僕、勇者サマの養い子になりました

55.

「うわヤベェ！コレはマズイ。おいアヤト、コレは天然か！？コレはマズイぞマジで！」
「分かってる…
そうなんだ、そうなんだよ。マズイんだよ物凄く…」

僕は手を握られたまますぐ離して貰えず、困った顔でチラリとウールドさんを見ただけなのだが、2人はヤバイとマズイを繰り返し騒ぎ立て始めた。

僕は自己紹介されて、宜しくと頭を下げただけなのに…
手を離して貰えない上に意味が分からず、僕の目尻には次第に涙が浮かぶ。
何か、やってはいけない事をまたやってしまったんだろうか…
不安になってきて、でも涙が溢れないように不自然な瞬きを何度もしていると、ウールドさんが大慌てで僕の手を離してくれた。

「うあッ！ごめんマジで！もう離したから、ほら離したから、な？な？」

ふと見れば、アヤさんが険呑けんのんな光をたたえた冷たい眼差しでウールドさんをじっと見詰めていた。

アヤさん…
その目は怖いです。
視線だけで人が殺せそうな目です。ダメです。

思わず身震いしてしまうと、アヤさんが正気？に返って僕の背中を撫で始めた。

「あー…あのねイツキ、その、ホント男を泣きそうな顔でチラ見するのは危険だから、マジでそういうのは…こう、男としてはキュンときてマズイから」

？？？
キュンときて？

「こりゃ全く分かってないぞ。マジ天然か……前途多難だなオイ」
「そうなんだよ。可愛いんだけど見せられないんだ。てか、お前も気安く見るな」
「無茶言うなよ！あ、でもアヤト、お前がやって見せてやればいいんじゃねぇか？」

「……………は？」

あ！
アヤさんが固まった。珍しい。

「と………」
「と？」
「取り敢えずッ、朝ご飯を食べよう。そうしよう」

アヤさんが冷蔵庫前のウールドさんを「邪魔だ！」と蹴散らし、冷えたボトルを取り出した。

林檎のいい香りがして目を輝かせると、僕はさっきから騒がしかったお腹を押さえてグラスを受け取った。
注いで貰って飲むと、思ってた以上に美味しい林檎ジュースで、僕は一気に飲み干してふはぁと満足の溜め息を吐いた。

「美味しかった？」

聞かれてコクコクと頷き、カウンターテーブルの椅子に下ろされて大人しく座った。

「ご飯を貰う前のワンコみたいだな。揺れてる尻尾が見えそうな気がしてきたぜ…」

ウールドさんが失礼な事を言っていたが、今は気にしない。
だってお腹が空いてるんだもん。
それどころじゃない。

目の前のランチョンマットの上に鍋敷きと小鉢を並べ、僕の頭を一撫でして、アヤさんが笑いながら無限収納アイテムボックスから一人用の土鍋を取り出して置いた。

「熱いから気を付けて。先に食べ始めてていいから、ほら」

レンゲを手渡され、僕は『ホントにいいの？』とばかりにアヤさんの顔を見上げれば、待ち切れない僕の為に土鍋の蓋を開けてくれた。

ふわぁ…
美味しそう！！

凄い湯気で本当に熱そうだったけど、美味しそうな卵雑炊の匂いに耐え切れずレンゲを握り締めた。