僕、勇者サマの養い子になりました

66.

何だろう……

誰かが、呼んで…る？


朝露に濡れた寒さに震えながら目を覚ますと、僕は硬くなった身体をゆっくりと伸ばして顔を上げた。
一瞬、自分が何処に居るのかが理解出来なくて辺りを見回し、昨晩は泣きながらあのまま外で寝てしまったんだと思い至って再び俯いた。
三角座りで寝てしまった僕は身体のあちこちが痛くて仕方がなかったんだけど、濡れた身体に吹き付ける風が寒過ぎてきつく自分を抱き締めた。

このままでは不味まずい。
早く家に戻らないと、きっと風邪をひく。

とは思うものの……

僕は全く動き出せず、座り込んだまま呆けて足元の芝生を見詰めていた。

どれ位そうしていたんだろう…

ふと、アヤさんの気配を感じて顔を上げた。
名を呼ばれた気がして、幻聴かも知れないと自分に予防線を張ってから、キョロキョロと辺りを見ていると、いきなり背後から誰かに抱き付かれてビクッと跳び上がった。

「見付けた！やっと見付けたよ！イツキ！！」

ーーーーッ！？
アヤさん？
ホントに？
都合のいい夢とかじゃなくて？？

恐る恐る振り返ると、アヤさんは僕の背中に抱き付いたまま号泣していた。

「イツキぃ！イツキ、イツキ、もうホント…に、しんぱ、したん…だか、ッ…」

その後はもう言葉にならず、暫しばらくクシャクシャの顔でひたすら泣き続けていた。

アヤさん………
アヤさんをこんな風に泣かせたのは…僕？
僕の所為せいでアヤさんはこんなにも泣いてるの？？

僕は今の状況が分からずに困惑して固まっていると、アヤさんは無限収納アイテムボックスからタオルを取り出して慌てて自分の顔を拭き、僕の正面に回って顔をジッと見詰めてから、徐おもむろに頷き改めて僕を抱き締めた。

「良かった。ホントに、無事で良かった…」

背中を撫でられ、頭を撫でられ、ギュウギュウと温かい腕に抱き締められて、凍らせていた僕の感情がアヤさんの熱で少しずつ解けて戻ってくる。
漸ようやく僕は目の前に居るアヤさんが幻覚なんかじゃなくて、本当に居るんじゃないかって思えるようになってきていた。

「…あやさん？ほんとうのあやさん？ゆめじゃなくて？？」

それでも臆病な僕は確認せずにはいられなくて、思わず何度も聞いてしまう。
だって、これで幻覚や幻聴だったら、もう…立ち直れないかも知れないからだ。

「もし私の偽物なんかが居たとしたら、見付け次第瞬殺してるよ」

物騒な事をさらりと言って、アヤさんは僕の背中をポンポンして笑ってくれた。

僕が思ってもいなかった返事が返ってきて、でもそれで妙に納得して安心した僕は、膝を抱き締めたまま強張っていた腕を解ほどいてアヤさんに手を伸ばした。

恐々こわごわ背中に腕を伸ばしてしがみ付いたら、涙腺が決壊して涙が零れ落ちた。

「…ッ……ぅ、う…」

アヤさ…ッ
アヤさんだ！
ホントに………