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Crazy Moon 2
しおりを挟むタオルをつけているとはいえ、昨夜のように服を着ていないわけで、肌と肌が直接重なる感覚に甘く痺れるようだ。
ドキドキとゾクゾクを通り越して、密着している熱を感じて震えが来て、思わずはしたない声がでそうなるのを、必死で堪えた。
まるで男に飢えていたような、まるで生娘のような……なんでここまで過度に、課長を意識してしまうんだろう。なんで課長の香りに呼吸が乱れるの?
過去に関係したから?
格好いい上司だから?
逃げようとしたら、あたしの脇の下から伸びた課長の腕が、タオルの上に巻き付き、身動き出来ない。さらにはその手がタオルを取ろうとする素振りを見せ、あたしは慌てた。
「や、ちょっと課長!」
「身体洗いたい?」
「はい、洗いたいから離して……」
トプン。
課長はなにかを湯の中に入れたようで、片手で湯をかき混ぜるとそこからもくもくと泡が出てくる。
あっという間に泡風呂だ。
「向こう式に浴槽の中で、洗ってあげる。……泡があなたの身体を隠してくれます。だから……要りませんね?」
あたしの返答を待たずに、するりとタオルを取られた。
「や、ちょ……」
きめ細やかな泡は潤滑剤。
彼の両手が脇の下に差し込まれ、白い泡の中にあるあたしの肌に滑る。
それはいつもにはないぬるりとした感触で、泡で彼の動きが見えないだけに、そうやって触られると、どこの場所であろうと凄く敏感に感じてしまう。
鎖骨や腹を、優しく愛おしむようにまさぐられて、息が上がってしまった瞬間、彼の両手が一点に滑り、その大きな手のひらであたしの胸を包んだ。
ああ、彼は手のひらで感じているはずだ。
あたしの興奮した胸の尖りを。
「課長、駄目。ねぇ……あ、はぁぁっ」
恥ずかしくて身じろぎすると、課長の手がリズミカルに動き出した。あたしの口から、感嘆のため息のような声が細く長く出てしまう。
……気持ちがいい。
あたしの耳に、熱に浮かされたような声が囁かれた。
「洗っているだけなのに、これだけで感じたんですか? ……いやらしいひとだ」
いやらしいという単語に、あたしはぶるりと身震いをしてしまった。
「こんなにいやらしいくせに、いつもすました顔で仕事をしている。本当に仕事のことを考えていたんですか、鹿沼主任? こんな風にされる、いやらしいことを想像していたのでは?」
「ちが……っ」
鼓膜を震わす責め言葉に、思わず秘部が疼き蕩けた時、課長の熱く濡れた舌が耳殻を這い、耳の穴に唾液の音を響かせ、ぬるりと忍び込んだ。
「ひゃ、ああ……」
まるで下で繋がったかのような、質量あるものを受け入れた感触に、ぞくぞくとしたものが腰から頭に走った。我慢出来ずに上擦った声を出した時、課長がふっと笑ったような音が鼓膜に届く。
そして、胸に宛がわれたままだった彼の手のひらは、最初こそぎこちなかったが、声を止めることが出来ないあたしを見ながら、胸を持ち上げて寄せるようにして大きく揉み込んできた。
声が止まらないのが恥ずかしくて課長の手を両手でどかそうとすれば、課長の舌はあたしの耳朶を揺らして、はむはむと甘噛みをして、あたしの抵抗力を奪う。
「ふふ。変わってませんね、耳が弱いところは」
この甘く低い艶やかな声ですら、全身を愛撫されている気分になる。
「認めなさい。こんなに気持ちよさそうな顔をしているんだ。仕事より、私にこうされることが好きだと」
ああ、課長に侵蝕される――。
このままだと、あたしはただの快楽に流された女だ。
満月の時のような、淫乱さを認めてしまうことになる。
違う、素のあたしは、あんなに淫乱ではないのに。
「や……ぁ、んん、や、やめてよっ、あたしが好きなのは、仕事で……ぁぁ」
