僕、勇者サマの養い子になりました

髙城

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「もうすぐ着くよ。この道沿いの左手すぐだから」

アヤさんはそう言うと、スピードを落として普通に歩き始めた。
すっかり日は落ちて辺りは暗くなり、藍色が茜色を押し潰したみたいになった空を見上げたアヤさんが、僕の背中をポンポンして嬉しそうに口を開いた。

「真っ暗になる前に着いて良かったよ。この世界には街灯って物がホント少なくて、日が落ちる前にみんなすぐ帰り支度を始めちゃうからね。だから普通の店は日没と共に閉店って事が多くて、夜遅くまで開いてる店っていうと飲み屋と娼館くらいなんじゃないかなぁ」
「そうなんですか…」
「うん。灯りを点ける魔道具マジックアイテムは希少だし、庶民にとって油は割と高価だからね。っと、ここだよ」

丸くなって眠る猫の形に切り抜かれた、木製の可愛らしい吊り看板が掛かった店の前で、アヤさんがピタリと足を止めた。
看板には『木洩れ日の眠り猫亭』と書かれていて、僕は看板にお似合いな可愛い店名に小さく笑みを浮かべた。

「ここの猫の看板が気に入ったみたいだね。良かった。じゃあ早速入ろうよ。ここね、店の内装も可愛いから、きっと驚くよ」

と、アヤさんが僕を抱っこから下ろしてドアを開け、手慣れた感じで店内へとエスコートしてくれた。

ーーうわぁ、ドアの高さが妙に低いぃ。
だからアヤさん、僕を下ろしてくれたのか…

僕は全然大丈夫だったけど、見ればアヤさんは少し腰を屈めてドアをくぐるようにして通っていたのだった。
っていうか、店内の家具のサイズが全部小振りでめちゃくちゃ可愛らしいんですけど!

僕は興味津々でキョロキョロと店内を見回していると、僕の背格好と似た感じの、同い年くらいの猫耳ウェイトレスさんと目が合った。

赤茶色の髪に同色の耳と尻尾の付いたウェイトレスさんは、手にモップのような物を持ち、ちょうど床掃除の真っ最中だった事に気が付いた。

「ごめんなさい、今日はもう閉店なんです」

で、勢い良く頭を下げられて、僕はどうしたらいいのか分からずに固まってしまった。

…ど、どうしよう?
アヤさん、閉店だって!

僕はオロオロとアヤさんを見ると、アヤさんは奥の厨房に向かっていきなり声を掛けた。

「ミケ、私だ!ミケーリュウス!」

ガタン!バタン!ガタタッ!

次の瞬間、奥の厨房らしき場所から物凄い音がして、白のコックコートを着た身長160cmくらいの猫耳青年が息を切らして現れた。

赤茶色の髪に右耳が黒で左耳が白のミケーリュウスさんは、琥珀色の目を嬉しそうに細めてアヤさんを見ると、深々と腰を折り曲げ、凄い勢いで頭を下げた。

「アヤト様ぁ!ようこそお越し下さいましたニャ!!」

~~~~ッッ!!?
アヤさん!
ニャって言ったよ!
今この人、ニャって言ったよッ!!
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