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連続縊死
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その男の姿を思い返してみると彼が店に入った時、奥に座っていた男だった。
山口が座っている位置からは柱の陰に隠れて見えていなかったのだ。
だから閉店時間を過ぎて自分以外に客が他にいるとは思っていなかった。
「修二まだ居たのか。もう十分食って満足したんだろう。今日はもう帰りなさい」
康太が男に向かって言う。それはいつもの彼に似つかわしくない険のあるものに聞こえた。
「コウさん。この人は? 」
山口は康太に尋ねようとしたが、機先を制して本人が言葉を返す。
「ああ、ご挨拶が遅れました。ワタクシ、鎌池修二と申します。兄がお世話になっているようで……」
「兄っていうことは、コウさんの? 」
「ああ、こいつは確かに実の弟だよ」
康太は口調は変えず顎をしゃくって指して見せる。
「そうでしたか。私は山口誠一といいます。こちらこそお兄さんには学生時代からお世話になっております」
そうだ。どこかで見たと想ったら面差しが康太に似ているのだ。
「山さん、こいつのことは気にしなくていいよ。今日だって客として来たんじゃなくて、タダ飯たかりにきただけなんだから」
修二は月に数回、店にやってきては飯をたかりに来る。身内の気安さから食べ終わって挨拶せずに出て行ってしまうことも多かった。その為に康太は彼が既に帰ったのかと思っていたのだ。
「まあまあ、兄貴は黙ってておくれよ。店の締め作業があるんだろ」
「言われなくてもやってるよ。いいかお前も余計な事を言わずに早く帰りなさい」
康太は修二に向かって言ったが、それに対して気を使ったのか山口が、
「ああ、すみません。すっかり長居してしまいました。お勘定お願いします」
と言って会計を申し出る。
「いや、山さんにいったつもりはないんだけど。まあ、時間も時間だしね」
言って康太は伝票を確認してレジ打ちを行う。そしてそれが終わると、
「ありがとうございました。俺、ゴミ片付けてくるわ。バタバタして申し訳ない」
言って裏口へ消えていったので店内には修二と山口の二人きりになる。
一瞬の沈黙が訪れた後、口火を切ったのは修二の方だった。
「で、先ほどの話なんですがね。聞くともなく耳に入ってしまいまして」
「ああ、そうでしたか、申し訳ない。勝手に話をしておいてなんですが、何分この件はご内密にお願いします」
「ええ、ええ。ワタクシ口の堅さには自信がありますので、そこはご安心を。それより、先ほどお尋ねした通り、お困りごとなら是非ともお力添えしたいんですが」
そうだ。そもそもこの男の方から「お困りでしょう」と声をかけてきたのだった。
しかし、意図が今一読めない。戸惑いを隠せないまま山口は尋ねる。
「力添えというと? 」
「ワタクシが聞いていた範囲での判断ですが、やはりその部屋は尋常じゃありませんな」
彼が話題にしているのはやはり例の部屋の件だった。それは困っている。困っているが、それがどうかしたというのか。
「そうですよね。普通ではないということは分かっているんです。人も入れてしまいましたし手を打たねばとは思うんです」
しかし、その手の打ち方をどうすればいいのか皆目見当がついていないのも事実だった。
「なるほど、そこでですね。いかがでしょう。お父様は嫌がられたとのことですが、お祓い等を試してみるというのは」
事ここに至っても、山口は霊的な現象に懐疑的だった。が、父親ほどそれに忌避感があるわけでもない。問題解決手段として試せるならそれも有りだと思う。
「正直な所それも一つの手段とは考えているんですが、誰を頼っていいやらわかりませんし」
当ても伝手もない。誰かに仲介を頼むにしても事が事だ。トラブルになってもいけない。
「確かに、そうした中にはインチキ霊能者による詐欺などもありますし、怪しげな宗教の勧誘だったりもしますからな。本当に頼れる能力者か見極めが難しい」
「そうですよね。それ以前にそもそも、そんな人いるのかもわかりませんし」
「いや、おりますよ。ワタクシには当てがあります。よろしければご紹介させて頂こうと思いましてね」
修二の言葉は自信に満ち溢れやけに断定的だった。
「本当ですか」
山口とてその言葉を100%信じられるわけではない。
「はい、山口さん。あなたもこの町に昔から住んでいるんでしょう」
「ええ。生まれも育ちもこの藤浜です」
家業から離れて他所の会社へ行っていた時期に離れていたことはあるが、子供の頃から成人するまで長く住んでいた土地だ。
