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#1 姫君の憂鬱
Ep.1 姫君の憂鬱
しおりを挟む今日も今日とて清楚で可憐、完璧な美少女の武装。
――これは私の復讐だ。
大嫌いな女共への。
放課後、人気のない高校の図書室。
洗練された知的で静かな空間に、全くそぐわない愛らしい高音が響く。
「すごい♡会長ってなんでも知ってるんですね♡」
丸く大きな瞳を線になる程細めて柔らかに微笑んで見せれば、インテリメガネの堅物生徒会長の頬が赤らむ。
極め付けに手の一つでも握れば、ほら――私に落ちた音がする。
――見てましたか?生徒役員女子の皆さん♡
真面目そうな見た目の女共が、本棚の影で悔しそうにこっちを見ているのを盗み見て胸がスッとする。
男なんてどうでもいい。ジャガイモみたいなもん。
私が世界で1番嫌いなのは――女。
私、こと藤澤 姫は16年前にこの世に生を受けた。
“姫”なんて名前に負けない容姿を携えて。
肩ほどまで伸びた天使の輪っかが輝くゆるふわの黒髪。
長いまつ毛に大きな目、小さな唇、華奢な身体……
美少女の条件を全て満たす私の人生には、常に女の嫉妬が付き纏った。
『姫ちゃんっておとこのこといるほうがたのしいんでしょ~?』
そう言って物心ついた時から幾度となく女にハブられた。
「そんなこと思ってないのにどうして?」
嫉妬も自分が恵まれた容姿であることも知らない、純粋なあの頃の私には仲間はずれの理由が全く分からなかった。
大きくなるにつれて、悪口も変化していく。
「藤澤さんが、誰々ちゃんの好きな人盗った!」
「誰々くんに近づかないで。」
「人の彼氏誑かすのやめてくれる?」
――私は何もしてないのに。
因縁つけられていじめられる日々。
……小学生の頃は殴り合いに持ち込んで全員返り討ちにしてやったけど。
中学の頃はいじめも陰湿化。
持ち物を隠されたことや、教科書に落書きされたこともある。
「“男好き”“淫乱”“死ね”……」
だから国語の授業で音読を指名された時に、悪口全部淡々と読み上げてやった。
あの時の凍りついた教室の空気と女共の絶望した顔が忘れられない。……後日やめよういじめの全校集会が開かれた。
――そして、中2の秋。
私に人生の転機が訪れる。
木枯らしが吹く校舎裏に呼び出され、睨みつけてくる女共に囲まれている。
だけど私は側の木に凭れて腕を組み、余裕綽々で鋭い視線を刺し返す。
ハッと挑発的に笑ったのが、女の癇に障ったらしい。
「――“可愛いから”って調子乗ってんじゃねぇよ!」
鮮烈なビンタと共に言われた言葉は、私の脳みそに大インパクトを与えた。
「――ふ、ふふ……」
可笑しくもないのに笑えてくる。
これぞまさに青天の霹靂。感謝してやらんこともない。
そうか、私は“可愛いから”虐められていたんだ。
だったら……やってやろうじゃん。
それから私は努力した。
そりゃもう血の滲むような努力だ。
メイクや可愛く美しい所作、言葉遣いを研究し、美しさに磨きをかけた。
帰ってから寝るまでずっと勉強し続け、この辺随一の進学校にも入学できるくらいの成績になった。
家事もスポーツもなんなだって全力投球した。
そうしてジャガイモ(男)共の理想を具現化した“清楚で可愛い完璧な美少女”を創り上げ、全員虜にしてやった。
――これが高校1年生になった現在まで続く、私の復讐だ。
「じゃあ、会長。さようなら♡」
軽やかに手を振り白い制服のスカートを翻して去っていく私の後ろ姿を、生徒会長が鼻の下を伸ばして見送る。
大体の男は可愛い私を遠巻きに見ただけで落ちちゃうけど、人気者にはこうやって直接手を下している。
