僕、勇者サマの養い子になりました

髙城

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86.

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やっと魔法だ!

僕はワクワクしながら胡座あぐらを崩して正座に座り直し、アヤさんを見上げた。
反対に膝立ちした状態だったアヤさんが僕の向かいに胡座をかいて座ると、右の掌の上に小さな炎をポッと浮かべた。

「この世界では…科学技術の代わりに魔法技術の発展が人々の暮らしを支えているんだけどね。
その所為か、例えばこの小さな火を灯す過程を説明しようとしても、こちらの人達には詳細を理解する事がとても難しいみたいなんだ。
でもね、私達は義務教育で得た知識だけでも充分に理解する事が出来るんだよ。
ねぇイツキ、火を起こすのに必要な物は?」
「可燃物と酸素と熱…ですか?」
「うん、そうだね。私が火を起こすのに使う熱源は魔法に寄って生み出した気体分子の運動エネルギーだよ。そこに空気中の酸素を送り込んで周辺の炭素を燃やせば……ほら、こんな風に火を灯す事が出来る」

そう言ってアヤさんは自身の周りに小さな炎をいくつも浮かべて見せると、すぐさまその全てを消した。

一瞬、ぐんと上がった室温が元に戻り、僕は火照った頬を反射的に撫でていたら、「ごめんね、ちょっと熱かった?」とアヤさんに謝られてしまった。

急いで首を横に振る。
こんな何となくの行動にまでそんな気を使ってくれなくても大丈夫なのに……

「因みに気体分子の運動エネルギーはイコール、温度なんだよ。
気体分子は絶えず運動していてね、動けば熱が発生し、止まれば冷えるんだ。だから魔法のあるこの世界では熱くするのも冷やすのも、ホント思いのままって事だね。
空気中の水素と酸素を集めて水を作り、冷やせば氷だって作れるし、素粒子の持つ+と-の性質を理解していれば電気だって生み出せる。
科学を知ってる私達からすると、魔法は思ったよりもファンタジーじゃないって事が良く分かるよ」

成る程……

「でもねぇ~…科学だけじゃ納得出来ない現象も多々たたあるんだよねぇ。
まぁ神様が居るような世界なんだから、そういうのもアリなのかも知れないんだけど……
その辺は…もう追々おいおいって事で、ね?」

アヤさんは苦笑いでそう締め括ると、またしても僕の頬を摘んでムニムニし始めた。

「こらイツキ、魔法は私が魔道具マジックアイテムを作ってからだって言ったでしょ!
右手に魔力が集まってたよ、もう……
今日は聞くだけ。講義のみ。実技はまた次回にね」

あうぅ…つい、うっかりしてた……

「ごめんなさい。出来そうな気がしてきて、つい…」
「うん。その気持ちは分かるんだけど、でも今後は気を付けてね。
取り敢えず明日の朝に一度ちゃんとイツキの魔力を私が測って、その状態を満タンの基準にしてから枯渇寸前まで使って貰って、その状態を危険ラインに登録しておこうか」
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