だけどあたしの口から出てくるのは、甘えたような喘ぎ声。
たまらないくらいに、彼の愛撫はあたし好みで。
……九年も経っているのに、あたしの弱いところを知り尽くした手だった。
「こうやって、私に触られるのは好き?」
「……っ」
その艶めいた声にすら感じてしまい、乱れた呼吸を繰り返す。
「……仕事中でもあんなに蕩けた顔でキスを受けるのに、それでも仕事の方が好き? こういう風に私にされても、仕事に集中出来るんですか?」
コリコリと胸の尖りを捏ねられ、あたしは悲鳴のような声を上げた。
「やめて……よ。あたし……淫乱、じゃない」
あまりの気持ちよさに潤んだ目で睨み付けたが、課長は妖しく笑いながらあたしの尖りを指で戯れるのをやめない。力を込められる度にあたしの身体はびくついて、課長の指で感じていることを露呈してしまい、抵抗の言葉に説得性がなかった。
これだったら本当に、好きなのにわざといやいやしている感じだ。
「あなたは言葉と身体が裏腹だ。九年前、どれだけ私を求めたんですか」
"九年前"
突然もたらされた禁忌ワードに、いち早く反応した身体。
「か、ちょ……はっ、ああっ」
尖りごと、リズミカルに揉み込まれて、泡立つ水面に水紋が広がっていく。
「思い出して。九年前、あんなによがって、気持ちいいと泣きながらずっとイキッぱなしだったことを。……中学生相手に、本気で感じていたことを」
さらに禁断の過去に触れられ、あたしは快感にも似た刺激に身体をびくつかせた。
「過ちにさせませんよ、私は。忘れたというのなら、私の身体を思い出させてあげます。あなたが泣いて悦んで俺を求めたこと、すべて再生させますよ」
快楽の隙間で見え隠れする罪悪感が、大きくなる。
それに押し潰され、あたしが快楽に流されて消えてしまいそうな不安を感じた。
「……っ、ごめん、九年前は本当にごめんっ! だから許して、もうこれだけでこんなに気持ちいいのに、それ以上されたらまたイッちゃう。熱出したひとにもずっとイカされていたのに、駄目駄目っ! キスだけでも意識ぶっ飛びそうなのに!」
力を振り絞って言ったのに、課長は鼻で笑った。
「……私を煽っているだけです。あなたは快感には素直なのに、どうしていじっぱりなんだ。素直に私に身を委ねればいいものを」
「素直とかいじっぱりとかの問題じゃなく、あたしの生存問題! 課長の経験値、あたしないから!」
「………。……ねぇ、鹿沼主任。私が丁寧語をやめてもあなたは丁寧語でしたけど、私が丁寧語になったら丁寧語やめて素のあなたに戻りましたね」
そ、そういえば……。
「あなたは俺にドキドキするとか言ってたくせに、うちで全然そんな素振りを見せないのは、あなたがドキドキするのは会社での私なんじゃないですか?」
「い、いえそんなことない…ないで……ぁああん!!」
なぜか動揺していた隙に、課長の指が胸の尖りを強く挟みながら、強く揉み込んできた。
「ああ、あああっ」
腰が浮き、課長のリズムに同調したように揺れる。
「だけど今朝も全然、私に反応しなかった」
拗ねたような声が聞こえる。
なんなのよ、このひと。
なんでこうやって可愛く拗ねるのよ。
「ドキドキ……ドキドキしてましたってば! 課長が変なこと言うから! あたしそういうの全然慣れてないから、本気にとって自滅する前に防御策を……必死で大人対応をしただけですから。あたし大人なんです!!」
「慣れてないから、ドキドキすると?」
「そう、そうです」
誘導尋問のような脅迫のような彼の質問に、頭が白くなり身体が熱くなってくる。
「俺にあなたの味を刻んだのは、あなただ。それなのに、俺にドキドキしたと?」
