僕、勇者サマの養い子になりました

31.

アヤさんは髭ゴリラさんに恐ろしい程の魔力を込めた威圧を掛けたまま、ふわりと極上の笑みを浮かべてみせた。

粉々に砕け散るって……

凍ったモノが溶けたら、どんな事になってしまうのか想像しただけで、
おおぅ…
何て恐ろしい。

この場にいた男達は皆、無意識にヒュンとした気分を味わい、思わず股間を押さえてその身を震わせていた。
僕も既に男じゃない身体だって言うのに、つい想像して震えながらアヤさんにしがみ付く。

「ひぃぃぃ、ひぁ、ぅぅ、あ、あ、うぅ…」

最早まともに話す事も出来なくなった髭ゴリラさんは持っていた斧みたいな武器を地面に落とし、腰を抜かして座り込んでしまった。
ズボンの股には大きな黄色い染みを作り、口からは泡を吹き、髭ゴリラさんは滂沱ぼうだの涙を流しながら呪文のように謝罪の言葉を繰り返し始めた。

「申し訳ありません。申し訳ありません。お許し下さい。お許し下さい。お許し下さい。どうかお許し下さ…」
「今更謝罪の言葉なんて要らないよ。大切なのは本当に二度とウチの子に関わらないって己の命を賭けて誓って貰う事だけだ。次は無い。もしあったとしたら…
その時はオマエを首から下だけを氷像にして、愚息と手足を蹴り砕き、達磨ダルマにしてから公衆の面前に晒してやる！」

ハッキリと視認出来る程の青い炎のオーラを揺らめかせ、まるで魔王の如き威圧を放ちながら、アヤさんはスゥっと目を細めて口角を三日月に引き上げた。

髭ゴリラさんはその恐怖に耐え切れず、とうとうそのまま白目を剥いて意識を手放し崩れ落ちる。と、
体のあちこちから液体を垂れ流し、見るも無惨な状態になっていた。

コワイ…
アヤさんホントに怖いよ！

僕の全身の毛穴からはブワッと冷たい汗が吹き出し、堪えきれずに小さくカチカチと歯を鳴らせてしまった。

その事に気付いたアヤさんはハッと正気？に戻ったらしく、慌てて威圧を解き、魔力を散らして僕の背中をポンポンし始めた。

「ああッ、ごめん！ごめんね。怖がらせちゃったね。ついマジで切れちゃって…」

アヤさんは僕の背中をポンポンし続けながら、髭ゴリラさんが視界から外れるように移動し始めた。

「ちゃんとイツキの周りには威圧を向けないようにしてたんだよ。あ、塵一つ入り込まないように結界も張ってたんだけど、ほら、私にはこんなテンプレが日常茶飯事なもんだから、あの、怖がってるイツキに気付くのが遅くなっちゃって、本当にごめんね。ごめんねイツキ、ごめん、お願いだから泣かないで…」

さっきまでの魔王っぷりが幻だったかのように、アヤさんは気が緩んで涙が出てきた僕を必死で宥めながら、無限収納アイテムボックスから取り出したタオルハンカチで僕の涙を拭ってくれた。

何時ものアヤさんに戻ってくれた事に安堵した僕が涙を止められずにいると、アヤさんは更にオロオロと僕の背中や頭を撫でたりしながら謝り続けていた。
僕だって本当は不謹慎にもテンプレにワクワクしちゃってたんだから自業自得だったんだけど、想像してた他人事としてのテンプレとは違って、当事者となったらこんなに怖かったなんて…

いや、怖かったのは主にアヤさんだったんだけど、
でもこんなにも苛烈な性格だったなんて…本当に驚いたよ。