縊れ憑きの部屋 百鬼夜荘(闇)

山井縫

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新入居

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 ガチャン

 鈍い音が薄暗い部屋に響いた。
 扉を開けると、
「あれ? 」
 田村は思わず声をあげる。

 玄関先に水の入ったコップがポツンと置いてあるのに気づいたからだ。
 自分が家を出る時にはそんなものなかった筈なのに。
 手に持ってみるが意外と冷たい。
 コップに注いでそれほど時間が経ってないとおもわれる。

「またか……」

 実際のところ、このようなことは越してきて珍しい事ではなかった。
 とりあえず、スマートフォンのカメラでその様子をおさえる。

 なぜ、そんなことしたのか。
 彼は相も変わらずの派遣暮らし。先は全く見えない。
 不安な日々を送る中で安心して帰れる部屋があるだけでもありがたかった。
 新たに山口から世話をされた部屋は想った以上に快適だった。

 前の部屋は入居当時から不穏な空気が漂っていたように思う。人が亡くなっているという前知識があったからか? いや、気のせいかではない。明らかにおかしかった。明らかに外にいる時と部屋にいる時に自分の精神状態が違うのだ。あのまま居たら命を落としていたかもしれない。

 そこへ行くと今回の部屋はそんなものを感じないのだ。
 だからようやく腰を落ち着けられる場所が見つかった。
 そう想っていた矢先に妙な事に気づいた。
 まず、このコップの様に物が勝手に動く。

 最初それはボールペンだったり、爪切りだったりスマートフォンだった。
 置いたはずの場所になくて、入れた筈のないポケットの中や、クローゼットの中から見つかる。一度などテレビのリモコンが冷蔵庫に入っていたこともある。
 でも、そうしたものは無意識の内に手に持って移動させてしまっているのかもしれないとも思っていた。

 所が3日目だったろうか。帰ってくると台の上に置いてあった炊飯ジャーが床にボンと置いてあった。明らかに不自然だ。気づかない内に地震が起きて落ちたのだろうか。或いはマンションに何らかの極地的な振動がおこった。

 でも、それにしては他の物に影響がない。
 そんなニュースを調べても出てこなかった。

「ははーん。これか」
 部屋の来歴は山口から聞かされている。
 人が入っては出てを繰り返しているのだという。その原因がこれなのだろう。
 確かに、普通に考えれば気味が悪い。
 しかし、彼は異常な状態になれてしまっていた。自分は人死にが出た部屋に一旦は住みながらも生還したのだ。物が多少動くくらいなんでもないと思うようになっていた。

 実際、命の危険は感じない。
 寧ろ最近は仕事中、外に出ている時に異様な疲労感を感じたりする。
 この家で休んでいる時の方が安心できるのだ。
 それに、一月耐えれば謝礼金が貰える。
 どうせなら何も起きませんでしたといってただお金を貰うのは何だか申し訳ない気がした。
 それより、こういうことが起きましたという報告事項があった方が話はしやすいだろう。
 そういう訳で異変が起きたら記録にとっているのである。

 しかし、今日も疲れた。日増しに疲労感がますのはなぜだろう。
 とりあえず、一日の汗を流そうとシャワーを浴びた後、シャワールームから出て電気を消す。
 と、今出てきた真っ暗なシャワールームから、

 ザーッ
 水が流れる音がした。

 慌ててシャワールームに入るとシャワーからお湯が勝手に流れている。
 締め忘れか? いや、そんな筈はない。なぜならシャワーの音が流れる瞬間を聞いているのだから。配管の異常か? いや、それもない。なぜなら蛇口の栓が全開になっているからだ。水漏れでないことは明白だった。

 とりあえず栓を締めたと同時くらいに、誰もいない筈のリビングから声が聞こえてきた。
 驚いて覗いてみると、テレビが勝手についていた。

「は、はは。テレビが見たかったのかな」
 誰もいない部屋であらぬ方向へ言ってみるが勿論返事はない。
「け、消しますよ」
 小さく呟いて消した。今までと挙動が明らかに違う。
 その日は流石に薄気味が悪く寝るのに時間がかかってしまった。
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