57 / 165
閑話(51.と52.の間です)
しおりを挟む
※この話はウールド視点です。
作中の2人は割り切った知人以上の大人な関係ですが、ご不快な方は読まなくても本編への支障はございません。
諸々苦手な方はご遠慮下さいませ。申し訳ありませんが宜しくお願い致します。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「なぁ、アヤト……」
まだ外は薄暗い早朝、シャワーを浴びて部屋へ戻って来た俺はベッドにうつ伏せで寝転がっているアヤトに声を掛けた。
気怠げな顔をこちらに向け、「何だ?」と言わんばかりの表情になるのを確認した俺は隣の部屋でまだ寝ているだろう小さな子供を思い浮かべて口を開いた。
「アイツ…さ、その、やっぱ虐待…とか、されてたの…か?」
「…何でそう思う?」
質問に質問で返され、俺は重く溜め息を吐いた。
「怒るなよ?実は…お前が堕ちてる間に、気になってこっそり覗きに行ったんだ」
途端、殺気を含んだ視線に変わるアヤトに肩を竦めてみせてから、俺は声のトーンを落として話を続けた。
「アイツ……ずっと寝言で謝ってたんだぜ。泣きながら身体を丸めてずっとだ。『ごめんなさい、ごめんなさい』ってな。で、気付いた。アイツが頭と腹を腕で庇って蹲ってる事に。そんで不自然に身体が震えてからアイツ、聞こえないくらいの声で『もうやめておかあさん』って言いやがった…」
喋れないと思い込んでいた子供の声をまさかこんな形で聞く事になるとは…
思ってもみなかった俺は驚いて固まってしまった事を思い出し、フンと鼻を鳴らした。
「私もあの子を拾った日に見たよ。爪の先が割れる程の力でシーツにしがみ付いて、泣きながら震えて謝り続けていたよ。
なぁ、夢に見るだけで自分を抱き締める手の爪が腕に食い込んで血が出る程の暴力って……あの子は今まで一体、どんな事をされ続けてきたんだろうな…」
その言葉に、俺は胸に黒いモノが詰まったような気分になって、ドサリとアヤトが寝ているベッドの隣に座り込んだ。
乱れた髪を梳いてやろうと手を伸ばしてピシャリと叩き落とされ、俺は再び溜め息を吐いた。
「なぁお前は…アイツの母親にでもなってやるつもりなのか?」
「はあ!?何だいきなり…」
「だから、本来あるべき『お母さん』ってヤツにだよ」
言われてアヤトは少し考え込んで、それから徐に頷いた。
「ああ、そうだな。私はあの子の全てを否定せず、受け入れて認めて甘やかしてやりたいんだよ。抱き締めて頭を撫でて、今まで貰えなかっただろう愛情をたっぷり注いで、身内には我が儘くらい言ってもいいんだって事を教えてやりたい。たくさんたくさん笑わせて、怒らせて、拗ねさせたりもして、せめて…泣く時くらいは声を出せるようにしてやりたいんだ。アレは…見ていて本当に痛い、からな」
つい忘れがちだが、まだ自身も15歳の少年だというのに、まるで俺と同世代であるかのような考え方をするアヤトを見て俺は呆れて苦笑いを浮かべた。
老成した15歳と、幼児並の13歳。
この2人がこれから親子ごっこをするというのか…
ーーーーだったら、
「なぁ、じゃあ俺が『お父さん』ってのはどうだ?」
「はあ!?何言ってるんだ冗談じゃない!寝言なら寝て言え、キモチワルイ。そして是非とも二度と起きて来ないでくれ」
「何で!?俺半分くらい本気で言ったんだぜ?あんな可愛い娘が出来るんなら大歓迎な「黙れ!」」
「蛇蝎の如く嫌われてた癖に」
「そこまで嫌われてねぇよ!たぶん。……物凄く怯えられてはいたが」
「大して変わらないだろ」