その方が女の嫉妬や敗北感を最大限に煽れるからね♡
――とはいえ、“人気者のモテ男”なんてそうたくさんいるわけではない。
だから明日からは、ついになんとなく避けていた“奴ら”に手を出してみようと思う。
次のターゲットは私史上1番の大物。
私と同じ1年生のいけ好かないイケメントリオ――
学校の人気を三等分していると言われる王子共だ。
***
私の通う私立青藍高校は、生徒の自主性を重んじる緩さと、白基調のまるで商業施設のようなスタイリッシュで綺麗な校舎が売りの学校だ。
その中でも特に洗練されているのがこのカフェテラス。
全面ガラス張りで中庭の豊かな緑と青空が白い校舎に美しく映える開放感が最高。
……ただし今、その景観は損なわれている。
窓際のソファ席を遠巻きに取り囲む様に、女共がギチギチに列を成す。
そこにいる誰もが浮き足立っていて、キャーキャーと黄色い声で騒いでいる。
(ここは猿山か、鬱陶しい。)
すでにうんざりして鋭く舌打ちをひとつ。
そして細い体を更に細くしてもみくちゃになりながら、色めき立つ女共の間を縫って進軍する。
(――さて。もみくちゃの代償、払ってもらいましょうか♡)
目の前で喧騒などないかの様に優雅にソファに座っている3人の男に狙いを定めて妖しく微笑む。
さっき買ったカフェラテ片手に、私は背筋を伸ばして可憐に歩き出した。
――――
――……
「あのぉ……相席、いいですか?」
遠慮がちなソプラノボイスに、三者三様の顔をした男共が一斉にこっちを向く。
それと同時に女共の攻撃的な視線も一気に背中に突き刺さってゾクゾクした。
(決してマゾ的な意味ではなく。)
男達は未だ何も言わずに目を見張ったまま。
女に話しかけられたのがよほど珍しいかったのだろうか?
しかもこんな絵に描いたような美少女だし。
それにしてもこんな顔だけの無愛想な奴ら、どこがいいんだろ?
人当たりよく微笑みつつも内心冷静に3人を見下ろす。
黒髪の男は無表情で何を考えているのか全く分からない。
金髪の男は警戒心むき出しで子供っぽく私を睨みつけてくる。
茶髪男は唯一愛想が良さそうだけど、胡散臭いヘラヘラ顔が信用ならない。
近くで見れば見るほど「そんなに騒ぐほどか?」と思えてルッキズム思想に辟易する。
すると、黒髪が無関心そうにフイと私から顔を背けた。
「無理。」
甘やかな低音、そのくせ淡白で短い単語が高い天井に反響した様に鼓膜に届く。
――は?
今、無理って言った?断られた?私が!?
不測の事態に脳内はパニック状態で、ワナワナと手が震え出しそうなのをなんとか堪える。
驚き呆然と目を見開く私の後ろ姿に、今度は女共のクスクスと馬鹿にしたような笑い声が刺さった。
クッソ、なんで私が笑われてるわけ!?
初めて見る男の横顔に、笑顔を取り繕いながら恨みが募る。
屈辱で腹の中がカーッとなる最中、金髪からのトドメの一言。
「涼介が無理って言ってんだから無理なんだよ!
消えろ、“ブス”!」
あ、もう無理。
怒りの糸がブチっと切れる音がして、気付けば拳を握りしめていた。
――その手にカフェラテを持っていたことも忘れて。
瞬間飛び出す茶色の液体。
金髪の「ゲッ」という顔と茶髪の「わっ」と言う顔がスローモーションに見える。
あっ……!と思った時にはすでに遅し。
茶色の液体は見事に白いスラックスの布地に被弾。そして染み込みじわじわとのその勢力を広げていく。
しかも狙ったかの様に股間直撃。
手前にいた黒髪の、である。
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