイーンを殺すか?

 いや、まだ駄目だ。外にいるはずの吉田たちは飯塚から連絡を受けて、和田小隊や陸軍と合流するためにここから離れているはず。

 今このメス豚クイーンを殺せば、その瞬間この洞窟にいるオーク80匹に退路を断たれる。ここが屋外なら逃げることもできるが、洞窟の奥じゃどうにもならない。

 でもこのままじゃ俺がオークと……そんなの嫌だ! 豚と獣姦なんて冗談じゃねえ! そんなことするくらいならここで暴れて死んだほうがマシだ!

 そう覚悟を決めた俺は、風刃のスキルを腕を掴んでいるオーククイーンの首に放とうとした。

 しかしその時。

『仁科さん! 』

『『『隊長! 』』』

 飯塚たちが俺を呼ぶ声が聞こえた。

 俺は一緒に戦ってくれるのかと、そう胸が熱くなるのを感じながら飯塚たちのいる場所へと視線を向けた。

 だが飯塚たちの手には剣はなく、その手は胸の前で合わさっていた。そして彼らの顔は今にも泣き出しそうで、その姿はまるで俺に懇願しているかのようだった。

 そんな飯塚たちのその姿を見て、俺の全身から力が抜けていった。

 そうか……お前らは生きたいのか。

 この後、俺は側道の小部屋に運び込まれた。そこはおこうのような匂いが充満しており、その匂いを嗅いだ途端。

 擬態しているオークの獣性が解き放たれた。

 その後のことはよく覚えていない。

 しばらくして気がつくと、俺の腹の上で踊り狂っていたはずのオーククイーンたちが血だらけになって倒れていた。

 何が起こったのかと周囲を見渡すと、そこには飯塚や外にいたはずの吉田たちが血のついた剣を握りしめ、申し訳なさそうな顔で俺を見ていた。

 ああ……終わったんだ。俺は助かったんだ……

 俺は皆が助けに来てくれたことに安心したのと、色々と消耗していたこともあり次第に意識が遠のいていった。

「仁科隊長! あの……すみませんでした。なんと言っていいかわからないっすけど……その……せ、千人斬りにまた近づけてよかったっすね。なんて、アハハ……」

 そして薄れゆく意識の中で、飯塚だけはいつか同じ目に遭わせてやると誓うのだった。


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