「じゃあ取り敢えず起きたら笑顔で自己紹介「しなくていい」」
「何でだよ!いいじゃねぇか!」
「イツキが起きたら、気配を殺して決して姿を見せるなよ!絶対だぞ!もしちょっとでも怖がらせるような真似をしてみろ……テメェのムスコを斬り落とし、本気で再生不可の呪を掛けて二度と使えなくしてやる!!」
おぉう、それは困るな。
俺は大人しく頷いておいて、白み始めた空を窓越しに眺めた。
まだ夜明けまでは少し寝れるか…
どさくさに紛れて座っていたベッドに潜り込もうとして蹴り出され、俺は仕方なく客室へと向かった。
使われていない綺麗なままのベッドに倒れ込んで、俺はあの子供といる時のアヤトを思い返しながら再び苦笑いを浮かべていた。
見た事もない満たされた表情をして、穏やかなオーラで笑っていた。
本当に信じられないモノを見た気分だった。
アヤトがずっと誰かを必死に探していたのは知っていた。
それこそ瀕死のアヤトをシンラの森で見付けた時からずっとだ。
それがあの子供だったんだろう。
腕の中に大事に抱き込んで、今までのアヤトからは信じられない程に隙だらけでイアラ達と言い合っている姿を見て、ついアイツを攫っちまったが…
あんなにも脆くて弱い子供だったとは予想もしていなかった。
アレは本当に失敗だった。
もし……
もしあの時。
あのシンラの森でアヤトを見付けたあの時、
一緒にアイツも居たとしたら…
果たして2人はあのシンラの森で、俺が見付けるまで生きていられたんだろうか…
2年の時間差に神々の作為を感じて俺は溜め息を吐いた。
取り敢えず…
俺の明日の目標は「笑顔で自己紹介」…だな。
何とか上手い事アヤトを出し抜ければいいんだが…
俺はニヤリと悪い笑みを浮かべ、薄くて奇妙な毛布(タオルケット)を被ると、夜明けまでの短い眠りに落ちていくのだった。
作中の2人は割り切った知人以上の大人な関係ですが、ご不快な方は読まなくても本編への支障はございません。
諸々苦手な方はご遠慮下さいませ。申し訳ありませんが宜しくお願い致します。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「なぁ、アヤト……」
まだ外は薄暗い早朝、シャワーを浴びて部屋へ戻って来た俺はベッドにうつ伏せで寝転がっているアヤトに声を掛けた。
気怠げな顔をこちらに向け、「何だ?」と言わんばかりの表情になるのを確認した俺は隣の部屋でまだ寝ているだろう小さな子供を思い浮かべて口を開いた。
「アイツ…さ、その、やっぱ虐待…とか、されてたの…か?」
「…何でそう思う?」
質問に質問で返され、俺は重く溜め息を吐いた。
「怒るなよ?実は…お前が堕ちてる間に、気になってこっそり覗きに行ったんだ」
途端、殺気を含んだ視線に変わるアヤトに肩を竦めてみせてから、俺は声のトーンを落として話を続けた。
「アイツ……ずっと寝言で謝ってたんだぜ。泣きながら身体を丸めてずっとだ。『ごめんなさい、ごめんなさい』ってな。で、気付いた。アイツが頭と腹を腕で庇って蹲ってる事に。そんで不自然に身体が震えてからアイツ、聞こえないくらいの声で『もうやめておかあさん』って言いやがった…」
喋れないと思い込んでいた子供の声をまさかこんな形で聞く事になるとは…
思ってもみなかった俺は驚いて固まってしまった事を思い出し、フンと鼻を鳴らした。
「私もあの子を拾った日に見たよ。爪の先が割れる程の力でシーツにしがみ付いて、泣きながら震えて謝り続けていたよ。
なぁ、夢に見るだけで自分を抱き締める手の爪が腕に食い込んで血が出る程の暴力って……あの子は今まで一体、どんな事をされ続けてきたんだろうな…」
