アムネシアは蜜愛に花開く

奏多

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第2章 誘惑は根性の先に待ち受ける

お願いだから、そこには触れないで!

 

「いつも、濡れなくて……付き合ってもすぐふられてたから」

 いつもそうだった。
 言い寄ってくるのは向こうなのに、濡れない体のせいですぐにふられて。

 恋人というのは、セックスをしないといけない義務感に芽生えたから、ラブローションという手を借りて、怜二さんと上手くやっている……つもりだったのに。

――デキてるよ、あいつら。お前とあいつが付き合う前から。

「怜二さんも、濡れないことに落ち込んでいて……。さすがに三度目もそんな理由で彼氏とぎくしゃくしたくないから、偽りでも濡れたようにしようと思って、そのままずるずる……」

 ため息をついて巽を見ると、彼の片眉が跳ね上がっている。

「三度目!? 高校の時以外にもいたのかよ、昔の男! 誰だよ、それ」
「え、そこ!? だ、大学の時の話よ。大学のアルバイト先の先輩で……押し切られて付き合った1週間後にふられているから、カウントしていいのか微妙だけど」

 ああ、なんでこんなこと暴露しているんだろう、わたしは。
 そして、なんで巽はこんなに不機嫌になっているのだろう。

「巽にだっていたでしょう、過去お付き合いしていた彼女は!」
「俺は……」

 言い淀んだ巽は、そのまま答えずに、違う質問に切り替えてきた。

「あいつは……広瀬は、そこを舐めないのか?」
「は?」
「クンニ」

 言わんとしているところがわかり、わたしは真っ赤になってもじもじしてしまった。
 なにが嬉しくて、初恋の元義弟にこんなことを……。

「舐めている、YES or NO!」
「い、YES」

 思わず迫力負けしてしまい、勢いで答えてしまった。

「それでわからねぇのか? そんなにそのラブローションって言うのは優れものなわけ?」
「し、知らないよ」

 巽は手を出して偉そうに言う。

「出して」
「え?」
「俺に見せてみろ。あいつが騙されるほど間抜けなのか、わからないほど巧妙なものなのか。そんなもんが売っていることなんて知らなかったぞ、俺は。どこから仕入れた情報だよ、お前」
「お、同じ悩みのひとっているのかなって、ネットで探していたら、見つけたというか……」
「だからって、そんな怪しいものを買うなよ」
「だ、だって……深刻な悩みで」
「そんなの男が下手だからに決まっているんだろうが。なんだよ、女に無理させる男って。……俺が言えた義理ではねぇけどさ。ほら、出せって。お前のローションにルミナス社員の命運が……」

 わたしは慌てて、ローチェストの引き出しの中から赤い入れ物を取り出し、渋々巽に手渡した。
 現物を見た巽は呆れ返ったような盛大なため息をついていたが、やがてそれを掌に出した。

「やっ、そんなに出さないでよ。それ高いんだから!」
「なんだよこれ。スライムか?」

 巽が指につけて糸を引くそれは、かなりいやらしい。
 そして巽はそれを口に含んで見せる。

「うわ……」
「な、なに!?」

 巽が顔を顰めたため、驚きのあまりわたしの声はひっくり返った。

「フルーティってありえねぇから!」
「え……。だったらどんな味なの、本当は」
「そんなの……」

 言おうとして巽は顔を赤らめて、言葉を切った。

「いいんだよ、女は知らなくて」

 巽はどれほどたくさんの女と、そういう淫らなことをしてきたのだろう。
 少しだけ気分がよくない。

「とにかくこれは没収。それとこんなもん、買うな。後々どんな副作用出るかわからねぇぞ?」
「没収されるのは駄目だって。それが命綱なんだから!」
「無理。お前、そこが爛れてきたらどうするんだよ。病院に持参して、今俺に話したことを説明できるのか!?」
「え……」
「こんなものつけねぇとセックス出来ない男は、お前が好きな奴じゃねぇから! そんなもん、身体が嫌がっているんだろうが。俺から言わせれば、売られて不特定多数の男とヤル女の必需品だぞ?」

 そう言われれば、わたしはしゅんとなるしかない。

「なあ、アズ」

 長い沈黙の後、巽がわたしの顔を見上げてくる。

「お前が濡れないような男と別れるか、お前が濡れるようになるか、どっちがいい?」

 妖しげに揺れる黒い瞳で。

「そ、そんなの濡れるようになった方が……」
「だったらさ」

 巽はとんとわたしをベッドに押し倒すと、身体を伸ばしてわたしの足を両側に開く。

「俺が、お前を濡れる身体にしてやる」
「……へ?」
「まずは事前検査だな」
「な、なななな!?」

 巽が妖艶な表情で笑うだけで反応してしまうわたしは、既に巽とのキスだけに濡れているという事実を知られたくなくて、必死で拒む。

 元義姉の誇りにかけて、露見するわけにはいかないのだ。

「な、なっ!! いいからそんなの! そこから出て行ってよ! お願いだから、出て行って下さい!」

 わたしの股の間にいるのが初恋の男なのか、同胞の命を握った専務なのか、わたしを嫌って抱いた義弟なのか、混乱してよくわからず、命令なのか懇願なのか判別出来ない悲鳴じみた声を出して抗う。
 
「無理。元お姉様の深刻な悩みには、元弟が真剣に立ち上がらなきゃ駄目だろ?」

 目が笑っていないよ、専務様。
 そんなに肉食獣のようなぎらぎらした眼差し、いりませんから!

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