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憑き従われたその先に
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しおりを挟むその口調に不自然なものはなく、月灯りの中で表情もはっきりしない。が、内容は疲れていることを如実に示している。
「うん。いつもより手伝い多くするから、してほしい事あったら言ってね」
それに対して彼は息子としてできる限りの言葉を返すしかない。
「ありがとう。お願いするわ。それと……」
「な、なに? なんか気になる事ある? 」
彼が今回引き受けた仕事。
金鞠の一員として、多津乃の娘として、あゆみの母として、霊能者として。何か言われるのではないかと彼は少し身を固くする。が、母からの言葉は想像したものとは違った。
「あなた、女装似合うわね。お家でもそれでも過ごしたら?」
須磨子の前でこの恰好を披露することはそうそう無いの。彼女にとっては貴重な場面なのだろう。
「たはは、もう、勘弁してよ。冗談っばかり……」
「冗談のつもりないんだけど……」
須磨子は尚も言い募ろうとしたが、身体をヨロヨロよろけさせる。
「あ、か、母さん。やっぱり無理してたんじゃないか」
そんな母に慌てて彼は駆け寄ってその身を支えた。
「へ、平気よ平気。そんな、心配しないで。ちょっと、よろけただけ。それより田村さんは大丈夫かしら」
「言われてみれば、まだ入院中なのに、相当無茶してたかも」
そう想い、彼の方に目を向けると屋上の端で膝を抱えるようにして宙を見ていた。
「た、田村さん大丈夫ですか?」
「は、はい。た、助けていただいたんですよね。ありがとうございました」
あゆみの問いに対して彼は我に返ったように言葉を返す。
「いえ。とんでもないです。そもそも僕がもう少ししっかりしてたら、こんな事にはならなかったかもしれない。申し訳ありません」
「は、はあ。そうなんですか」
事ここに至って、彼は自分の身に。そして、あの部屋に何があったのか完全に理解できずにいた。なので、そのような答えを返すしかない。
「とりあえず、今日は病室に戻った方がいいでしょう。詳しいお話は山口さんも一緒に明日お話します」
「ああ、不動産の山口さん。大分お世話になってしまったようですね」
彼は田村が入院したと聞くと、すぐに駆け付けて手続き諸々を請けおったらしい。普通なら部屋の貸主と借主というだけでそんな対応はしない筈だが、想うところがあったのだろう。
隣に立っていた須磨子がそれに答えるように言った。
「ああ、そうそう。その山口さんから伝言です。明日お引き合わせしたい人がいるから楽しみにしてって」
彼には会いたいという身寄り頼りがない筈だ。
(引き合わせたい人? 誰だろう)
首を傾げながら彼は病室にこっそり戻った。
気持ちが高ぶっていたが、ベッド
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自分の寝ている真上から音が聞こえるだけでも嫌なのに、実際に揺れてるのが見えちゃうなんて怖すぎますね。これからどうなるか気になります。
お読み頂きありがとうございます。ホラー作品として怖いと思って頂けたなら幸いです。