タッタラ子爵家の奇妙な結婚事情

れん

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子爵令嬢と公爵の政略結婚

ファーストダンス

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 自身の名前と立場を名乗る講師に婚約者は怪訝そうな顔を変えませんので、こっそりと「お世話になった方です」と付け加えると、少しだけ婚約者の纏う気配が和らぎました。
 婚約者、顔が強面な上、凄まじい覇気をお持ちなので下手すると気配だけで気を失いかねませんからね。

「なんだ?」
「突然申し訳ありません、実はファーストダンスをお願いしたいのです」

 ……は? 突然のことに私は思わず硬直しました。

 ファーストダンスと言うのはそのまま最初に踊るダンスのことです。ほとんどの場合は主催者が踊りますが、高位の方を招いた場なのではその方が踊る場合があります。
 
 今回の場合は学園主催と言うことになりますが、主役は卒業生です。なので卒業生の中で一番高位のものが踊るのが普通です。今回は王族である殿下がおいででしたので殿下とその婚約者の予定でした。
 あと、そこそこ高位のおうちの方が周囲で一緒に踊るんでしたわね。

 ですが、その殿下と婚約者が退場。その下は伯爵家となるはずなんですが、ここで問題なのが私の婚約者です。そう、公爵です。今この場で一番身分が上の卒業生の関係者です。
 と言うよりも伯爵家の場合は候補が複数あるため、誰を選ぶかでいろいろと角が立ったり立たなかったりするので、事前調整なしで選びたくないというのもわかります。
 
 そのあたりの事情は分かります。わかりますが、私、子爵家令嬢!!!
 
 公爵家の後妻に入ってひっそりと早めの隠居生活に突入する予定の目立たず騒がず、いてもいなくてもいいような存在になるはずなのに、いきなり大勢の前でファーストダンスを踊れとか、無茶ぶりすぎます。
 絶対、あれ誰? って顔で見られるんだ。

「大丈夫ですよ、タラッタ嬢のダンスの素晴らしさは私が太鼓判を押します」
「ほう、それは楽しみだな」

 あぁぁぁ、余計なことを。婚約者もなんだか乗り気です。いえ、私が断れることではないのですが。だって今話している学園長からも必死な視線が向けられている。もしかして私たちが了承するまで話を延ばしてらっしゃる?

「どうする?」
「……若輩者ですが、お引き受けします」

 断れませんよね、知ってる! こうなったら一生に一度の晴れ舞台と思って頑張ろう。
 ダンス講師の方がどこかへと合図を送ると、ほっとしたような表情で学園長の話が終わり、ダンスタイムに移行する。婚約者に腕を引かれて中央へ。それに続いて数組の男女。そこには弟とその婚約者の姿もあった。
 
 そうだったわ。伯爵令嬢である婚約者が、殿下の周囲でファーストダンスを踊ることになるから、その相手役の弟が必死に練習してたんだったわ。
 気づかわしげな表情でこちらを伺う弟カップルに何とか笑みを返して、婚約者と最初のポーズをとる。音楽が聞こえてくれば、あとは踊るだけだ。

「ほう、言うだけのことはあるな」
「ありがとうございます」

 褒められたことに短く礼を言う。弟の特訓に付き合っただけだが、私にも恩恵があったようでよかった。できればもうちょっとひっそりと披露したかったのですが、仕方ありませんわ。
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