姫君の憂鬱―悪の姫君と3人の王子共―

Chiyuki.

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#1 姫君の憂鬱

Ep.2 お姫様と王子共

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――で、どうしてこんなことになっているんだっけ?

どこにでもある古い普通の教室の真ん中で私は俯き正座していた。

その割にオシャレな丸テーブルに大きなソファが設置された、学校に似つかわしくない異質な空間。

なにこれ、なんか気持ち悪い。

「涼ちゃーん、これクリーニングしないと落ちないよ~。
一応洗ってみたんだけど~。」

引き戸の開く音と共に緊迫した空気を打ち破る様な脱力した声がカットインする。
それで我に返って状況を思い出した。

そうだ。
黒髪の制服を汚してしまったから、「洗うよ」って言って着いてきたんだった。

ここはもう使われていない旧校舎。
敷地内にあるのに鬱蒼とした雑木林に囲まれ隠されて、生徒から認知されているのかも怪しい場所だ。

そして私の目の前には今、ものすごい威圧感を放ち横柄にソファに座る男が1人。

――無愛想な黒髪、もとい近江 涼介おうみ りょうすけだ。

端正すぎる顔はいつでもどこでも無表情。
必要最低限しか喋らず、何を考えているのか分からないミステリアスさが彼の魅力。(私の感想ではない。生徒の下馬評。)
血が通っているのかも怪しい。私から言わせれば作り物のロボットだ。

そっと様子を伺う様に顔を上げると、艶やかな黒髪から覗く切れ長の目に睨まれた。
不覚にもその鋭さに圧されてひゅっと喉が鳴る。慌ててまた下を向くと、キンキン声が耳をつんざいた。

「そーやって反省してろ、ブス!」

(ブス?)

一瞬の間。一呼吸おいて明確な殺意が湧き上がる。

――くたばれ金髪!……じゃなくて、広瀬 真ひろせ まこと

気の強そうな猫目がチャームポイント。比較的背も低めで可愛い系。(私の感想では以下略。)
アシメを編み込んだ金髪にカラーピン、白ランの上品さを崩すカラーシャツ。兎角チャラくて程度が低い。
でも成績はいいらしいから鼻につく。

ソファ後ろに立って黒髪の腰巾着みたいなことを言う金髪の程度の低さを、こっそりと鼻で嗤う。
すると湿ったスラックスを持った茶髪が私を通り越して近江涼介の隣に腰掛けた。

「ねぇ君、いつまでそうしてるの~?」

――気の抜ける脱力感。榛名 聖はるな ひじり

色気たっぷりの下まつげ長目のタレ目。
甘さを放つキャラメルブラウンの緩いパーマヘア。
いつもニコニコ、常にヘラヘラ。誰にでも愛想がいいからこそ胡散臭い。
絶対に近づきたくないタイプ。

(――こんな奴らが“学園の王子”?)

世も末だわ、なんて遠い目をして奴らを見上げる。

――通称“H2Oえいちつーおー”を。

「…………。」

ダッッッサ!!
誰よこんなクソダサな呼称つけた奴!

“水も滴るいい男”なんて言うけど、自分たちが水になってちゃ世話ないわね。

あ、でも滴ってたか。
カフェラテだけど。股間にだけど。めっちゃ染み込んでたけど。

「……っふ。」

思わず笑い声が漏れてしまった。
それを聞いたH2O(笑)達が一斉に私を見下ろす。

だから吊り上がりそうな口角を、俯いているうちに押し戻して潮らしい態度を貫いた。

「下手な泣き真似するな。」

無機質なのに嫌悪を剥き出しにした声。
耳に届くその低音の響きは冷たいのに色がある。
それがあまりに威圧的で――……綺麗で。

ずっと震えていた腹筋がピタリと止まって、代わりに心臓の音が聞こえてくるようになった。

「……ごめんなさい。」

“違います、笑っていました”なんて言えるわけもなくて、緊張しつつも眉尻を垂らした上目遣いで黒髪を見つめる。

どうだ見たか、このウルウルでキラキラなお目目を!

泣き真似はみっともないからしないと決めていたけど、勘違いされたからにはやり通してやる。

これで奴らもイチコロ――……なんて思っていたのに、黒髪の長い足が伸びてきて、黙らせる様に私の頭に着地する。
つまり、このクソ男、足蹴にしたのだ。この私を!
 
「や、やだぁ。近江くん、悪ふざけが過ぎるんだから……」

「寒気がする、やめろ。」

ピシャリと突き放す一言。
無礼千万にも可愛い笑顔で対応してやったのに、黒髪の眉は僅かに歪んでいる様にも見える。

ワナワナと震える手で頭を抉る足を払おうとすると、よほど触れられたくないのか高速で足が引っ込んでいった。

「げぇえっ!涼介、コイツ蹴られて笑ってる!ドMだ!変態だ!」

心底ドン引きした顔をしている金髪が、私を指さして大声で喚き散らす。
失礼な物言いと喧しさに笑顔が引き攣りそうになるのを必死で我慢した。

と、ここで、今までずっとニコニコしながら見ていらだけだった茶髪が、口を尖らせるまるで幼稚園児を嗜めるかの様な口調でこう言った。

「こら、まーくん。ダメでしょ、そんなこと言っちゃ。
“人の性癖”は色々あるんだから~。」

ちっげぇよ。

的外れなフォローにもなっていないフォローに、心の中の私が白目を剥く。

「んだその言い方!馬鹿にしてんのか。」

「してないよ~ちょっとしか⭐︎」

金髪と茶髪のじゃれあいの様な応酬になんだかよく分からないけど空気が緩んできて、笑顔を取り繕いながら内心呆然としてしまう。
黒髪はそこに参加することも砕けた空気に引っ張られることもせず、無表情でスンとしている。

……なんなのこれ、ムカつく。気持ち悪い!
避け続けていたカンは間違ってなかった。コイツら、女に負けないくらい嫌いだ。

怒りと嫌悪感で眩暈がしてくる。
こんなところ一刻も早く立ち去りたい。

でもなんの成果も得られず撤退するのは私の恥。
コイツらにも一矢報いてやりたいし。

そうっと立ちあがり、ゆらりゆらりと奴らに近づく。
その不気味さに金髪が「ヒッ」と息を呑んだ。

だらんと垂れた拳を握り、失礼な男共の目の前で立ち止まる。
何をされるのかと3人が目を見張る中、ゆっくり上げた私の顔はしゅんとしたか弱い女の表情だ。

「本当にごめんなさい。汚した服、ちゃんとクリーニングして返すから。」

茶髪が持っていた湿った服をそっと奪い取る。
そして何か言われる前に踵を返し、水を打ったように静まり返った教室を後にした。

――引っ掛かりのある引き戸を閉めると、垂れ下がった口元がしてやったりと吊り上がる。

あそこで私がキレると思った?
違うんだなぁ、これが!

“H2Oに接触して無碍にされた”なんて、そんなの女を無駄に喜ばせてしまうだけ。

だ か ら ♡

H2Oを全員落として屈服させてやる!!

「見てろよH2O……!」

絶対に許さないんだから!



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