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第3章 帰還
シェンウ家にて 2.
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忌まわしい色が、体をなぶるように魔手を伸ばす。
リュカに捧げたかった純潔。
リュカと歩むはずだった未来。
それは奇しくも凶々しい〝輝き〟を持って、霧散した。
体が痛い――。
――僕はお前が……死ぬほど憎かった。
痛い、痛い、痛い、痛い――っ!!
激痛が走る体。
女としての胎内を貫かれ穿たれ、無垢な心身は憎悪に染め上げられた。
――僕は……お前が死ぬまで、憎み続ける。
ひと以下のものとして、欲の残滓を浴びせられ、あれだけの憎悪を向けられて、なぜそれでもあたしは生きている?
――姫様。
あたしは姫じゃない。
なにが姫だ。
黒陵を、倭陵を滅ぼす元凶のくせに!!
あたしのせいだ。あたしが、すべて悪いんだ。
お父様も、優しかった女官達もすべて、お父様が護り続けた、歴史ある玄武殿までも、あたしが滅ぼした。
――ユウナ、ユルサナイ……。
聞こえるんだ。
亡者の呪詛が。あたしを恨むその声が――!!
――死ねぬ呪いをかけてやる。
リュカ……。
好きだったの。
すごく大切だったの。
リュカのお嫁さんになれるのを、楽しみにしてたの。
だけど……。
――苦しみ続けろ、永遠に。
リュカは違ったんだね。
リュカをあたしは苦しませていたんだね。
今、あたしが感じる痛みをきっといつもリュカは――。
イタイ……。
死にたい。死なせて。
イタイヨ、ココロガイタイ……。
こんなあたしは生きる価値はない。
皆がいない世界にあたしなど――。
――苦しめ……ユウナ。
体が痛い……。
ココロガイタイ……。
痛い、痛い、イタイ、イタイ、痛い、イタイ、痛い、痛い、痛い、イタイ、痛い、イタイ、イタイ……。
――俺だけは、ひとり残しても平気だっていうのか!?
サク……。
あたしは汚いの。もう穢れているの。
気高くて綺麗なサクとはもう相容れない、そう思っていたのに。
――どこまでも姫様は、
サク……。
――綺麗な俺の姫様のままです。
あたしね、そう言って貰えて嬉しかったの。
優しく触れてくれて、口づけて貰えて嬉しかったの。
サクから、変らない〝もの〟が欲しかったから。
サクだけは、いつまでも変らずいて欲しかったから。
――俺は、姫様を死なせない。俺はずっと姫様と一緒だ。
嬉しかったの……。
サクは一緒に居てくれる。
サクは裏切らない。
サクは消えてなくならない。
サクは変わらない。
死ねないあたしには、サクしかいない。
それなのに――。
――俺は……こちら側にいます。
ねぇ、どうして一緒にきてくれなかったの。
ずっと一緒だって言ったじゃない。
サク。
サク。
サク。
サクのいない世界は、冷たくて苦しくて、息が出来なくて。
体が絶叫を上げているの。
こんな世界が幸せであるはずはない。
リュカに壊されたところが、痛くて仕方が無いの。
リュカの冷たい眼差しが、体を凍えさせるの。
「サク……」
お願い、サク。
サクもあたしから離れていなくなるのなら、あたしをいっそ、粉塵になるまで切り刻み、そしてあたしを、サクの体内に入れて欲しい。
サクの命尽きるまで、一緒にいさせて。
凍えるあたしを、サクの熱で燃やして。
「サク……。いなくならないで……」
■□■□
「姫様……俺は……」
「ごめんな……姫様。俺に力さえあれば、姫様を苦しませずにすんだのに」
「姫様、俺……本当は離れたくねぇ。ずっと姫様の傍にいてぇよ。……たとえ、そこに愛がなくても。一生、姫様が抱けなくても、報われなくても……姫様の傍でその可愛い顔を見ていられれば。俺の名を口にしてくれれば」
「姫様……消えゆく俺でごめん。ずっと一緒に居るなんて、嘘をついてしまってごめん。姫様、俺の分も……幸せに生きるんだぞ?」
「……姫……ユウナ……」
「……好きだ。好きだ、好きだ!! どうしても消えねぇんだよ、この想い……。消したくねぇんだよ、俺が」
