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プロローグ

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 山の斜面を走る人ひとり通れるかどうかという狭い小道。
 その先に少し開けたスペースがあり。一本の木が生えていた。木には太い縄がグルリと巻き付けてある。それがこの一帯に祀られているご神木だった。
 前に女が一人佇んでいる。表情は読み取り難い。怒り、哀しみ、諦め。いや、それら全てが交じり合ったものなのかもしれない。
 そのまま彼女が視線を移した先に広がる光景。田んぼと畑。そしてそれほど多くない数戸の家々が建つ小さな村だ。
 普段はのどかともいえる光景だったのだが、今はとてもそう言えない状況にあった。
日照りが続き、土地は渇きに乾いていたのだ。
干ばつにより作物を育てる事は叶わず村人は飢えと渇きに苦しみぬいていた。
何を置いても今欲しい物は雨だった。兎に角雨が降ってくれなければ村は滅びてしまいかねない。
 だから……。
「ごめん、ね」
 彼女は言いながら自分の腹を撫でさすった。更にその手を目の前の木の幹にあてがう。そして巻き付けてあるしめ縄に手を掛ける。しめ縄を持つ手にグイッと力を込め縄が少したわむ。
更にグイッ……グイッグイッグイッグイッと揺する様に続けていくと縄は徐々にほどけていき、終いには完全にとれてしまった。
 そして、彼女は木によじ登るとそれを枝に結び付けた。縄の先は丸い輪が形づけられている。垂れ下がった先は丁度、首が掛かる位置。
 手を掛けようとしたその刹那。
 ビョ~
 凄まじい風が吹きすさび、彼女の周りを取り巻いた。
 たまらず着物の袂で顔を覆いながらも必死で縄を掴もうとする。それを拒もうとでもするかのように風は吹き止もうとしない。
「かしこき、みくまりの神。まもりたまえ、さきわいたまえ。わが身を持ちてこの心願成就お頼み申します」
 その声は決して大きくないものの決意が混じった物だ。それが伝わったかのように、風はぴたりとやむ。
 そして、暫くの時が経ち。
ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~ギ~
 木の枝に結びつけられたしめ縄にぶら下げられたそのモノが揺れるたびに軋みを上げ、不気味な音が辺りに響き渡っていく。
 程なくしてポツンポツンと、当たりに雨粒が降り注ぎ、乾いた土地には再び潤いが与えられたのだった。
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