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第一章
7:監視と普通
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部屋に帰るなりベッドに突っ伏してもう二時間。
マリアはそんな真琴に恐る恐る話しかけた。
「日比谷様」
「なぁに」
真琴は敷布団に顔を埋めたまま答える。
「せっかくですし、この世界のことについて勉強しませんか?」
マリアがそう言うと真琴は掛布団の中に手を突っ込んだ。
引き抜いた手にはポケット辞書のような物が収まっている。
「……それはなんでしょう」
「これ?神の本」
マリアは少しだけ目を見開いたがすぐにまた元の無表情……とまではいかないまでも限りなく無表情に近い微笑を浮かべた顔に戻す。
「この国に住んでる人ならだいたい知ってるであろうことが書いてある」
「そうなのですか」
「読む?」
「いえ」
「遠慮なくどうぞ。もう読んだし」
言って顔を伏せたまま器用に手投げでマリアに向かってほっぽると、マリアは慌てて両手で本を受け止めた。
「ついでに先生に返しといて。もう寝る」
「お、おやすみなさいませ」
真琴は宣言どおり速攻で寝息を立て始める。
マリアはすぐに近づいて上から布団をかけた。
*****
マリアは自室に戻って椅子に腰掛けた。
マリアの自室は真琴の部屋の隣である。
理由は監視。
そして命じたのは宰相だ。
マリアの前に透明な板状の物が立てかけてある。
その表面に指を這わせると、一瞬だけ淡い光を放ち、それがおさまると、表面にはベッドに突っ伏して布団をかけられている真琴が現れた。
斜め上から俯瞰している映像。
それを時折眺めつつマリアは真琴から渡された本を読み始めた。
読み始めて十分ほど経った頃。
「すごいですね…………」
マリアは書かれていた内容に驚愕していた。
確かに本にはこの国の一般常識が書かれている。
だが内容は事細かにそれでいて分かりやすく書かれていて、このまま初等部の教科書にしたいくらいだ。
少し本にのめり込んでいたことに気がついたマリアは慌てて顔を上げて真琴の映像を見る。
真琴は仰向けに寝ていた。
髪は捲れていて顔が顕になっている。
「…………ふぅ」
マリアは服装を正してまた本を読み出した。
さらに一時間ほど経った頃、真琴は机の上のベルを鳴らしてマリアを呼びつけた。
鳴らしてと言っても、実際には音が鳴ることはない。
ベルを振るとマリアにだけ直接聴こえるようになっている魔道具である。
「お腹空いたんだけど、昼食っていつかな」
「昼食でしたらもう間もなくです。お部屋で取られますか?」
「んー……部屋で取るよ」
「承知いたしました」
すると思い出したようにマリアは収納から神の本を出した。
「日比谷様、ありがとうございました。とても面白かったです」
「そうなの?一般常識しか書かれてないんでしょ?」
「はい。ですがこれほどわかりやすく纏められた書物は見たことがありません」
「ふーん。あそ。ところで先生に返しといてって言ったんだけど忘れたの?」
「それ!……は……申し訳ございません……」
マリアは慌てて頭を下げる。
「いいよ。俺が返しておくから。あとお昼は食堂に変更」
真琴はそう言ってマリアの手から本を無造作にひったくり部屋から出る。
その後ろからマリアも少し慌てて出ていった。
*****
真琴が食堂の前に着くと丁度なつみが食事を乗せたトレイを持って歩いてきた。
「先生、本ありがとうございました」
声をかけると真琴に気が付き嬉しそうに寄ってくる。
「真琴君!いえいえ。もう覚えた?」
「はい」
「流石だね。あ、座る?」
「あー……じゃあ失礼します。……マリア、適当に持ってきて」
「承知いたしました」
