僕、勇者サマの養い子になりました

92.

何だ？
何だか狭い場所に…閉じ込められてるような感じがする？？

僕は目を閉じたまま寝惚けた頭で身体の上の重たい物を押し退けると、その場で寝返りを打って丸くなった。

さっきまで背中がホカホカ温かった場所に、今度は顔を突っ込んで一息つくと、少しずつ頭がハッキリしてきて、ゆっくりと瞼を持ち上げて目を開いた。

…………？
アレ？
ここ何処……だッ！？

「～～～～～～ッッ！！！！！」

僕は今、咄嗟に大声で叫ばなかった自分を褒め称えたい気持ちでいっぱいになりながら、口を両手で押さえ付けていた。

お、おおお昼寝だ！
一緒にお昼寝したんだった！
今、僕はアヤさんの胸に顔を突っ込んで寝て……

そこまで現状を把握して、僕は真っ赤な顔で小さく震えながらそっとアヤさんの腕をずらし、細心の注意を払った後退りでアヤさんから離れた。

まだ、寝てる……よね？
起こしちゃったりしてないよね？

僕は激しい動悸に眩暈がして深呼吸をすると、ベッドを揺らさないようにゆっくりと起き上がってアヤさんを覗き込んだ。

アヤさんの目はまだしっかりと閉じられていて、規則正しい呼吸に胸が上下している様子が見て取れる。

だ…大丈夫、かな？

僕は安堵の溜め息を吐いて、そのままアヤさんにそぉっと手を伸ばした。
前に髪を撫でた時にサラサラで気持ちが良かったから、ちょっとだけ触ってみたくなったのだ。

僕は恐る恐るシーツに散らばった艶やかな銀糸の髪をチョンと突つついてから身体を硬直させると、緊張を解く為に大きく息を吐いて、今度はそっと長い髪を持ち上げるようにして摘んでみた。

ふわぁ……
凄い。やっぱりサラサラで気持ちいいや…

僕は髪に触れながら、感動しつつアヤさんをついジッと観察していると、長い長い銀色の睫毛が細かく震え始めた。

？？？
マズイ？もしかして起きちゃう、とか？

僕はドキドキしながら髪を離し固まって見詰めていると、耐え切れないとばかりにアヤさんが「ぶはっ」と吹き出した。

そのまま身体を震わせて丸くなると、小さなくぐもった笑い声が内側から聞こえてくる。

「うくくくくく………も、も…ダメ、だ…」

身体を縮めて笑いを噛み殺していたアヤさんが、その直後にお腹を抱えて大笑いし始めた。

ヒーヒーとベッドの上を笑い転げながら、涙目で大爆笑するアヤさんに、僕は首まで真っ赤になって俯いた。

起きてたんだ…
起きてたのに寝たフリしてたなんて、酷い。酷いよ！

僕は余りにも恥ずかしくて、近くにあったタオルケットを引っ被って丸くなった。

「ぅわ！ゴメン！違うんだって！騙すつもりとかは全くなかったんだけど、目を覚ましたイツキが可愛い事してるもんだから最後まで見てみたくてさ…つい寝たフリしたら、起きるタイミングを逃しちゃって、だからホント、ホントにゴメンって！」