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保健室で聞かされた彼女の話は

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 彼女の口調はしみじみとした様にも、やけにさっぱりした様にも感じる言葉だった。
 当の話題のフル先は彼女の婚約者だった。その彼が今日亡くなってしまった訳だ。それについてどういう想いを抱いているのか。表面上の態度だけでは判断がつかない。
 かと言って【今どんな気持ちですか】なんて聞くほど私は無神経じゃない。どうしよう、これ以上何か聞くべきだろうかと想っていると。突然後ろから私達以外の女性の声が聞こえてきた。
「あら……。ここに居たの東雲さん。探したわよ」
 もう既にその声は馴染み深い。初めて話しかけられた時は警戒したし緊張もしたが、今ではその声に安心感すら感じてしまっている。
「滝田さん。いらっしゃったんですね」
「ええ、勿論。仕事ですから、ちょっとお話いいかしら」
 彼女はにこやかに笑いながら私に尋ねる。
「はい。構いませんよ」
 私の方も彼女に聞きたいことが沢山あった。エリナの捜査がどうなっているかに加えて今日の事件についても分からない事だらけだ。
「ありがとう。じゃあ行きましょうか……と、その前に」言って彼女は熊谷先生に向き直った。ちょっと確認したいことがありまして」
「何でしょうか、知ってることは全部話しましたよ」
 ニコニコと話す滝田さんに比べて熊谷先生はクールな対応をする。
「いえ。大したことじゃないんです。すぐ済む話ですから。あの、先生の連絡先電話番号を確認させていただいてもよろしいですか」
 滝田さんの言葉は聞いている限りではなんていう事のない確認事項だった。でも、それが逆に不自然に感じる。わざわざ捜査課の刑事がそんな事だけを確認する為に来たのか。
「それなら伝えた筈ですよね。×××-〇〇〇〇-○○○○ですよ」
 言われて熊谷先生は落ち着いた調子で電話番号を答える。対して滝田さんは自分の手元にある用紙に目を落としながらそれを確認する。
「はい。そうですね。それは聞いている通りです。でも、先生、もう一台携帯電話、スマートフォンお持ちじゃないですか? そちらの番号も確認させて頂きたいんですけど」
 言われた熊谷先生の顔が一瞬固まったように見えた。がすぐに返事を返す。
「……ああ、そっちですか。えっと、×××-××××-○○○○です」
「はい、はい。そうですね。間違いありませんね。わかりました。因みに、こんな事聞いていいのかわかりませんけど、何故携帯電話を二台お持ち何でしょう」
「仕事の為です。こういう仕事をやっていると生徒のプライベートな問題に踏み込まなければならない局面がありまして」
「そうなんですか。お仕事用にね、なるほど。では今も持ちなんでしょうか」
「今……ですか。いや、今日は多分車の中に置きっぱなしですね。今朝方はバタバタしてたものですから。そのままにしてしまって。持ってきますか?」
「いえ、そこまでには及びません。大丈夫です。では、ご協力ありがとうございました。また、何かありましたらお願い致しますね」
 何だか意味が分からないやり取りだったが、滝田さんはそれを終えて満足そうだった。そして私に、
「じゃあ、行きましょうか」と声を掛けて保健室から出て行く。私も先生に頭を下げて後を追った。
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