颯爽と歩いていくマリアを見ながらなつみは真琴に言った。
「真琴君。分かってはいるけどマリアさんは大丈夫だと思うよ?」
「なんで分かるんですか?」
真琴はなつみの言葉に間髪入れずに質問を返した。
「えー……と……勘?」
なつみはコテッと首を傾ける。
「…………善処します」
一瞬だけ年を考えろと思ったが表情には出さずに真琴はそう答えた。
「お待たせいたしました」
丁度マリアが昼食を持ってきたところで二人は会話を一旦やめた。
手際よく真琴の前に食事が並べられると、マリアは一礼して壁の隅に下がろうとした。
「ありがとう」
だが真琴が呟いた言葉にマリアは身体を硬直させた。
すぐに回復し壁まで歩いて行ったが、マリアはそこから真琴の方をジッと見つめながらまた固まる。
そのまま真琴達が食事を終えるまでマリアはずっと見続けていた。
そんな真琴達を見ていたのは、マリアだけではない。
遠巻きにクラスメート、特に舞、奈緒、竜介の三人はどういう事だと言わんばかりである。
「なつみ先生と日比谷ってどんな関係なのよ?!」
「…………」
奈緒が尋ねても舞は無視して真琴を見続けている。
だが、「なら直接聞けばいいだろ」と言って立ち上がろうとした竜介に気が付き慌てて袖を舞か掴む。
「な、なんだよ」
「いいから座って」
袖を引かれて内心嬉しい竜介は素直に座り直した。
実際は隠しきれていない口元の歪みに奈緒だけは気がついていたが指摘することはしない。
「いい?絶対真琴に余計なことしないで」
「は?余計なことってなんだよ」
舞のための行動だというのに、それを余計なことと言われてしまった竜介は露骨に不機嫌な顔になった。
「あんなに普通な真琴は久しぶりにみたの。お願いだから絶対に詮索しないで」
「だからなんでだ?って聞いてんだよ」
「……竜介には関係ない」
言ったきり舞は黙り込む。
どうやら自分にも話す気は無いらしいと感じた奈緒は竜介に小声で後で話があると言ってこちらも黙り込んだ。
マリアはそんな真琴に恐る恐る話しかけた。
「日比谷様」
「なぁに」
真琴は敷布団に顔を埋めたまま答える。
「せっかくですし、この世界のことについて勉強しませんか?」
マリアがそう言うと真琴は掛布団の中に手を突っ込んだ。
引き抜いた手にはポケット辞書のような物が収まっている。
「……それはなんでしょう」
「これ?神の本」
マリアは少しだけ目を見開いたがすぐにまた元の無表情……とまではいかないまでも限りなく無表情に近い微笑を浮かべた顔に戻す。
「この国に住んでる人ならだいたい知ってるであろうことが書いてある」
「そうなのですか」
「読む?」
「いえ」
「遠慮なくどうぞ。もう読んだし」
言って顔を伏せたまま器用に手投げでマリアに向かってほっぽると、マリアは慌てて両手で本を受け止めた。
「ついでに先生に返しといて。もう寝る」
「お、おやすみなさいませ」
真琴は宣言どおり速攻で寝息を立て始める。
マリアはすぐに近づいて上から布団をかけた。
*****
マリアは自室に戻って椅子に腰掛けた。
マリアの自室は真琴の部屋の隣である。
理由は監視。
そして命じたのは宰相だ。
マリアの前に透明な板状の物が立てかけてある。
その表面に指を這わせると、一瞬だけ淡い光を放ち、それがおさまると、表面にはベッドに突っ伏して布団をかけられている真琴が現れた。
斜め上から俯瞰している映像。
それを時折眺めつつマリアは真琴から渡された本を読み始めた。
読み始めて十分ほど経った頃。
「すごいですね…………」
マリアは書かれていた内容に驚愕していた。
確かに本にはこの国の一般常識が書かれている。
だが内容は事細かにそれでいて分かりやすく書かれていて、このまま初等部の教科書にしたいくらいだ。
