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憑き従われたその先に

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 そして、静かに【彼女】に対して語りだした。

「……すみませんでした。あの部屋でお祓いを頼まれたときに僕は何も考えていなかった。ただ、祓えばいい。できるなら打ち倒してしまえばいいとすら思ったかもしれない。それが人を救う事になると想っていました。でも、それは間違いでした」

「くっくっくっ……。中々の力をもっているようだが、その通り、あの程度で私をどうにかできると想ったら大間違いさ」

 その言葉を聞きながら【彼女】は嘲るように笑い声をあげる。

 しかし、そんな相手に対するこの場面でもあゆみは沈んだままだった。

「そう、どうにかするということで臨むべきじゃなかったんです。まずはあなたが救われるべきだった」

 あの村に伝わっていた話が事実だとすれば、一番最初に首を吊った【彼女】の怨み、悲しみは並大抵のものではなかっただろう。だからそれを考えれば、先ず救われなければならなかったのは【彼女】の魂そのものだったのだ。

 しかし、そういうあゆみに対して【彼女】は憎々し気な口調を改めようとしなかった。

「ふん。積年の想い、お前らなんぞに分かろうはずがない。まだ、まだまだ……」

 そのまま【彼女】は身をよじる。すると首を絞めている喉元の縄に切れ込みが入り、首からポトリと落ちた。

 あゆみは首にくいこんでいる縄の部分のみを切りつけたのだ。

「あ、く、首が……」

「あなたを締めていた首の縄は切れました。あなたをこの世に縛り付ける悪縁もこれで断ち切ってください」

 そう言って頭を下げる傍らにいつの間にか須磨子の姿があった。

 彼女は【彼女】の傍に近づくとお腹のあたりを優しくなでて、

「おんかかびさんまえいそわか」と唱えた。それは幼子を供養するといわれる地蔵尊の真言。

 すると、彼女のお腹が光りだして中から小さな光の塊が現れたかと想うと天高く飛び上がり消えていく。

「あなたの赤ちゃん。先に行ったわ。どうか、貴方も続いて行ってあげて」

 そう言い終わったと同時にあゆみが杖を下にトンと突き立てる。

 すると、そこから光の帯が上に広がり【彼女】の身体もまた天高く浮かび上がる。

 そして、一瞬あゆみ達の方を観た後上を見上げた。

 その場にいたみんなは自然と手を合わせる。

(どうか、安らかに)

に入ると直に眠気が襲いそのまま眠りにつく
 目を閉じて心の底から念じた後上を見上げると既にそこは何もない病院の屋上が広がるだけだった。

「おわった……かな」

 言ってあゆみはしゃがみこんだ。

「そうね。お疲れ様」

 須磨子はそんな我が子の横に立ちながらかがみこんで言う。

「うんん。それより母さんは大丈夫? 身体、かなり無理したんじゃないの」

 霊能力はこの世ならざるものを視たり触れたりする能力だ。無理に使えばそれだけの反動を受ける。事実、多津乃は晩年ほとんど視力を失ってしまっているし、またその寿命も他と比べて短いものだった。

「これくらいならね。でも、暫くは休ませてもらうわ」
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