縊れ憑きの部屋 百鬼夜荘(闇)

山井縫

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【お祓い】のその先に

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「流れが良く読めないんだけど、なんでボクも一緒にいかなきゃならないわけ?」

言って孤宮守は後部座席に振り返った。
人気のない住宅街の道を進み、山口の運転する車は夜の帳を駆け抜けていく。

「ボディーガードにぃ~、決まってるじゃないですかぁ~」

「ごめんね、来てもらっちゃって。でも、守ちゃんが居れば百人力よ」

後部座席には金鞠須磨子。そして隣には盛狸山真奈美が座っている。

因みに、助手席に座っている守の正体は狐、真奈美は化け狸だ。
その正体を知った上で端から見たら随分奇妙な取り合わせにも見えるかもしれない。
しかし二人は百鬼夜荘の凸凹コンビとして不思議な関係性を築いている。

先ほど病院へ向かう組と分かれ、須磨子が別の場所へ向かうと聞いて真奈美が付き添いを買って出た。そのついでに寝ていた守も一緒に車に乗せられたのだ。

「……まあ、来ちゃった以上ついては行くけどさ。どこで何すんのかもわからないんだけど」

寝起きを邪魔されて彼は大層不機嫌だった。この所、毎夜の様にオンラインゲームで徹夜してほとんど寝てなかった。今日は久しぶりに夜ゆっくり寝ようと布団に入ったらたたき起こされてご機嫌斜めなのだ

「あなたもこの町に来てながいんでしょ。首吊りの木の話知らないかしら?」

須磨子はあゆみが依頼を受けた経緯について軽く説明した後尋ねた。

「首吊りの木……。ああ、花森村の山ん中にあった祠の隣に植わってた木ね。噂には聞いてたかな。ウチとは管轄が違ったから詳しくは知らないけど」

彼は元お稲荷神の神使である。現役時代は働き者で能力も高かったらしい。それが祟って数年前には現役引退した。
そんな彼も今では百鬼夜荘でほぼ引きこもり生活をしているにすぎない存在である。

「か、神様にも管轄があるんですか」

言っている事を完璧に理解してはいないものの、雰囲気で感じ取った山口が尋ねる。

「ああ。特に日本にゃ八百万の神々っつって、沢山いる。中には外国から来た物とくっついたり別れたりもしてややこしいんだよね。土地や系統で、縄張り意識が強かったりだったりでまあ大変だよ」

この国の縦割り行政の弊害は神様にまで及ぶのか、その逆か。
余りにも多すぎるのでそうならざるを無いというのもあるのかもしれないが。

「お稲荷様って雨乞いの神様なのよね。本当にそちらとは関係なかったの?」

お稲荷様も五穀豊穣や雨乞いを司ると聞いたことがある。
ならば、その祠についても彼はしっていないかと想い須磨子は聞いたのだが、

「ああ、あれは稲荷とは別。あの辺にあった地域信仰の神様じゃないかな。多分蛇か龍神信仰だね。あいつら執念深いからな。怒らすと怖いよ」

首を振って否定した後、厳しい口調になる。

「でも。そもそもその祠ももうないのよね。お祀りされていた神様はどうなったのかしら」

巫女が居なくなった以上、人と間を取り持つ儀式を行う事が出来なくなった。
そうなれば、祠なども意味をなさなくなる。
ましてやご神木には曰くが付いた。

「首を吊って亡くなったという巫女が何を願ったかわからないけど。恐らく、自分の命と引き換えに神との地縁を消したんじゃないかな」

首を吊った女性は自分の命と引き換えに神と土地と人との関係を絶たせた。

「そして、怨みの念だけが木にこもったわけね」

「木に込めたの方が正しいんじゃないか。ご神木に触ると祟るってのもよくある話だが……」
須磨子の言葉に守はさして感情のこもらない声で返す。それが当たり前だとでもいうように。

そんな中で山口が声を上げた。

「お話中すみません、着きました」

言って薄暗い駐車場に車を停める。

「ありがとう、急ぎましょう」

須磨子が山口に連れていくよう頼んだ場所。
それは、田村が例の部屋から移り住んだ新居だった。

もう夜も更けたこの時間。目指すアパートの各部屋に灯る明かりもほとんど消えている。

その中を先導して部屋へ入る山口の後を三人が続いた。

「ん? ちょっと変わった匂いがするな」

玄関先に足を踏み入れるなり守が鼻をクンクンと動かして首を傾げた。

それを後目に須磨子が手に黒檀で出来た数珠をはめて、一心に祈り始めていた。

これは、この世から亡き者の霊をその身に降ろす霊媒の儀式だ。

田村に縊れ憑きの呪いが降りかかったのは間違いないだろう。

しかし、現場は外だったという。
移り住んだ部屋でそのまま首を吊らせた方が確実で楽なはずなのになぜ?

須磨子はそこに引っ掛かったのだ。

どうも、この部屋にも曰く因縁があることは間違いないようだ。
そこで、霊を呼び出して事情を聴いてみようと思い立ったのだ。

そして、一心不乱に祈り続けた後、

「う、あああああああああああああ」

身体を逸らせて日頃の彼女のものとは思えない叫び声あげる。

かと思うと一転して俯いて静かになってしまう。

「だ、大丈夫ですか?」

山口が慌てて近寄るが、守が手でそれを制した。

すると須磨子は、

「……ひ、ろあ、、き」
と田村の名前を呟く、が。
すぐに「ううううううううう」

と呻くと身体をバタンと倒してしまう。

今度は山口と守も慌てて駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか?」

言って手を差し伸べる山口に、

「え、ええ。大丈夫よ。それよりこれって……」

と言ったまま言葉に詰まる。

「うん、そうだよ須磨子。こいつは生だ」

後を引き取るように守が言った。

「……そういうことなのね。山口さん、ちょっと部屋を覗かせてもらっていいかしら」

「はい、構わないと思います」

許可の言葉を背に須磨子は部屋に上がり込んだ。そして、目に力をこめるようにしながら霊視を始めた。

「くっ……ううううう」
「お、おい。あんまり無茶すんなよ。僕がついていながら何かあったら、あゆみから恨まれるよ」

あゆみだけじゃない。百鬼夜荘の住人が管理人である全員彼女の世話になっているのだ。
彼ら彼女らに何を言われるかわからない。

「大丈夫っ、といいたとこだけど。確かにちょっとキツイわね。悪いけど、手伝ってくれない?」

「はあ、結局そうなるわけね。疲れんだけどなあ」

言い渋るようにいいながら彼は顎に手を置いて言った。

「お礼に十日間好きなものををこっち持ちで作るわよ。どう?」

須磨子は普段、百鬼夜荘の食事係もしている。守は中でも彼女の作る稲荷寿司が大好きだった。

「うーん。それならいいよ。わかった、しようがないな」

それを持ち出されると弱い、とばかりに折れた彼は彼女の両肩に手を置いて力を込める。そして、

「んっ! んんんんんんんっくはあ」

守の補佐を受けながら彼女は部屋の中をくまなく見回し、それが終わったかと想うと脱力してへたり込んだ。

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……そ、そういうことだったのね」

「だ、大丈夫ですか?」

もう、この場で口にしたであろう言葉がまた山口から出てしまう。

そんな彼に向かって須磨子は言った。

「ええ、大丈夫。大方のことは分かったわ。山口さん、ごめんなさい。これから病院の方へ向かってくれる?」
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