僕、勇者サマの養い子になりました

54.

思わずといった感じで呟かれた言葉に、アヤさんはキッと眦まなじりを吊り上げてウールドを睨み付けた。

「黙れ！何で姿を見せたウールド」
「お前なぁ！短剣いきなり投げ付けといて言うセリフがソレか！？」

た、確かに…

つい僕もウールドの言葉に小さく頷いてしまうと、ウールドは嬉しそうに笑ってから僕を真っ直ぐに見た。
僕の身体が大きく震えると、申し訳なさそうな顔になって、そして僕に向かっていきなり頭を下げた。

ーーーーッ！？

「昨日は怖い思いをさせちまって本当にすまなかった！」

真剣に、大の大人が僕なんかに頭を下げた事に驚いて、僕が目を白黒させていると、アヤさんは当然といった顔で頷いていた。

「アヤトが余りにも隙だらけだったもんで、あー…ついな、悪戯心が疼うずいたって言うか、その、ホントに悪かったよ」

バツが悪そうに頭を掻かいて謝るウールドさんに僕がオロオロしていると、何故か不機嫌な顔をしてウールドさんを見ていたアヤさんが僕の方を向いて少し泣きそうな顔になった。

…アヤさん……？

驚いた僕は慌ててアヤさんの顔をウールドさんから隠すよう両手を伸ばして包み込み、抱き締めた。

良く分からないんだけど、アヤさんがウールドさんには見せたく無いんじゃないかと思ったからだ。

「いひゅき、いき…が、くるひぃよ」

少しして、アヤさんがそう言いながら僕の腕をタップしてきて焦りながら手を離すと、薄っすら涙目のアヤさんは楽しそうに赤い顔をして笑っていた。

そ、そんなに苦しかったのかな？
つい勢いでギュッと抱き締めちゃったし…

僕は申し訳なくて肩を落とすと、そんな僕達を見ていたウールドさんが突然吹き出して笑い始めた。

「わ…悪い、笑ったり…ふはっ、して。改めて自己紹介をさせてくれ。ぅくくく……俺は、ウールド・ディスカークだ、宜しくな」

笑いを堪えてブルブルしながら右手を差し出され、僕は暫しばらく迷ってからアヤさんを見ると、苦虫を噛み潰したような顔で頷かれた。
意を決して右手を差し出す。

「ッ！…っ………」

ギュッと大きな温かい手で手を握られ、慌てて名乗ろうとして声が出せず、俯うつむくと、アヤさんが代わりに名乗ってくれた。

「イツキだ。お前なんかに呼ばせるのは癪しゃくだが、仕方ないから名前を呼ばせてやろう」

うわぁ、アヤさんったら何て上からの紹介なんだ…

僕は困った顔でアヤさんとウールドさんを交互に見てから、『イツキです。こちらこそ宜しくお願いします』と口を動かして頭を下げた。