その言葉に、俺は胸に黒いモノが詰まったような気分になって、ドサリとアヤトが寝ているベッドの隣に座り込んだ。
乱れた髪を梳いてやろうと手を伸ばしてピシャリと叩き落とされ、俺は再び溜め息を吐いた。
「なぁお前は…アイツの母親にでもなってやるつもりなのか?」
「はあ!?何だいきなり…」
「だから、本来あるべき『お母さん』ってヤツにだよ」
言われてアヤトは少し考え込んで、それから徐に頷いた。
「ああ、そうだな。私はあの子の全てを否定せず、受け入れて認めて甘やかしてやりたいんだよ。抱き締めて頭を撫でて、今まで貰えなかっただろう愛情をたっぷり注いで、身内には我が儘くらい言ってもいいんだって事を教えてやりたい。たくさんたくさん笑わせて、怒らせて、拗ねさせたりもして、せめて…泣く時くらいは声を出せるようにしてやりたいんだ。アレは…見ていて本当に痛い、からな」
つい忘れがちだが、まだ自身も15歳の少年だというのに、まるで俺と同世代であるかのような考え方をするアヤトを見て俺は呆れて苦笑いを浮かべた。
老成した15歳と、幼児並の13歳。
この2人がこれから親子ごっこをするというのか…
ーーーーだったら、
「なぁ、じゃあ俺が『お父さん』ってのはどうだ?」
「はあ!?何言ってるんだ冗談じゃない!寝言なら寝て言え、キモチワルイ。そして是非とも二度と起きて来ないでくれ」
「何で!?俺半分くらい本気で言ったんだぜ?あんな可愛い娘が出来るんなら大歓迎な「黙れ!」」
「蛇蝎の如く嫌われてた癖に」
「そこまで嫌われてねぇよ!たぶん。……物凄く怯えられてはいたが」
「大して変わらないだろ」
「じゃあ取り敢えず起きたら笑顔で自己紹介「しなくていい」」
「何でだよ!いいじゃねぇか!」
「イツキが起きたら、気配を殺して決して姿を見せるなよ!絶対だぞ!もしちょっとでも怖がらせるような真似をしてみろ……テメェのムスコを斬り落とし、本気で再生不可の呪を掛けて二度と使えなくしてやる!!」
おぉう、それは困るな。
俺は大人しく頷いておいて、白み始めた空を窓越しに眺めた。
まだ夜明けまでは少し寝れるか…
どさくさに紛れて座っていたベッドに潜り込もうとして蹴り出され、俺は仕方なく客室へと向かった。
使われていない綺麗なままのベッドに倒れ込んで、俺はあの子供といる時のアヤトを思い返しながら再び苦笑いを浮かべていた。
見た事もない満たされた表情をして、穏やかなオーラで笑っていた。
本当に信じられないモノを見た気分だった。
アヤトがずっと誰かを必死に探していたのは知っていた。
それこそ瀕死のアヤトをシンラの森で見付けた時からずっとだ。
それがあの子供だったんだろう。
腕の中に大事に抱き込んで、今までのアヤトからは信じられない程に隙だらけでイアラ達と言い合っている姿を見て、ついアイツを攫っちまったが…
あんなにも脆くて弱い子供だったとは予想もしていなかった。
アレは本当に失敗だった。
もし……
もしあの時。
あのシンラの森でアヤトを見付けたあの時、
一緒にアイツも居たとしたら…
果たして2人はあのシンラの森で、俺が見付けるまで生きていられたんだろうか…
2年の時間差に神々の作為を感じて俺は溜め息を吐いた。
取り敢えず…
俺の明日の目標は「笑顔で自己紹介」…だな。
何とか上手い事アヤトを出し抜ければいいんだが…
俺はニヤリと悪い笑みを浮かべ、薄くて奇妙な毛布(タオルケット)を被ると、夜明けまでの短い眠りに落ちていくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる