僕、勇者サマの養い子になりました

115.

「ごちそうさまでした」

アヤさんが満足そうに目を細めて深い息を吐いた時、料理を作って運んでいたミケーリュウスさん達は、まさに疲れ切った様子でテーブルに突っ伏したり、椅子で大の字に伸びていたりしていて凄い状態になっていた。

僕も慌てて「ごちそうさまでした」と頭を下げたけど、気付いて貰えたかは微妙な気がした程だ。

「ミケ、本当に美味しかったよ、ありがとう。以前に話してたペスカトーレもアクアパッツァも素晴らしい再現度だったし、また次回にでも時間があれば、新しいレシピの話をさせてくれ」
「是非！是非お願い致しますニャ、アヤト様！もうこれからでもいいくらい、今から楽しみですニャよ」

あんなにヘロヘロになってた癖に、ミケーリュウスさんは耳と尻尾をピンと立て、目を輝かせて素早くアヤさんの手を熱く握り締めた。

す、凄い情熱ですね。
ミケーリュウスさんは本当に、料理を作る事が大好きなんだなぁ。
料理に対する熱い思いが、見ているだけでもヒシヒシと伝わってきて、僕は何だか胸が温かくなった。

そんなに好きに…夢中になれる物があるって、いいな。

「パパ……今からは流石にヤメて」
「僕も同感」

二人の子供達からは心底げんなりした顔で見られてたけど、それは…まぁ仕方ないのかもね。
あの情熱に巻き込まれる方は大変そうだもんなぁ。

僕は家族三人の微笑ましい様子に思わず小さく笑ってしまった。

すると、バッと音がしそうな勢いで、三人に僕は凝視されてしまう。

え！？
ヤバイ！笑ったりしたらマズかった？
気を悪くした？

僕は焦って顔を青くすると、隣に座っているアヤさんに縋り付いた。

「あ、いや、怖がらせてしまってすみませんですニャ！イツキ様が笑顔を見せて下さったのが嬉しくて、つい…」
「そうなの！ごめんなさいイツキ様」
「僕も、ごめんなさい！」

三人から慌てて謝られ、そっとアヤさん越しに三人を覗き見ると、彼らは申し訳なさそうな顔で僕を見ていた。
さっきまでの微笑ましい雰囲気を台無しにしてしまって、謝るべきは僕の方なのに…こんな……

アヤさんは俯いた僕の肩を抱き寄せると、「イツキの笑顔が可愛かったからだよ」と頭を撫でてくれたのだった。

アヤさん……
前から思ってたんだけど、目がオカシイですよ、絶対。
『可愛い』の基準がマジで変！

「アレ？イツキは私が言う事を信じてくれないの？」
「信じてる…けど、でも僕なんかの事は…別です」
「僕なんか？」
「はい、そうです。だって僕は以前とほとんど変わってない筈なのに、急にそんな事を言われても…」
「信じられない？」
「…………はい。すみません」
「謝らなくていいよ。信じてくれるようになるまで、何回でも言うだけだからね」