タッタラ子爵家の奇妙な結婚事情

れん

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子爵令嬢と公爵の政略結婚

長男と先妻

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「母上、またこんなところにいるのですか!」
「まぁ、大げさね」
「大げさにもなります。身体が冷えてるではないですか!!」

 そう言って肩に上着をかけてくれる長男。本当に、なんであなたにお嫁さんが来なかったのかしらねぇ。
 すでに私と旦那様が結婚した時の旦那様と同じころの年になっても独り身の長男に、思わずため息をつく。縁談がなかったわけではないのに、あれこれ難癖をつけて断ってを繰り返しているうちに、めぼしいおうちのお嬢さんは皆売却済みになってしまいました。
 そう言って首をかしげる私に、長男はため息をついて首を振る。

「いいですよ、もう。私は女が苦手なんです」

 長男はそう言って諦めたように笑う。そこには、女性に対する、というよりは実母に対する消化しきれない複雑な思いがあるようです。

 長男の実母、つまり先妻は同盟国の王女で旦那様とは完全に政略結婚だったそうです。銀髪に赤い瞳の、線の細いお人形のような女性だったそうです。政略結婚なので、お互い結婚するまで手紙のやり取りだけだったそうで、実際にあったのは結婚式当日だとか。

 まぁそれは王族や高位貴族ではよくある話といいますか、絵姿を送ったりすることもあるそうですが、絵師が下駄をはかせたり美化したりすることもあるそうで、実際会ってみたらがっかりする。なんてこともよくあることだそうです。

 私が公爵家の後妻になる話を持ち込まれた時に見せられた肖像画は、そんなことはありませんでしたが。えぇ、実物の方が二割増しぐらい迫力があった程度ですわ。あれでも抑えられた方なのか、それとも絵師が旦那様の持つ覇気を描き切れなかったのか、評価が分かれるところですわね。

 そんな肖像画の悲劇はさておき、王女は旦那様が全く好みではなかったようで、それでも王族として育てられた身。自身の婚姻の重みを理解していた彼女は、だからこそ旦那様との間に長男が無事に生まれると、義務は果たしたとばかりに母国から連れてきた愛人とともに別荘に引っ込んでしまったそうで。そしてそこでの水難事故に見舞われ、愛人もろとも儚くなってしまった。

 それが先妻の顛末。私が後妻に入る前に起きた事件です。

 もちろん、同盟国の王女を娶っておきながら事故で亡くしましたと言うだけで済む話ではありませんもので、この国はもちろん、同盟国からも調査団が入りましたが、どう調べても愛人と王女が湖の上で乳繰り合っているうちにボートがひっくり返って二人とも溺死。という事実以上は出てきませんで、同盟国の調査団は恥だけかいて帰っていったそうです。

 まぁ私も自国の王族がそんな死に方したら嫌ですわ。それでしばらくは旦那様ものらりくらりと独り身でいたようなのですが、周囲からの再婚しろと言う圧力に負け……と言うよりもうっとおしくなったようで、どこかに若くて体力があって世間知らずそうな女はいないかということで、白羽の矢が立ったのが私。というわけです。

 長男が最初、嫁いできた私に非友好的だったのは、王女が連れてきた愛人がよりにもよって赤毛に緑の瞳だったそうで、長男は赤毛に赤い瞳ですが、瞳の色には少し緑の光彩が見えます。これは実は旦那様も同じで、旦那様はさらに金の光彩が入っています。

 先ほど、娘息子たちは旦那様の遺伝子が見つからないと言っていましたが、瞳にちゃんと、旦那様と同じ緑や金の光彩が見えるんですよ。ですがそれは旦那様の瞳をかなり近くで見ないとわからないものでして。えぇ、ただでさえ強面の旦那様の瞳をのぞき込んで確認する猛者がいなかったのが、長男の悲劇の原因とも言えます。

 私は初夜の時に間近でばっちり見ましたから間違いありませんわ。……まぁそれ以前から知っていましたけれどね。

 もしかしたら自分は旦那様の子ではなく、正妻の愛人の子ではないか。実際、そんなことをいう使用人もいました。幼かった長男がどれほど不安であったかは私にはわかりません。

 そこに、ポッと出の私が後妻に来たわけですから、私と旦那様の間に子が産まれたら、自分は追い出されるかもしれない。そんな不安がヤマアラシのような態度になっていたというわけです。

 今では体も大きくなって、体格の良さや眉のあたりが旦那様そっくりなので完全に笑い話ですけれどね。それでも当時のことは長男にとっては拭いがたいものらしく、結婚というものに消極的になってしまったのでしょう。


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