「そう、ですって。恥ずかしいから何度も言わせないで下さい! 大体課長は破壊力があるんですよ。なんですかその色気! 課長はその気なくても、その仕草にいちいち悶死しちゃいそうなんですから、頑張って営業モードでかわしている身にもなって下さいよ! あたしだって普通の女なんですから――……って、忘れて下さい。あたし喋りすぎました」
途中で我に返ったあたしは、項垂れた。きっと耳まで真っ赤だろう。
はぁっ。なにが嬉しくて、本人を前にドキドキしてるなんて暴露しちゃったんだろう。なんだか課長に言われると、どうしても意地になっちゃうんだ。
「こうやって男とお風呂入ったことは?」
課長の手が、泡だらけのあたしの乳房を慈しむような動きに変わる。
「あるわけないじゃないですか!」
「……結城さんとは?」
「なんで結城が出てくるんですか。ありませんよ、こんな恋人みたいなこと!」
「……ふうん? じゃあ俺とこうしているのは、恋人みたいなことだとあなたはそう思っているわけだ」
「だって普通じゃない……んんっ」
突然課長が前に身を乗り出すようにして、あたしの唇を奪ってきた。
角度を変えて貪るようなキスをして、彼は昨日のような……熱を孕んだ濡れた目を向けてくる。
「では、俺にドキドキして下さい。狂いそうになるくらいに俺を感じて」
熱い湯の中で、熱いキス。
熱を出していた課長より、先にお湯に浸かっていた課長より、あたしの方が熱い。
ぱしゃぱしゃ響く音はどこからなのだろう。
ああ、なんでいつもこうなるの。
言ったじゃない。あたし軽い女じゃないんだってば。
すぐこういうことしないでよ。
「んぅぅ……」
……気持ちよさに負けてしまいそうになるの。
身を任せていたくなるの。キスだけで濡れてしまう。
あたしは課長を突き飛ばした。
「駄目だったら! あたし課長の玩具じゃ……」
「……それはもうわかった。求めさせるって言っただろう?」
突如口調が変わり、あたしの身体が萎縮した。
――心を貰うから。それであなたから求めさせる。
課長に抱いて欲しいなんて、あたしが言うわけないのに。なのにどうしてそんな自信満々な顔であたしを魅惑するの?
熱い唇が顔から耳に動き、耳たぶを甘噛みされる。
ぶるりと身震いすると、甘い声が囁かれた。
「まさか、身体を洗うのとセックスの違いがわからないなんてないよな? 28歳にもなっているのなら」
なぜに年齢を持ち出す!!
カッとしてあたしは叫ぶ。
「と、当然です!」
いつの間にか、課長が丁寧語をやめあたしが丁寧語になっている。
強弱関係が変わる。
……いや、もともとあたしは強い立場にはいないけれど。
「俺があなたの身体をどんなに洗おうとも、セックスでないのだから、大人のあなたはなにも感じない。喘ぐこともしないということだ」
「な、なに……」
課長が笑う気配がした。
「俺がここまでしてるのに、素直に受け取らないあなたが悪いんだ。どうせなんで俺がここまでしているのか、考えようともしていないんだろう」
「え? あたしへの復讐と、ヤリたい盛りなんじゃ……」
ほっぺを思い切り抓られた。
「俺には、どうしてもあなたが俺に惑っているようにしか思えない。ぐちゃぐちゃ考えるあなたより、あなたの身体の方が素直に俺に反応する」
「いや、だからあたしは課長のことは……」
あたしの口は課長の口で塞がれた。
唇を離して、課長はゆったりと言う。
「……鈍感なフリをして、俺から逃げるのが大人のすることだと言ういじっぱりなあなたを、優しく追い詰めてあげる」
眼鏡のレンズ越し、LEDの赤から黄色に変わった光を瞳に宿し、琥珀色にも見える瞳の色で。
「せいぜい大人ぶって、俺をかわしてみろよ」
餌を前にした肉食獣のような、残忍な笑みを浮かべて。
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