僕、勇者サマの養い子になりました

87.

「はい、宜しくお願いします」

僕はさっきの件の謝罪も込めて、深々と頭を下げた。

「うん。いい子で待ってたら明日中までには何とか作ってみせるから、楽しみにしててね」

アヤさんにニヤニヤしながらそう言われ、僕は赤面して俯いてから…
ふと、これはアヤさんに無理をさせてしまうんじゃないだろうか…と思い至った。
もしかしたら、その事に気付かせない為に、こんな揶揄からかうみたいに笑って見せたんじゃ！？

「アヤさん…僕ッ、明日中とかじゃなくてもちゃんと待てますから！だから、その、」
「ああ、そんなイツキは気にしなくていいんだよ。私がイツキを喜ばせたくて勝手にやるだけなんだから」
「だけどッ、昨日も僕の所為で色々と大変な事になっちゃってたのに、僕、アヤさんが休んでるとこも寝てるとこも見た事ない…から……」

僕は自分で言ってて、本当にアヤさんが動きっ放しな事に改めて気付き、青くなった。
それは単純に僕より早く起きて、僕より遅くに寝てるって事だ。
あぁでも、寝るって事に関しては3回とも落ちちゃってるから仕方がない…のか……も？
だけど、それでも、ご飯の用意とか片付けとか、洗濯とか、家事の全てを気が付けばやってくれていて、僕ときたら碌にお手伝いも出来てない……

考えれば考える程、僕はアヤさんの手間を増やしてるだけの役立たずで、せめて今からでもお風呂とか洗っ…

「イツキ～～、また何を変な事を考えてるね？」

いきなりアヤさんに両手で顔をギューッと挟まれ、変顔を曝さらしながら、僕は真正面からジッと見詰めてくるアヤさんの視線が怖くて思わず目を逸らした。

「あのね、
イツキは子供で、私の中身はオバさんなんだよ？
子供は遠慮なく大人の好意に甘えればいいんだし、やって貰った事に対して『ありがとう』ってちゃんと言えたなら、もうそれだけでいいんだよ」

蛸の口にされてたのを解放されて、今度は包み込むようにギュッとアヤさんの胸に抱き込まれた。
左手を腰に回され、右手で頭を撫でられてホッと息を吐く。

あったかい…

アヤさんの体温が心地良くて、僕は無意識に頬をアヤさんの胸に擦り付けた。
さっきまでの萎縮していた身体が、ゆっくりと弛緩していくのを感じながら、心ゆくまでスリスリを堪能していると、アヤさんの身体が不自然に揺れ始めた。

？？？

何だろうと思って顔を上げる…と、アヤさんは笑い声を押し殺し、楽しそうに肩を揺らして僕を見ていた。

ぅわ！
またやってしまった！！

僕は一瞬で首まで真っ赤になると、アヤさんの胸からバッと飛び退のいて高速で後退あとずさった。