「では、金鞠多津乃って名前聞いたことありませんか? 」
山口が座っている位置からは柱の陰に隠れて見えていなかったのだ。
だから閉店時間を過ぎて自分以外に客が他にいるとは思っていなかった。
「修二まだ居たのか。もう十分食って満足したんだろう。今日はもう帰りなさい」
康太が男に向かって言う。それはいつもの彼に似つかわしくない険のあるものに聞こえた。
「コウさん。この人は? 」
山口は康太に尋ねようとしたが、機先を制して本人が言葉を返す。
「ああ、ご挨拶が遅れました。ワタクシ、鎌池修二と申します。兄がお世話になっているようで……」
「兄っていうことは、コウさんの? 」
「ああ、こいつは確かに実の弟だよ」
康太は口調は変えず顎をしゃくって指して見せる。
「そうでしたか。私は山口誠一といいます。こちらこそお兄さんには学生時代からお世話になっております」
そうだ。どこかで見たと想ったら面差しが康太に似ているのだ。
「山さん、こいつのことは気にしなくていいよ。今日だって客として来たんじゃなくて、タダ飯たかりにきただけなんだから」
修二は月に数回、店にやってきては飯をたかりに来る。身内の気安さから食べ終わって挨拶せずに出て行ってしまうことも多かった。その為に康太は彼が既に帰ったのかと思っていたのだ。
「まあまあ、兄貴は黙ってておくれよ。店の締め作業があるんだろ」
「言われなくてもやってるよ。いいかお前も余計な事を言わずに早く帰りなさい」
康太は修二に向かって言ったが、それに対して気を使ったのか山口が、
「ああ、すみません。すっかり長居してしまいました。お勘定お願いします」
と言って会計を申し出る。
「いや、山さんにいったつもりはないんだけど。まあ、時間も時間だしね」
言って康太は伝票を確認してレジ打ちを行う。そしてそれが終わると、
「ありがとうございました。俺、ゴミ片付けてくるわ。バタバタして申し訳ない」
言って裏口へ消えていったので店内には修二と山口の二人きりになる。
一瞬の沈黙が訪れた後、口火を切ったのは修二の方だった。
「で、先ほどの話なんですがね。聞くともなく耳に入ってしまいまして」
「ああ、そうでしたか、申し訳ない。勝手に話をしておいてなんですが、何分この件はご内密にお願いします」
「ええ、ええ。ワタクシ口の堅さには自信がありますので、そこはご安心を。それより、先ほどお尋ねした通り、お困りごとなら是非ともお力添えしたいんですが」
そうだ。そもそもこの男の方から「お困りでしょう」と声をかけてきたのだった。
しかし、意図が今一読めない。戸惑いを隠せないまま山口は尋ねる。
「力添えというと? 」
「ワタクシが聞いていた範囲での判断ですが、やはりその部屋は尋常じゃありませんな」
彼が話題にしているのはやはり例の部屋の件だった。それは困っている。困っているが、それがどうかしたというのか。
「そうですよね。普通ではないということは分かっているんです。人も入れてしまいましたし手を打たねばとは思うんです」
しかし、その手の打ち方をどうすればいいのか皆目見当がついていないのも事実だった。
「なるほど、そこでですね。いかがでしょう。お父様は嫌がられたとのことですが、お祓い等を試してみるというのは」
事ここに至っても、山口は霊的な現象に懐疑的だった。が、父親ほどそれに忌避感があるわけでもない。問題解決手段として試せるならそれも有りだと思う。
「正直な所それも一つの手段とは考えているんですが、誰を頼っていいやらわかりませんし」
当ても伝手もない。誰かに仲介を頼むにしても事が事だ。トラブルになってもいけない。
「確かに、そうした中にはインチキ霊能者による詐欺などもありますし、怪しげな宗教の勧誘だったりもしますからな。本当に頼れる能力者か見極めが難しい」
「そうですよね。それ以前にそもそも、そんな人いるのかもわかりませんし」
「いや、おりますよ。ワタクシには当てがあります。よろしければご紹介させて頂こうと思いましてね」
修二の言葉は自信に満ち溢れやけに断定的だった。
「本当ですか」
山口とてその言葉を100%信じられるわけではない。
「はい、山口さん。あなたもこの町に昔から住んでいるんでしょう」
「ええ。生まれも育ちもこの藤浜です」
家業から離れて他所の会社へ行っていた時期に離れていたことはあるが、子供の頃から成人するまで長く住んでいた土地だ。
「では、金鞠多津乃って名前聞いたことありませんか? 」
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