姫君の憂鬱―悪の姫君と3人の王子共―

Chiyuki.

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#3 クソみたいな青春イベント

Ep.15 ブラックホール

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あー、うるさい。うるさい。

美しくカットされた野菜の入ったカゴを抱え火起こし場へ向かう私は、いつまでもわいわいとついてくる男共に内心うんざりしていた。

まぁ、わかるけどね?こんな美少女が料理までできるなんて反則だよね?
おまけに私のエプロン&ポニーテール姿なんて貴重だもんね?

面白くなさそうな女子の視線は多少心地いいけど、群がっているのがモブばっかりで大して勝った気にはなれない。

――何か面白いことないかしら。

「!?」

1番角の調理場に人ごみができている…!?
しかも周りにいるやつらみんな吸い込まれるように群がって…何あれ、ブラックホール!?

榛名聖と金髪はさっき見かけた。他にこんなことできる奴は1人しかいない。

「これ、お願いしていいかなぁ?」

近くにいたモブに返事も聞く前に、野菜の入ったカゴを押し付ける。
そしてすぐにブラックホールに吸い込まれるように人集りの中心を目指した。


「きゃー!近江くんって料理上手いんだね♡」
「近江くんのカレー、私も食べたぁい♡」


耳元で鳴く蚊よろしく黄色い声できゃんきゃん騒ぐ取り巻き共。
それをまるで存在しないかのように無視して一切反応しないブラックホールの中心は、ただ黙々とじゃがいもの皮を剥いている。

「へぇー、近江くん料理できるんだ♡」

私ほどではないけれど、綺麗に剥かれてかごに収まるじゃがいもの山を覗き込む。
私の声に気づいて、動かざること山の如しだった近江涼介は初めてじゃがいも以外のもの、もとい私を見た。

「なんかボロボロじゃない?」
「うるさいよ♡人混みをかき分けた代償なの♡」

いろんな隙間に潜り込んで、崩れに崩れたポニーテールとはだけたエプロンを直す。
そして周囲の女子達に、「私は反応もらったけど?」と目線と愛想のいい笑顔で伝えると、女子達は悔しそうに唇を噛んだ。

「お料理できる男の子ってかっこいいなぁ♡憧れちゃう♡」

「…………。」

私の上目遣いに、近江涼介は反応しない。今度は玉ねぎの皮を剥き始めた。

「……ム。」

あ、これあれだ。
ぶりっこモードのお前とは一切会話しねーよってやつ。

まるで私やギャラリーなんて存在しないとばかりに作業に没頭する近江涼介に、ムッとする。
だけど無視し続けられる方が嫌なので、溜め息を吐いて小首を傾げた可愛いぶりっこポーズを解除した。


「料理できるなんていがーい。皮剥きすれば食べるとこなくなるまでやり続ける嘘みたいな料理音痴かと思ってた。」

減っていく玉ねぎの山から私も1つ手にすると、素早く皮を剥いて“私の方ができるけどね”と態度でアピールする。
声のトーンがちょっと下がった私の言葉に反応して、近江涼介はやっとこっちをチラッと見た。

「………まぁ、家でやってたから。手伝いみたいなやつ。」

「ふぅん?」

それも意外。
こんな馬鹿みたいにモテるイケメン(私が思っているわけではない)って、家も馬鹿みたいな大金持ちで、一般人がびっくりするほど常識がないとかありそうなのに。

(ロボットみたいって思ってたけど、案外普通の人間だったのね。)


たまに、たまーに笑う近江涼介は人間に“見えて”いた。


手荒れひとつない骨ばった大きな手が、それに似合わず丁寧に玉ねぎの皮を摘んで剥がしている。
玉ねぎに集中しているせいで節目がちになった目はまつ毛に覆われて、人間らしい輝きが感じられない。
口元は相変わらずアンダーバーのよう。

切った野菜の青臭さが停滞している調理場に、緑の匂いがする風が優しく吹き込んで淀んだ空気を押し流す。
近江涼介の漆黒の髪が、さらっと揺れた。

――見てくれはまさにロボットだ。

それでも、今はちゃんと奴が人間になった気がした。
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