タッタラ子爵家の奇妙な結婚事情

れん

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公爵令嬢と第三王子の恋人ごっこ

入学前日

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「学園に通っている間だけでいいんだ。市井の若者たちのような恋というものをしてみたい。恋人というもののふるまいを体験したいんだ」
「そうですか」

 婚約者の申し出に、令嬢は頷いた。これもよくある話だ。
 親の抑圧から解放された少年少女が、痴情の縺れだの決闘騒ぎなどに発展することは、多くはないが、珍しくはない。
 学園では今まで王族や高位貴族が直接関わらなかったような下位貴族や裕福な商人の子息女なども通っている。
 そんな彼らと関わる中でカルチャーギャップに陥り、自分を見失うものも、これまた珍しくはない。
 この国に限らないが、高位貴族というのもはどいつもこいつも血が濃すぎる。
 令嬢と第三王子にしたって、五代も遡れば確実に親戚同士だ。それも、従姉妹程度の近しい間柄である。
 そのせいか、血の濃さは様々な悪影響をもたらしていた。
 まず高位貴族同士の場合、子供が生まれにくい。生まれても体が弱かったり、先天性の異常を持ったものが多い。
 異常は何も外見でわかるものだけではない。精神に異常を持つ者も少なくなかった。
 何代か前の王族には、美貌の伯爵が自分に靡かないからと薬を盛って夜這いを敢行したとか。
 結果として失敗に終わったが、夜這いを受けた方は女性不信となり、そのまま独身を貫いたらしい。
 跡取りは親族から迎えたようで、今もその伯爵家は残っているのが幸いだろう。
 夜這いを行った王女は別に婚約者がいたのだが、そちらは当然破談。同盟国の王の後妻として嫁いで行ったという。
 しかも彼女の兄王子は以前に婚約者である公爵令嬢を卒業式で一方的に事実無根の冤罪で罵倒。国王に無断で自身の婚約を破棄したとして離宮で一生幽閉となっており、王位を継いだのは第二王子だった。

 しかしながらその十数年後。
 その王位を継いだ国王の息子の一人が、これまた別の家の公爵令嬢を自身の婚約者だと思い込んで卒業式で冤罪をかけて罵倒したというから、あの時は王権の失墜が酷かったと言える。
 ちなみにその間違われた令嬢というか、夫人である。そう、既婚者だ。しかも一児の子持ちであったという。
 初めに聞いた時は「どうしてそうなった」と思い、さすがに盛ってるだろうと思ったが、学園の入学準備の際に渡された「学園に入学する皆様へ、あらかじめ知っておいてほしいことと諸注意」という冊子に、当時のことと思われるケースが書かれていたので、誇張なしに実際にあったことなのだろう。

 もちろん他にもいろいろ王族や高位貴族がやらかしたことはある。だが学園でのことに限定すると、大体が恋愛がらみが多い。
 ちょうどそういったことに興味が出る年頃ということもあるのだろう。
 もちろん教師や関係者も目を光らせてはいるものの、毎年大小関わらず何かが起こるものだ。

「冊子はお読みになりまして?」
「もちろんだ」

 令嬢が問いかけると、王子は頷いた。暗記するほど読んだらしい。
 読んだうえで先ほどの発言だとすれば、度し難いともいえる。
 読めても理解できなかったのかもしれないわ。と、令嬢は冷静にそう判断した。
 令嬢の王子に向ける感情は、良くも悪くもフラットだ。
 いや、だったというべきか。
 令嬢とて学園生活に対する希望と、ほんの少しの浮かれ気分はあるのだ。
 いったい彼はどうなるのだろうかと、面白い動物を見つけた時のようなそういった興味が出た。
 彼女の肯定的な気分が雰囲気ににじみ出たのか、王子はほっと息をついた。

「もちろん、卒業後には、いや違うな。卒業式には君の婚約者としてエスコートさせてもらう。それ以外でも公式の場ではキミを私の婚約者として遇する。
 だがそれまでは、好きにさせてほしいんだ」
「わかりましたわ。どうぞ、あなたのお好きなように、あぁですが、正式な書面を交わしましょう」

 さて、どこまでその約束が守られるだろうか。
 令嬢はそう思いながらもうなずいた。
 王子が目を輝かせる。

「わかった。それでは明日、書面をもって迎えに行くよ」

 王子はそう言うと、嬉しそうに立ち上がる。
 足取り軽く立ち去っていく王子の背中を見送り、令嬢は決められた時間いっぱいまで一人で王城の中庭を楽しむと、その場を後にした。
 明日から学園だ。この景色もしばらくの見納めだった。
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