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憑き従われたその先に
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そこへ運よくというか悪くというか彼がやってきて、傘で部長を打倒した……形になった。
結果救急車がやってきて部長は運ばれたのだが、当然部長と女子社員がなぜそんなところにいたのかという事も取りざたされた。結果、女子社員は全てを話した。
それに合わせて他の社員からも部長への不平不満、被害があったという事が取りざたされ、結果部長は処分されることになった。それだけなら、めでたしめでたしなのだが、
問題は田村の行動だ。彼はただ単に足を滑らせて結果傘が部長にあたったに過ぎないのだだ。が、女子社員が「田村君が部長を傘でぶっ叩いて助けてくれたの」と触れ回ったらしい。
「ありがとう」の意味はそれだったのだ。
そして、
彼に対して知らぬ間に謎の評価が付いて回る事になる。
曰く、「良くあのパワハラ野郎をとっちめてくれた」「セクハラで女子社員に迫ってたところを助けるなんて漢気がある」といった肯定的な意見から「いくら理由があっても暴力はいけない」「偽善野郎」など様々。
いやいや、ちょっと待ってくれ。そんなつもりはないんだ。
彼はその全てを否定したかったが、広まった噂の火種を消すことほど難しいものはない。
それが上層部の耳にも入り、否定しきれなかった彼は会社を辞める事になったのだ。
「なにそれ? たんなるとばっちりじゃん」
「とはいえ、人にケガさせてしまったことは間違いないからね」
事情を尋ねてきた直属の上司に「場合によっては警察沙汰にすることもありえる」というようなことまで言われては、反論の言葉も空しかった。
会社にしてみればいわゆる「両成敗」にして収めようという腹だったのだろう。
「事なかれ主義極まれりね。ろくでもない会社よ。辞めてよかったじゃない」
「流石にそんな風には思えないよ。会社を辞めてから良い事なんてなかったし」
「じゃあ、この部屋に来たのも良い事じゃないって想う?」
「いや、それは……」
そうだ、会社を辞めて【縊れ憑きの部屋】から逃れてここにきて。
この部屋にいる時が今現在、唯一の安らぎとなっていた。外では神経が擦り切れそうになる中で安心できるシェルター。何より、ここにはリオナがいる。
「そうだね。君と出会えてよかったと想うよ、リオナ」
彼は彼女と話をするのが楽しみになっていたのだ。
家族ともやり取りがなく、友達もいない孤独な彼がまともに会話を交わせる存在。
「ふふふ、私も同じ気持ちよ。ありがとう、ひろあき」
彼女の名前が分かって以来お互いに下の名前で呼び合うようになった。
しかし翻ってリオナの生前の記憶はなかなか戻らない。
「お父さん、お母さん。後、妹がいた気がするんだけど」
思い出すのはそんなほんの一握りしかない記憶の断片のみだ。
「まあ、無理に思い出さなくっていいんじゃないかな。ゆっくり行こうよ」
彼はそんな言葉を返しながら少し焦る気持ちもあった。
彼女が記憶を思い出さないことにではない。逆だった。彼女が記憶を思い出したらどうなるかを考えていたのだ。幽霊というのはこの世に執着があるから現れるということを聞いたことがある。
であれば、もし彼女が記憶を呼び覚ましたら? この世から消えてしまうかもしれない。
その事を想像するだけでたまらなく嫌だった。
すでに彼女の存在は彼の心の中を大きく占めていたのである。
結果、現在に至るまで彼女の記憶が戻ることはなかった。
結果救急車がやってきて部長は運ばれたのだが、当然部長と女子社員がなぜそんなところにいたのかという事も取りざたされた。結果、女子社員は全てを話した。
それに合わせて他の社員からも部長への不平不満、被害があったという事が取りざたされ、結果部長は処分されることになった。それだけなら、めでたしめでたしなのだが、
問題は田村の行動だ。彼はただ単に足を滑らせて結果傘が部長にあたったに過ぎないのだだ。が、女子社員が「田村君が部長を傘でぶっ叩いて助けてくれたの」と触れ回ったらしい。
「ありがとう」の意味はそれだったのだ。
そして、
彼に対して知らぬ間に謎の評価が付いて回る事になる。
曰く、「良くあのパワハラ野郎をとっちめてくれた」「セクハラで女子社員に迫ってたところを助けるなんて漢気がある」といった肯定的な意見から「いくら理由があっても暴力はいけない」「偽善野郎」など様々。
いやいや、ちょっと待ってくれ。そんなつもりはないんだ。
彼はその全てを否定したかったが、広まった噂の火種を消すことほど難しいものはない。
それが上層部の耳にも入り、否定しきれなかった彼は会社を辞める事になったのだ。
「なにそれ? たんなるとばっちりじゃん」
「とはいえ、人にケガさせてしまったことは間違いないからね」
事情を尋ねてきた直属の上司に「場合によっては警察沙汰にすることもありえる」というようなことまで言われては、反論の言葉も空しかった。
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「流石にそんな風には思えないよ。会社を辞めてから良い事なんてなかったし」
「じゃあ、この部屋に来たのも良い事じゃないって想う?」
「いや、それは……」
そうだ、会社を辞めて【縊れ憑きの部屋】から逃れてここにきて。
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「そうだね。君と出会えてよかったと想うよ、リオナ」
彼は彼女と話をするのが楽しみになっていたのだ。
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「ふふふ、私も同じ気持ちよ。ありがとう、ひろあき」
彼女の名前が分かって以来お互いに下の名前で呼び合うようになった。
しかし翻ってリオナの生前の記憶はなかなか戻らない。
「お父さん、お母さん。後、妹がいた気がするんだけど」
思い出すのはそんなほんの一握りしかない記憶の断片のみだ。
「まあ、無理に思い出さなくっていいんじゃないかな。ゆっくり行こうよ」
彼はそんな言葉を返しながら少し焦る気持ちもあった。
彼女が記憶を思い出さないことにではない。逆だった。彼女が記憶を思い出したらどうなるかを考えていたのだ。幽霊というのはこの世に執着があるから現れるということを聞いたことがある。
であれば、もし彼女が記憶を呼び覚ましたら? この世から消えてしまうかもしれない。
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