「俺の中からお前の影を完全に消すには、俺が死ぬしかねぇ。だからあと6日……。お前のこと、とことん好きでいさせてくれ。すぎたことは望まないから。押しつけたりはしねぇから。いつも通りでいるから。だから……ただ密やかに、想わせてくれ。なぁ、ユウナ……。俺の……愛しい姫様……」
■□■□
寒い、寒い、寒い……。
ユウナは暖を求めて手足を動かした。
空虚さを補うための暖かさを感じれば、幸せそうな笑みを浮かべる。
「……なんでこの姫様は、寝相が極端に悪い上に寝起きまで悪いんだ? 精神きたして、幼児返り? 昨日の今日で寝かしてやるのが筋か? いやいやさすがにこれ以上は俺がやばくなる。姫様、起きて下さい。起きないのなら、せめてその体勢を……」
「やぁ……暖かいの、行っちゃやぁ……」
「姫様……。ふぅ、まだだめか。これ、新手の虐めか? 実は起きていて、寝相がすごく悪いフリをしていて。しかも俺の気持ち知っていて、こうして可愛く甘えっ子状態でひっついてくることで、俺の理性の限界を試してたりとか? まさか本当に誘ってたり? 姫様……?」
「……ん……うるしゃい……」
「……なわけねぇですよね。そこまでの性悪さはこの姫様にはねぇ。純粋悪っていうものだ。……姫様、ひっつかれて嬉しいんですが、俺一睡もしてねぇんです。一部と言わず、体中がガッチンガッチン堅くなって、この体勢は大剣素振り千回より辛いんです。姫様、せめて……」
「この湯たんぽ……しゅごくうるしゃい……」
「この俺を湯たんぽ扱いですか。そりゃあ俺、熱くてほかほかしているでしょうけどね。めらめらする欲で、俺自身熱くてたまんねぇんですから。姫様、朝です。起きましょう? もういいだけ湯たんぽは堪能したでしょう? 気を紛らわせるためとはいえ、さすがに俺こうしてひとりでぶつぶつ独りごちているのは、虚しい以上に気力体力疲れてきましたよ」
「うるしゃ……くぅ……」
「姫様、寝ないでくだ……う、なんでまた、そんな動きを。あ、それは……ちょ……やばいって、直にあたる……。はぁ……。考えるな考えるな……って、動くなって……。くそっ……朝勃ちにひどい仕打ちを……」
「この堅いの……なに……? 痛い……」
「……くっ、なんで手で掴む……にぎにぎは反則だろっ」
「ん……熱くてほかほかしてるけど……びくびくして……気持ち悪い……」
「失礼な! ……あっ姫様、そこまでして、ぽいってのはないでしょう? ねぇ、聞こえてます? 俺心が寒いから、その襟ぐりから胸の谷間に手を入れて暖まってもいいですか? もうほとんどはだけちまってんだから、完全に剥いてしまってもいいですよね?」
「ん……」
「それは肯定ですか? だったら触りますよ? 起きなければ、またすごく触っちゃいますよ? 触るだけですまなくなるかもしれませんよ? 姫様起きて下さい、姫様、ひーめーさー」
「……うるしゃいっ!!」
ユウナが怒って目を開ければ――、
「ようやく起きましたか。おはようございます、姫様」
目の前に、憔悴仕切ったサクの顔があった。
「ひっ!?」
「悲鳴とはひどいですね、姫様。離れなかったのは姫様の方ですからね?」
はだけた姿の自分とサクが抱き合っていた。
ほぼ裸の逞しいサクの上半身に抱きついて、頬をすり寄せていたらしい自分。さらにはサクの足を挟むように、これまた露わになった太腿を巻き付けていた自分。
「こ、これは……」
「姫様ですよ、俺じゃないですからね!! 俺の苦労を知らずに、姫様がぎゅうぎゅう抱きついて、俺をひんむいてすりすりしてきたんですから。上も下も!!」
「え、ええと……あれ? サク、足のところになにか固いものが……」
「寝ても覚めてもそこばかり!! こうなったのは誰のせいだと思っているんですか!! 我慢し続けた俺の理性を褒めて欲しいですね!!」
この固いものの正体がわからないユウナは、太腿で擦ってみる。
「なぁに、これ。大きくなってる?」
「ひーめーさーまーっ!!」
サクが慌てたような顔で飛び起きてしまい、結局それがなにかは、ユウナはわからなかった。
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