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依頼

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部屋を暗くして怪談話をする。彼もここに長い事住んでいるが今までそんなことをしていたのを見た記憶はない。妖怪の住む百鬼夜荘という場に相応しいのか相応しくないのかよくわからないイベントだ。

 それに対してひみかが口を開いた。
「今日はお友達を呼んでいてね。お泊り女子会の真っ最中なんだよ」
 お友達とは当のひみかに未だしがみついている女子の事らしい。

「む、向井あさかといいます」
 そこで漸く自己紹介がある。その名前に聞き覚えがあった。
「ひょっとして、向井建設ご令嬢の? 」
「ご令嬢という程ではないですけど。向井建設は父の会社です」
「そうですか。それはそれは、初めまして。鎌池修二といいます」

 向井建設というのはこの町のみならず県内でも有数の建築会社だ。その社長ともなれば相当の資産家だろう。
(これは良い金ずるになるかもれん。運が向いてきたな)そんな思惑を知ってか知らずか彼の妹、美奈穂が言った。
「あまり紹介したくないですけれど、一応身内なのは事実だから仕方ありませんわね。紹介しますわ。私の兄です」

 修二の妹の美奈穂は別に育ちがいいわけでもお嬢様でもない。そもそもは女ガキ大将という体のお転婆娘だったが、訳あって少し前『お嬢様キャラ』にキャラ変した。それが身についているかどうかは知らないが、実際のお嬢様とは着実に人脈を築きつつあるようだ。

 隣にいる真奈美とも親しいのだが、彼女の父親もさる化け狸一族の親玉。人間界にも力をもっていて資産も相当なものらしい。
(元々反りが合わない奴だが、金持ちと人脈ができるのはありがたい。せいぜい利用させてもらうぜ。妹よ)そんな彼の胸の内を知る由もなくあさかは申し訳なさそうな顔を見せる。

「そうでしたか、あの、私が怖い話に興味があってお願いしたんです。こちらにお住まいなんですよね。お部屋暗くさせちゃってすみません」

 百鬼夜荘の各部屋の間取りは玄関入って廊下左手に二つ扉があり、各々メアリー母親ジェシカの部屋だ。そこから先の部屋はリビングを通らないと抜けられない。それを彼女も知っていたらしい。

「いやいや、別に全然かまいませんよ。お気になさらず」
 未来の金づるになるかもしれない相手ということで修二は精一杯愛想をふりまく。
 そのやり取りの中でも未だ部屋はロウソクのみだった。メアリーがそれに気づくと、

「ま、とりあえず一度電気をつけようか。時間も時間だ、今日はお開きにしよう。あゆみ、電気つけとくれ」

「はーい」
 言って、あゆみは電気のスイッチの所まで行く。

「パチン」それまでロウソクの灯りのみで薄暗かった部屋に明かりが灯る。すると、
「あれ? あゆみ。お前なんだよ、恰好」
 修二が怪訝な顔で言った。

 今は春休みの真っ最中。ついこの間中学を卒業したばかりの15歳男子だ。そして同年齢の平均身長をかなり下回っており小学生にも間違われかねないくらいの体躯をしている。その身体に白のワンピースを身に纏っている。知らなければ女の子にしか見えない。

「まあ、ちょっと事情があってね」

「ふむ、あっちの絡みか」

 あっちの絡みとは修二があゆみに頼もうとしていた案件にも関わる事だ。

「……まあ、そんなとこ」

 が、あゆみはそれ以上詳しくは語らず言葉少なに言葉をかえすだけだった。

「なら寧ろ好都合かもな。ちょいと今から俺の部屋来てくれないかい。話したい事があってさ」

「なに?お金ならもう貸さないよ」

 あゆみは口をとがらせて修二に向かって言う。

「そんなこと頼む訳ないだろう。子供相手に金の無心をするほどもう落ちぶれてないよ」
 修二はそれに対して憮然とした様で返すが、

「何調子いい事いってんの。あんた前、この子に借りてたでしょうが。そもそもアタシが貸した分も返ってきてないわよ」
 そこへあきなが語気を荒くして口を挟んできた。

「それに関しては心配ご無用。お金に関しては安心してくれよ。返す当てができたんだ」

「どうせ康太お兄様から借りて返すとかじゃないんですの? 」

 更に妹の美奈穂が口を出してきた。
(ち、余計なことを……)想いながらも彼はとぼけた様な口調で言う。
「兄貴に出してもらうわけじゃないさ。本当だよ。聞いてもらったっていい。ちゃんとした労働の対価なんだって。とにかく、あゆみ。俺の部屋へきてくれよ」

 言って修二はあゆみの手を強引ンに引っぱった。

「ちょ、ちょっと。引っ張らないでよ。わ、分かったよ。いくってば」
 対してあゆみは、着なれていないのかワンピースのすそを引きずるようにしながら後に続くしかなった。
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