少し本にのめり込んでいたことに気がついたマリアは慌てて顔を上げて真琴の映像を見る。
真琴は仰向けに寝ていた。
髪は捲れていて顔が顕になっている。
「…………ふぅ」
マリアは服装を正してまた本を読み出した。
さらに一時間ほど経った頃、真琴は机の上のベルを鳴らしてマリアを呼びつけた。
鳴らしてと言っても、実際には音が鳴ることはない。
ベルを振るとマリアにだけ直接聴こえるようになっている魔道具である。
「お腹空いたんだけど、昼食っていつかな」
「昼食でしたらもう間もなくです。お部屋で取られますか?」
「んー……部屋で取るよ」
「承知いたしました」
すると思い出したようにマリアは収納から神の本を出した。
「日比谷様、ありがとうございました。とても面白かったです」
「そうなの?一般常識しか書かれてないんでしょ?」
「はい。ですがこれほどわかりやすく纏められた書物は見たことがありません」
「ふーん。あそ。ところで先生に返しといてって言ったんだけど忘れたの?」
「それ!……は……申し訳ございません……」
マリアは慌てて頭を下げる。
「いいよ。俺が返しておくから。あとお昼は食堂に変更」
真琴はそう言ってマリアの手から本を無造作にひったくり部屋から出る。
その後ろからマリアも少し慌てて出ていった。
*****
真琴が食堂の前に着くと丁度なつみが食事を乗せたトレイを持って歩いてきた。
「先生、本ありがとうございました」
声をかけると真琴に気が付き嬉しそうに寄ってくる。
「真琴君!いえいえ。もう覚えた?」
「はい」
「流石だね。あ、座る?」
「あー……じゃあ失礼します。……マリア、適当に持ってきて」
「承知いたしました」
颯爽と歩いていくマリアを見ながらなつみは真琴に言った。
「真琴君。分かってはいるけどマリアさんは大丈夫だと思うよ?」
「なんで分かるんですか?」
真琴はなつみの言葉に間髪入れずに質問を返した。
「えー……と……勘?」
なつみはコテッと首を傾ける。
「…………善処します」
一瞬だけ年を考えろと思ったが表情には出さずに真琴はそう答えた。
「お待たせいたしました」
丁度マリアが昼食を持ってきたところで二人は会話を一旦やめた。
手際よく真琴の前に食事が並べられると、マリアは一礼して壁の隅に下がろうとした。
「ありがとう」
だが真琴が呟いた言葉にマリアは身体を硬直させた。
すぐに回復し壁まで歩いて行ったが、マリアはそこから真琴の方をジッと見つめながらまた固まる。
そのまま真琴達が食事を終えるまでマリアはずっと見続けていた。
そんな真琴達を見ていたのは、マリアだけではない。
遠巻きにクラスメート、特に舞、奈緒、竜介の三人はどういう事だと言わんばかりである。
「なつみ先生と日比谷ってどんな関係なのよ?!」
「…………」
奈緒が尋ねても舞は無視して真琴を見続けている。
だが、「なら直接聞けばいいだろ」と言って立ち上がろうとした竜介に気が付き慌てて袖を舞か掴む。
「な、なんだよ」
「いいから座って」
袖を引かれて内心嬉しい竜介は素直に座り直した。
実際は隠しきれていない口元の歪みに奈緒だけは気がついていたが指摘することはしない。
「いい?絶対真琴に余計なことしないで」
「は?余計なことってなんだよ」
舞のための行動だというのに、それを余計なことと言われてしまった竜介は露骨に不機嫌な顔になった。
「あんなに普通な真琴は久しぶりにみたの。お願いだから絶対に詮索しないで」
「だからなんでだ?って聞いてんだよ」
「……竜介には関係ない」
言ったきり舞は黙り込む。
どうやら自分にも話す気は無いらしいと感じた奈緒は竜介に小声で後で話があると言ってこちらも黙り込んだ。
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